ヒロイン回帰!!〜めでたしめでたし、めでたくない?!〜

羽野 奏

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急峻の谷底で

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「ふぅん、結局6人全員と知り合っちゃったのか」
タイランは、手紙を丁寧に封筒に仕舞い直した。
(まさか、こんな贈り物が貰えるなんて思ってもなかったな)
ローブの前を、柘榴石のマント留めに付け直して、テントを後にする。
昨日の報告で、瓦礫の撤去作業が終わったと聞いている。
ようやく地脈の乱れが発生している場所まで進めるだろう。
集合場所に向かっていると、後ろから声がかかった。
「おや?タイラン君、なんだか嬉しそうですね」
「…リカルド先生は、本当にちゃんと先生なんですね」
「どうしました、いきなり」
何を言われたのか分からないといった様子で、学園の天才教師は困った顔をした。
「生徒の事をちゃんと見てるんだなーって思っただけです」
「ああ、なんだ。そんなの当たり前の事ですよ、ご家族から貴方をお預かりしているんですから。特に今は危険が伴いますし、無理させたくありませんからね」
「ーーっ、プレゼント貰ったんです、それが嬉しかった理由です」
この優しい教師に真正面から答えられて、何だか照れ臭かった。
「おぉーい、そろそろ出発するぞー!」
調査の開始を告げる声が響き、二人もそれに従った。

退けきれなかった大きな石や、倒木の合間を縫って進む。
リカルドを中心に、地属性持ちの魔術師が地脈の流れを辿り、その滞りを感じる場所まで進んでいく。
「止まって、止まってー!」
焦ったような声が聞こえ、後続の団員たちは何事かと立ち止まる。
「大地が裂けてる!地脈の乱れはこの下から感じるよ」
覗き込んでも、その谷底はあまりにも深く、暗い。
強い風が吹き抜けて、咆哮のような音が始終鳴り響いている。
「タイラン君、私を谷底まで転移できますか?」
以前と全く同じ台詞だな、と、タイランはぼんやり思い出す。
あの時ボクはこう言った。

ーーまず、この谷に底があるか分からないのでできません、危険すぎ。飛行スキル持ちにまず偵察してもらいましょ?ーー

でも今回は、次に何が有るのか既に知っている。わざわざ飛行スキル持ちに偵察させるまでもない。
「できますよ、でも、転移できるのはボクと先生だけになりますけど、いいですか?」
リカルドは周りを見渡して、異議を唱える者がいないか確認をした。
「ええ、私と二人で行きましょう」

谷底に無事に辿り着き、地脈の滞っている場所まで歩いて進む。
「もう少し先のようなんですけど、通れませんね」
リカルドが、目の前の岩に触れた。
「石槍生成」
背丈を少し超えるほどの大きさの岩がゴトゴトと動きだす。

ーービキビキッ!バゴォーン!!

目の前の障壁だった岩は、無数の尖った石つぶてとなってリカルドの周りに浮遊した。
「へぇ、こういう使い方もあるんだ」
「どの範囲を、どういう形状へ変化させたいかを具体的にイメージして起こさせる事象です、案外簡単ですよ。でも、範囲が広いと魔力の消費も激しいので、乱発できるものではないですけど」
「こんな所で課外授業受けるとは思わなかったです」
「良かった、道が続いてます。授業した甲斐がありました」
ぽっかり空いた穴からその先へと進む。
大きく開けた場所。
前回、大地の龍アースドラゴンと出会った場所だ。
「どうやら、ここが地脈の滞りの原点のようですね」
大地の魔素が濃く、緑に発光しているようにさえ思える。
地属性の適性のないタイランでさえそう感じるのだ、リカルドにはどう見えるのだろう?その疑問は直ぐに掻き消される。
「やはり居ましたね、大地の龍アースドラゴン
リカルドの声が響いた。
その声は、旧友と再会をした時のように、嬉しそうな色が滲み出ていた。
「地震の報を受けた時から、貴方に呼ばれている気がしていました」
微笑みを浮かべて、彼はドラゴンに触れ、会話をしている。
今回も、龍の声はタイランには聞こえない。
しばらくの時間が経ち、リカルドはタイランに声をかける。
「大変なことになりました!このままでは大地の龍アースドラゴンが、邪龍に堕ちてしまう」
(はいはい、知ってまーす。とは、言えないよね、これは)
タイランはリカルドから2度目の説明を受ける。
地脈を分断して坑道が掘られていたこと、エネルギーが滞って邪気が溜まっていること、大地の龍アースドラゴンを浄化しなければ甚大な被害が出ること、そしてその浄化ができるのは、唯一、聖女であるということ。
「早急に王宮へ報告し、彼女を…ユリア嬢を連れてこなくては」
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