19 / 49
(19)
北の地から
しおりを挟む
ユリアへーー
まさか、キミから手紙が来るなんて思わなかったよ。
ボクにとっては嬉しい変化だ。
ミュゼリア嬢との間に何があったのか、すごく興味があるけど、それはまた帰ってから聞くとするね。
ボクの方は無事だよ。
リカルド先生と一緒に、元気に調査を進めているところ。
ただ、前回とは地脈の乱れがある場所が違うみたいなんだ。
そこまで行き着くのには瓦礫を退けたり、まだ時間がかかりそう。
これからいよいよ発見ともなれば、キミもこちらに来ることになるから、心の準備を忘れずに。
また、手紙をもらえると嬉しいな。
タイランより
お茶会が無事終わった夜、タイランからの手紙が届いた。
「早速、お返事書かなくちゃね」
お茶会を開いたこと、ミュゼリアが監修してくれた事などを書いて、ふとペンを止める。
「手紙と一緒に何か贈ってあげようかな」
そう思い立つと、なんだかワクワクしてきた。
「そうね、手紙だけだとつまらないもの、何を贈ろうかなぁ」
ベッドに落ち着いて、考えながら目を閉じる。
ーーそうだわ、明日の放課後、雑貨屋を見に行って決めよう。
「やあ、おはよう」
「アクシア殿下、ごきげんよう」
乙女ゲームの世界では既にテンプレ、隣の席が王子様という展開にももう慣れた。
話しかけられても余裕の受け答えができる。
「ミュゼリアから聞いたよ、昨日のお茶会は楽しかったかい?」
「はい!とても。ミュゼリア様がご指導下さったお陰です」
「ミュゼリアの指導はキツくなかったかい?私もダンスのレッスンを共にするが、彼女はなかなかに厳しいんだよ」
しいっ、と人差し指を口元にやって、秘密だよと笑う王子の顔は、本当に蕩けそうなほど甘い表現だ。
免疫がなければ心臓を掴まれていただろう。
「確かに厳しくはありますが、きちんとした根拠を元に指導して下さいますし、なによりも失敗させて恥をかかせないための、愛情の裏返しと心得ておりますので」
王子は意外そうな顔をして、それから再び微笑んだ。
「そうか、君はミュゼリアの良いところをしっかり理解しているんだね」
「ええ、ミュゼリア様は甘いだけではなく、厳しいからこそ優しいのですわ」
胸を張って、笑顔で答える。
なんとなく微笑みあっていると、件のミュゼリアが現れた。
「あら、お二人とも朝から楽しそうですわね」
「ユリア様、ちょっと王子殿下を相手にに馴れ馴れしいのでは?」
「身分を弁えなさい、男爵家の令嬢ごときが、気軽に話しかけて良い相手ではないわ」
取り巻き達が非難の声をあげるのを制したのは、王子ではなくミュゼリア自身だった。
「貴女がた、少し控えて。ここは格式高い式典の場でも、王宮内でも無いのです。それに、きっと今は、殿下からお声掛けなさったのでしょう。であれば、応えない方が不敬に当たるというものよ」
太鼓持ちに失敗した取り巻きは、明らかに動揺している様子だ。
「ですがミュゼリア様、明らかに見つめあって微笑んでましたわ」
「婚約者のいる男性に対して、距離が近すぎます」
「確かに私が先にユリア嬢に話しかけた。それで誤解が生まれたのなら、私が彼女に謝ろう。ミュゼリア、不快にさせて申し訳ない。ユリアも、すまなかったね」
取り巻きの言葉を受けて、すぐに動いたのは王子だった。
「と、とんでもございません!殿下が謝る必要などっ!」
「そうですよ、ミュゼリア様は優しいねって話してただけで、アクシア殿下が謝るんですか」
援護射撃とばかりに、ユリアも声を発する。
取り巻き達が押し黙ったところで、王子が再び口を開く。
「では、折角だしミュゼリアも含めて、話の続きをしようか」
「そうですね!それなら誤解されませんもんね」
「え?は、はい」
王子に近場の席を勧められて、ミュゼリアは素直に従う。
「そういえばユリア嬢、今朝は何だか楽しげだね」
「はい、昨日タイラン様からお手紙が届きまして」
「そうなんだ、タイラン君とは仲が良いんだね」
「偶然ですけど、そうですね。それで、返事のついでにプレゼントでも買いに行こうかと」
「それは良いね、学園生活もまだ満足に送っていないうちから、すぐに調査に駆り出されて大変だろうし…」
王子とユリアの間で交わされる言葉のほとんどが、耳から抜けて行く。
ミュゼリアの脳内は一つの考えでいっぱいだった。
ーー王子がユリアと私が優しいと会話した?なに?なんなの?凄~く気になる!!
まさか、キミから手紙が来るなんて思わなかったよ。
ボクにとっては嬉しい変化だ。
ミュゼリア嬢との間に何があったのか、すごく興味があるけど、それはまた帰ってから聞くとするね。
ボクの方は無事だよ。
リカルド先生と一緒に、元気に調査を進めているところ。
ただ、前回とは地脈の乱れがある場所が違うみたいなんだ。
そこまで行き着くのには瓦礫を退けたり、まだ時間がかかりそう。
これからいよいよ発見ともなれば、キミもこちらに来ることになるから、心の準備を忘れずに。
また、手紙をもらえると嬉しいな。
タイランより
お茶会が無事終わった夜、タイランからの手紙が届いた。
「早速、お返事書かなくちゃね」
お茶会を開いたこと、ミュゼリアが監修してくれた事などを書いて、ふとペンを止める。
「手紙と一緒に何か贈ってあげようかな」
そう思い立つと、なんだかワクワクしてきた。
「そうね、手紙だけだとつまらないもの、何を贈ろうかなぁ」
ベッドに落ち着いて、考えながら目を閉じる。
ーーそうだわ、明日の放課後、雑貨屋を見に行って決めよう。
「やあ、おはよう」
「アクシア殿下、ごきげんよう」
乙女ゲームの世界では既にテンプレ、隣の席が王子様という展開にももう慣れた。
話しかけられても余裕の受け答えができる。
「ミュゼリアから聞いたよ、昨日のお茶会は楽しかったかい?」
「はい!とても。ミュゼリア様がご指導下さったお陰です」
「ミュゼリアの指導はキツくなかったかい?私もダンスのレッスンを共にするが、彼女はなかなかに厳しいんだよ」
しいっ、と人差し指を口元にやって、秘密だよと笑う王子の顔は、本当に蕩けそうなほど甘い表現だ。
免疫がなければ心臓を掴まれていただろう。
「確かに厳しくはありますが、きちんとした根拠を元に指導して下さいますし、なによりも失敗させて恥をかかせないための、愛情の裏返しと心得ておりますので」
王子は意外そうな顔をして、それから再び微笑んだ。
「そうか、君はミュゼリアの良いところをしっかり理解しているんだね」
「ええ、ミュゼリア様は甘いだけではなく、厳しいからこそ優しいのですわ」
胸を張って、笑顔で答える。
なんとなく微笑みあっていると、件のミュゼリアが現れた。
「あら、お二人とも朝から楽しそうですわね」
「ユリア様、ちょっと王子殿下を相手にに馴れ馴れしいのでは?」
「身分を弁えなさい、男爵家の令嬢ごときが、気軽に話しかけて良い相手ではないわ」
取り巻き達が非難の声をあげるのを制したのは、王子ではなくミュゼリア自身だった。
「貴女がた、少し控えて。ここは格式高い式典の場でも、王宮内でも無いのです。それに、きっと今は、殿下からお声掛けなさったのでしょう。であれば、応えない方が不敬に当たるというものよ」
太鼓持ちに失敗した取り巻きは、明らかに動揺している様子だ。
「ですがミュゼリア様、明らかに見つめあって微笑んでましたわ」
「婚約者のいる男性に対して、距離が近すぎます」
「確かに私が先にユリア嬢に話しかけた。それで誤解が生まれたのなら、私が彼女に謝ろう。ミュゼリア、不快にさせて申し訳ない。ユリアも、すまなかったね」
取り巻きの言葉を受けて、すぐに動いたのは王子だった。
「と、とんでもございません!殿下が謝る必要などっ!」
「そうですよ、ミュゼリア様は優しいねって話してただけで、アクシア殿下が謝るんですか」
援護射撃とばかりに、ユリアも声を発する。
取り巻き達が押し黙ったところで、王子が再び口を開く。
「では、折角だしミュゼリアも含めて、話の続きをしようか」
「そうですね!それなら誤解されませんもんね」
「え?は、はい」
王子に近場の席を勧められて、ミュゼリアは素直に従う。
「そういえばユリア嬢、今朝は何だか楽しげだね」
「はい、昨日タイラン様からお手紙が届きまして」
「そうなんだ、タイラン君とは仲が良いんだね」
「偶然ですけど、そうですね。それで、返事のついでにプレゼントでも買いに行こうかと」
「それは良いね、学園生活もまだ満足に送っていないうちから、すぐに調査に駆り出されて大変だろうし…」
王子とユリアの間で交わされる言葉のほとんどが、耳から抜けて行く。
ミュゼリアの脳内は一つの考えでいっぱいだった。
ーー王子がユリアと私が優しいと会話した?なに?なんなの?凄~く気になる!!
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる