上 下
20 / 49
(20)

予期せぬ邂逅

しおりを挟む
「今度はどこに行かれますか?」
「あ、えっと…あっちの通りの角の雑貨屋さんに」
「承知しました」
「あの、本当に一人で大丈夫なんで、イルミオ様もお暇じゃないでしょうし」
ユリアの一言に、イルミオは意外そうな顔をして首を傾げた。
「これは任務なのです。ユリア様は番犬でも散歩させているおつもりで、どうぞお気になさらず」
「あーもう!私、普段から護衛なんて連れてませんし、イルミオ様は犬じゃないんです。なにより、カリーナ様に申し訳ない!」
なぜこんな事になったか、それにはもちろん王子が関与している。
最初は、一緒にプレゼントを選びたいと言い出して、ミュゼリアと二人掛でなんとか止めた。
そうしたら次に、ギフト「聖女」持ちの私に護衛をつけると言う。
頑張って断ってみたが、ミュゼリアから護衛なしで街を歩くなんて有り得ないと言われ、押し負けた。
そして、護衛の任を仰せつかったのがイルミオという事である。

「なぜ、ここでカリーナが出てくるかは分かりませんが、王子からの御用命に背いて、貴女に何かあったら、私がただでは済まないでしょう。諦めて下さい」
「うっ…わ、分かりました」
テコでも動かないという意志を感じ、ユリアは肩を落とす。
ふと、ショウウィンドウを見ると、揃いの制服を着た男女が並んで歩く姿が写る。とても令嬢と護衛には見えない。
(変な噂が立ちませんように)
そう祈って、目的の場所まで歩を進めるのだった。

「うわぁー!綺麗」
雑貨屋に入って、まず目を引いたのが、銀細工のアクセサリーだった。
色々な石が嵌め込まれたデザインが美しい。
「それぞれ、効果が付与された魔石が嵌められていますね、なかなか良い品ですよ」
剣の房飾りを手に、イルミオが微笑む。
(欲しいのかな?今度、カリーナ様に教えよう)
「あ、この石、タイランそっくり」
女性物の髪留めに嵌っている、深い赤の柘榴石。
暗いところではタイランの髪の黒に、明るいところでは瞳の赤に見えて美しい。
「えっと、付与魔法は物理攻撃耐性…石言葉は友愛かぁ…男物だったらな」
「デザインの変更、可能ですよ」
雑貨屋の店員が嵌め替えのできる型を、いくつか出してくれた。
その時、外で騒ぎが起きる。

ーーガシャーン!

「え?なに??」
「少しみに行きます、貴女はここから動かずお待ち下さい」
機敏な動きでイルミオが店外に出る。
店員も不安そうに窓から外を眺めた。
しばらくして、店の扉が開く。
「イルミ…?!」
イルミオが戻ってきたのかと思い、近づくと、全く違う顔がこちらに振り向いた。
鳶色の髪、薄紫の瞳の青年。
「すみません、人違いでした」
(ロータスだわ!)
ユリアの言葉を受けて、フイと逸らされた視線に、ホッとする。
一歩間違えば、この暗殺者は私に牙を剥くのだ。
何をしに来たのかと考える間もなく、その答えが転がり込んで来た。
「ちょっと、貴方!いきなり乗り込むなんて….」
「カリーナ様?」
「あ、あら、奇遇ね。それにしても、この店狭いわね」
ユリアに見つかり、カリーナはバツが悪そうだ。
「表を見てきましたが、特に何もない様子でした。って、カリーナ?何故お前がここにいるんだよ」
ロータスは我関しない顔で何も語らない。カリーナは、動揺を隠しきれず、その腕を取った。
「わっ!わたくしは、この方とデートで来ましたの!!」
「はいぃっ?」
絶対に違うと分かるのは、ユリアがゲームとしてシナリオを知っているからだ。
「ほぅ、俺という婚約者がいるのに、どこの馬とも分からない男とデートだと?」
「あ、貴方こそ!ユリア様と仲良さそうにっ!!」
ぎゃんぎゃんとケンカが始まる。ユリアの手を店員がツンツンと突いた。
「これは犬も食わないというやつ?」
「え、ええ、ほぼ間違いなく」
「じゃあ、気にせずさっきの続きね」
こうして、無事にタイランへのプレゼントは決まった。
それでも治らない婚約者達のケンカに、呆れた様子のロータスがユリアに話しかける。
「オレがアンタを送ろう」
「えっ?」
「このままだと陽が落ちてもアイツらあのままだぜ、放っておけ」
「でも、勝手に帰ったら、イルミオ様の任務が…」
「大丈夫だろ、オレがアンタを無事に送り届けさえすればバレない」
ほらほら、と、追い立てられるように、雑貨屋を後にする。
「オレは公爵家の使いで、一人で街に出てったカリーナ嬢を見守るように、ミュゼリア様に言われたんだ」
ベルトに下げた札に、公爵家の印章が施されている。
「でもまあ、腕利きの婚約者と一緒ならもう良いだろう」
「雑貨屋に入ったのは、わざとね?」
「あのお嬢さん、いつまでも後を付け回しちゃグチグチねちねち、面倒臭かったんだよ」
聞いてるこっちの耳が腐りそうだった、と、耳に入った水を払うかのような素振りを見せる。
「アンタ、ミュゼリア様の友達だろ?護衛取っちゃったし、一人で帰らせたら、オレがお嬢様に叱られるんでね、家まで護衛されてくれ」
「分かったわ、私はユリア。よろしくね」
「ロータス、短い付き合いだけどよろしく」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

大好きだけどお別れしましょう〈完結〉

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:567

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:108

離縁は恋の始まり~サインランゲージ~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:489pt お気に入り:1,825

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:717pt お気に入り:6,443

成り上がり令嬢暴走日記!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:314

処理中です...