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悪役令嬢と私と犬と
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タイランが北に向かって、もう10日が経っていた。
結局、街に出かけることもなく、イルミオとの出会いイベントは発生しないままでいる。
入学式でミュゼリアに目をつけられた私は、令嬢方からは煙たがられているけれど、一人ぼっちにはなっていない。
何故ならーー
「ユリア嬢、おはよう」
「ごきげんよう、アクシア殿下」
「昨日の課題はできたかい?」
「はい、殿下のアドバイスのお陰で、なんとか解けました」
「それは良かった」
隣の席のアクシアが、なにかと話しかけてくるのだ。
攻略対象とヒロインなのだから、ストーリー的には正しい位置関係と言える。
それでも、前回の人生を経験した私にとっては避けたい状況ではあった。
(ああ、見てる、ミュゼリア様が凄い顔で見てる!)
だからといって、王子を無碍に扱ってもきっとミュゼリアには疎まれるだろう。
(あーもう、どうしろっていうのよ!)
タイランが居てくれたら、彼を口実に上手く逃げられただろう。
ユリアは、決意した。
今世こそ、「女友達を作ろう」と。
昼休みになり、リノと共に中庭の東屋で弁当を広げる。
「ねぇ、リノ」
「どうされました?」
お茶を淹れる手は止めずに、リノは顔だけをこちらに向けた。
「女の子の友達って、どうやったら作れるのかしら」
「今更ですか?」
「そう、今更…って、リノ結構ズバッというわね」
「繕っても仕方ないじゃないですか、それより、お嬢様が女性のお友達が欲しいなんて思っているとは知りませんでした」
目の前に差し出された、淹れたてのお茶がフワリと甘く香った。
「え、普通にお友達欲しいわよ」
「そうなんですか?幼少の頃から、あまり同年代の方とはお遊びにならなかったので、お一人がお好きなのかと思っておりました」
転生前のユリア・ド・ドルチェランがどう過ごしていたかなんて、考えても見なかったが、案外引っ込み思案だったのかも知れない。
もしくは得体の知れないギフト「聖女」を持て余して、他人との関わりを避けていた可能性もある。
「ひとまずはお茶会を開かれてはどうでしょう?」
「え、お茶会?」
過去に想いを馳せていて、リノからの思わぬ提案に思考が付いていかなかった。
「ですから、お友達をお作りになりたいのであれば、お嬢様はデビュタントも終わられてますし、自らお茶会を開かれてはどうかと思うのです」
「自分でお茶会を?」
学園で話しかけるのさえ難しいのに、いきなり家に呼ぶなんてかなりハードルが高いと思う
「何もしなければ状況は打破できませんでしょう?まずは、場を用意するのです」
「確かにそうかも…」
ーーキャウッ!!
「え?犬??」
「ハッハッ!キャンッ」
足先に、マルチーズと思しき毛玉が尻尾を振っている。
「犬でございますね、首輪をしておりますし、どなたかの飼い犬ですかね。これ、本物のダイヤですよ」
赤い首輪にダイヤが嵌め込まれた銀のタグ、金持ちの飼い犬である事は間違い無いだろう。
「キャウン」
「あ、こら!!」
静止も間に合わず、珍客は鳥のグリルを挟んだサンドウィッチに飛びかかっていた。
「ちょっとユリア様よろしいかし…」
ーーガシャーン!!
「きゃー!ちょっと、アンタ、私のお昼ご飯ー!って、ミュゼリア様?」
はぐはぐと鳥を頬張る犬と、いきなり現れたミュゼリア。
混沌である。
(誰かこの状況を説明してー!!)
心の声は、虚しく響くのだった
結局、街に出かけることもなく、イルミオとの出会いイベントは発生しないままでいる。
入学式でミュゼリアに目をつけられた私は、令嬢方からは煙たがられているけれど、一人ぼっちにはなっていない。
何故ならーー
「ユリア嬢、おはよう」
「ごきげんよう、アクシア殿下」
「昨日の課題はできたかい?」
「はい、殿下のアドバイスのお陰で、なんとか解けました」
「それは良かった」
隣の席のアクシアが、なにかと話しかけてくるのだ。
攻略対象とヒロインなのだから、ストーリー的には正しい位置関係と言える。
それでも、前回の人生を経験した私にとっては避けたい状況ではあった。
(ああ、見てる、ミュゼリア様が凄い顔で見てる!)
だからといって、王子を無碍に扱ってもきっとミュゼリアには疎まれるだろう。
(あーもう、どうしろっていうのよ!)
タイランが居てくれたら、彼を口実に上手く逃げられただろう。
ユリアは、決意した。
今世こそ、「女友達を作ろう」と。
昼休みになり、リノと共に中庭の東屋で弁当を広げる。
「ねぇ、リノ」
「どうされました?」
お茶を淹れる手は止めずに、リノは顔だけをこちらに向けた。
「女の子の友達って、どうやったら作れるのかしら」
「今更ですか?」
「そう、今更…って、リノ結構ズバッというわね」
「繕っても仕方ないじゃないですか、それより、お嬢様が女性のお友達が欲しいなんて思っているとは知りませんでした」
目の前に差し出された、淹れたてのお茶がフワリと甘く香った。
「え、普通にお友達欲しいわよ」
「そうなんですか?幼少の頃から、あまり同年代の方とはお遊びにならなかったので、お一人がお好きなのかと思っておりました」
転生前のユリア・ド・ドルチェランがどう過ごしていたかなんて、考えても見なかったが、案外引っ込み思案だったのかも知れない。
もしくは得体の知れないギフト「聖女」を持て余して、他人との関わりを避けていた可能性もある。
「ひとまずはお茶会を開かれてはどうでしょう?」
「え、お茶会?」
過去に想いを馳せていて、リノからの思わぬ提案に思考が付いていかなかった。
「ですから、お友達をお作りになりたいのであれば、お嬢様はデビュタントも終わられてますし、自らお茶会を開かれてはどうかと思うのです」
「自分でお茶会を?」
学園で話しかけるのさえ難しいのに、いきなり家に呼ぶなんてかなりハードルが高いと思う
「何もしなければ状況は打破できませんでしょう?まずは、場を用意するのです」
「確かにそうかも…」
ーーキャウッ!!
「え?犬??」
「ハッハッ!キャンッ」
足先に、マルチーズと思しき毛玉が尻尾を振っている。
「犬でございますね、首輪をしておりますし、どなたかの飼い犬ですかね。これ、本物のダイヤですよ」
赤い首輪にダイヤが嵌め込まれた銀のタグ、金持ちの飼い犬である事は間違い無いだろう。
「キャウン」
「あ、こら!!」
静止も間に合わず、珍客は鳥のグリルを挟んだサンドウィッチに飛びかかっていた。
「ちょっとユリア様よろしいかし…」
ーーガシャーン!!
「きゃー!ちょっと、アンタ、私のお昼ご飯ー!って、ミュゼリア様?」
はぐはぐと鳥を頬張る犬と、いきなり現れたミュゼリア。
混沌である。
(誰かこの状況を説明してー!!)
心の声は、虚しく響くのだった
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