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旅路
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大地の龍浄化の旅は、今のところ順調に進んでいる。
すでに旅程の3分の2を過ぎたところだ。
メンバーは、リカルド、タイラン、ユリアの他に、聖職者14名、地属性の魔術師14名、護衛兵20名と、小隊規模となった。
この人数ともなると小さな村では宿を押さえるのが難しく、村外れで野営となることもあった。
「そこにいるのは…ユリア嬢?こんな所で、どうされましたか?」
「リカルド先生?今日は蒸し暑くて、なかなか眠れなくて」
小川の微かなせせらぎと、葉擦れの音。
そこに時折虫の音が重なる。
「確かに今日は暑いですね。隣、良いですか?」
「もちろん!」
倒木に腰掛けたユリアの視界の端に、流星の尾のように輝く銀髪が揺れた。
「先生はどうしたんですか?こんな遅くに」
「少し星を眺めたいなと思いましてね」
星空を見上げるリカルドにつられて、ユリアも天上を仰ぎ見る。
「あと3日も進めば大地の龍の待つ鉱山に着きます。そうなると、しばらくは拝めませんからね」
「星が好きなんですか?」
(あ、しまった…この台詞はトリガーだ)
無意識に口を突いて出た言葉が、リカルドルートの好感度イベントの台詞とシンクロしていた。
「ええ、これから頑張ろうっていう時なんか、よく眺めてるんですよ。月並な表現ですけど、無数の星をみていると、この地上にも数えきれないほど人がいて、おそらく其々に悩みを抱えていて、私一人が特別なんじゃないと思えるんです」
ユリアに向けられた目線は、教師としてのものなのか、それともリカルド一個人としてのものなのか、不意に心を捉えられたように、心臓が落ち着かなくなる。
「不安…なんですか」
「不安もありますよ、陛下に地脈の流れを戻すなんて言ってしまったんですから。一度破壊された自然の理を、人の力で復元したという前例も有りませんしね。でもまあ、先ずはやってみない事には何にもなりません、結果が伴わなければその時にまた対策を考えましょう」
うーん、と、大きく伸びをしてリカルドは続けた。
「あー、生徒に不安を打ち明けちゃうなんて、教師としてはダメダメですね。かっこ悪い先生で申し訳ない」
「そんなことありません!リカルド先生はそのままで良いんです、かっこ悪くなんかない!だって、先生は不安でも逃げ出したりしてないじゃないですか」
今、ここに居ますよね!と、ユリアはリカルドの両手を掴んだ。
「不安でも良いよ、時には誰かに打ち明けても良いんだよ、だけど、逃げずに立ち向かうことが大事だよって、身をもって教えてくれてるじゃ無いですか!」
ビックリしたような顔で、ユリアの為すままにリカルドは固まったままだ。
「私も不安です!まだ一度も聖女の力を使ったことないし、龍を浄化できなかったらどうなるんだろうって怖い。でも、それで良いんですね。やってみなければ分からない事は全力でやってから。結果が伴わなければ、その時考えれば良いんですよね?」
少しだけ、言葉を選ぶようにして、リカルドは頷く。
「その通りです、まずは当たって砕けましょう、砕けないに越した事はないですがね」
二人は一頻り笑う。
「出会った時から、貴女は本当に私を楽にしてくれる。ユリア嬢、感謝します」
急に公爵家の令息の顔をして、リカルドは立ち上がり、礼をする。
「そんな、私なにも」
バサッとユリアの身体に、リカルドのローブが掛けられた。
「いいえ、私にとっては有難い事です」
そのままユリアを残し、テントへと向かいながらリカルドは微笑む。
「夜風が涼しくなってきましたから、貴女もそろそろ戻りなさいね?おやすみなさい、ユリア嬢、良い夢を」
「お、おやすみなさい!」
慌てて立ち上がると、大きなローブの裾が地面に着きそうになり、慌てて抱き込んだ。
リカルドの香りに包まれるようで、頬が赤く染まる。
(もうしばらくは眠れそうにないなぁ)
体の熱を外に放つように、深く息を吐き出してユリアも自身のテントへと向かう。
その後ろ姿を、見つめる姿が有った。
「あー、完全に出遅れたっ!」
苛立たしげに独り言を呟き、黒髪をガシガシと掻く。
(なにやってんだよ、ユリアは!…もうボクも遠慮なんかしない)
ローブの柘榴石が月明かりにキラリと輝いた。
すでに旅程の3分の2を過ぎたところだ。
メンバーは、リカルド、タイラン、ユリアの他に、聖職者14名、地属性の魔術師14名、護衛兵20名と、小隊規模となった。
この人数ともなると小さな村では宿を押さえるのが難しく、村外れで野営となることもあった。
「そこにいるのは…ユリア嬢?こんな所で、どうされましたか?」
「リカルド先生?今日は蒸し暑くて、なかなか眠れなくて」
小川の微かなせせらぎと、葉擦れの音。
そこに時折虫の音が重なる。
「確かに今日は暑いですね。隣、良いですか?」
「もちろん!」
倒木に腰掛けたユリアの視界の端に、流星の尾のように輝く銀髪が揺れた。
「先生はどうしたんですか?こんな遅くに」
「少し星を眺めたいなと思いましてね」
星空を見上げるリカルドにつられて、ユリアも天上を仰ぎ見る。
「あと3日も進めば大地の龍の待つ鉱山に着きます。そうなると、しばらくは拝めませんからね」
「星が好きなんですか?」
(あ、しまった…この台詞はトリガーだ)
無意識に口を突いて出た言葉が、リカルドルートの好感度イベントの台詞とシンクロしていた。
「ええ、これから頑張ろうっていう時なんか、よく眺めてるんですよ。月並な表現ですけど、無数の星をみていると、この地上にも数えきれないほど人がいて、おそらく其々に悩みを抱えていて、私一人が特別なんじゃないと思えるんです」
ユリアに向けられた目線は、教師としてのものなのか、それともリカルド一個人としてのものなのか、不意に心を捉えられたように、心臓が落ち着かなくなる。
「不安…なんですか」
「不安もありますよ、陛下に地脈の流れを戻すなんて言ってしまったんですから。一度破壊された自然の理を、人の力で復元したという前例も有りませんしね。でもまあ、先ずはやってみない事には何にもなりません、結果が伴わなければその時にまた対策を考えましょう」
うーん、と、大きく伸びをしてリカルドは続けた。
「あー、生徒に不安を打ち明けちゃうなんて、教師としてはダメダメですね。かっこ悪い先生で申し訳ない」
「そんなことありません!リカルド先生はそのままで良いんです、かっこ悪くなんかない!だって、先生は不安でも逃げ出したりしてないじゃないですか」
今、ここに居ますよね!と、ユリアはリカルドの両手を掴んだ。
「不安でも良いよ、時には誰かに打ち明けても良いんだよ、だけど、逃げずに立ち向かうことが大事だよって、身をもって教えてくれてるじゃ無いですか!」
ビックリしたような顔で、ユリアの為すままにリカルドは固まったままだ。
「私も不安です!まだ一度も聖女の力を使ったことないし、龍を浄化できなかったらどうなるんだろうって怖い。でも、それで良いんですね。やってみなければ分からない事は全力でやってから。結果が伴わなければ、その時考えれば良いんですよね?」
少しだけ、言葉を選ぶようにして、リカルドは頷く。
「その通りです、まずは当たって砕けましょう、砕けないに越した事はないですがね」
二人は一頻り笑う。
「出会った時から、貴女は本当に私を楽にしてくれる。ユリア嬢、感謝します」
急に公爵家の令息の顔をして、リカルドは立ち上がり、礼をする。
「そんな、私なにも」
バサッとユリアの身体に、リカルドのローブが掛けられた。
「いいえ、私にとっては有難い事です」
そのままユリアを残し、テントへと向かいながらリカルドは微笑む。
「夜風が涼しくなってきましたから、貴女もそろそろ戻りなさいね?おやすみなさい、ユリア嬢、良い夢を」
「お、おやすみなさい!」
慌てて立ち上がると、大きなローブの裾が地面に着きそうになり、慌てて抱き込んだ。
リカルドの香りに包まれるようで、頬が赤く染まる。
(もうしばらくは眠れそうにないなぁ)
体の熱を外に放つように、深く息を吐き出してユリアも自身のテントへと向かう。
その後ろ姿を、見つめる姿が有った。
「あー、完全に出遅れたっ!」
苛立たしげに独り言を呟き、黒髪をガシガシと掻く。
(なにやってんだよ、ユリアは!…もうボクも遠慮なんかしない)
ローブの柘榴石が月明かりにキラリと輝いた。
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