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その暗黒の先に

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西の魔物、北の大地の龍アースドラゴンと、受難が続く中、今度は南で問題が起きた。
商業大国である南の新興国の軍勢が北上を始めたというのである。
先遣隊の隊長は王太子ジョシュア。
議会は混迷を極めた。
狙われる理由が分からないのだ。
「さして資源もなければ、財政が潤っているわけでもないのに…」
「まさか、海を挟んだ国を攻めようなどとは、常軌を逸している」
「ドラゴンの存在があるからやも知れん」
邪龍カオスドラゴンに落ちかけているというのに、その存在になんの価値があるというのか」
ああでもない、こうでもないと一向に進まない会議に、ついにアンドレが口を出す。
「あちらが王太子を出すなら、こちらは私が出よう。各領地から派兵すること、人数は後ほど領民の割合から算出したものを知らせる、本日は以上だ!」
強引に閉会に持ち込み、さっさと席を立つ。その姿が見えなくなると、議員たちは口々に不満を噴出させた。
「領民の割合でって、うちは西の森の討伐に派兵してるんだから、すでに手一杯だぞ」
「うちは北の討伐のために兵が裂かれるのに、そういう事情は組んでもらわないと」
「今から戦争だって?!前回の軍費の補填さえ終わってないのに、冗談じゃない。また、こちらで立て替えた分を踏み倒されるに違いない」
回復薬ポーションだって、うちの聖属性持ち、北に派遣されてるから用意できないぞ、回復薬ポーションなしで戦地に行けと?」
「ああ、聖女さえ生きていたら…西と北は問題なかったのに」
誰かが放ったその一言がやけに大きく響いた。
「そうだ、聖女を屠った者たちが悪いのだ!」
「私は反対したぞ」
「私だって」
この日を皮切りに、国王派と王弟派の対立が深まり、貴族同士の連携も取れないまま、開戦を迎え、南の新興国に惨敗を喫した。
前回、辛くも防衛できたのは、北の鉱山地帯で潤沢に取れていた鉄鉱石で作った武器や防具と、ユリアが大量に生成していた回復薬ポーションのおかげであったと思い知らされたのだ。
そのまま南の新興国の従属国となり、国の威信は地に堕ちた。

だが、希望の光は再び灯されたのだ。

新たなギフト「聖女」を持つ子供が、洗礼の儀で発見されたというのである。
その子供は国中で大々的に歓迎され、持て囃された。

ーー反吐が出るねぇ。

タイランは、この聖女への掌返しに不快感を露わにした。
きっと、この後西の魔物は減っていくだろう。
大地の龍アースドラゴンも持ち直すかも知れない。
従属国に堕ちても、聖女のいる国として、搾取されるだけの一方的な支配からは抜け出せるかも知れない。

でも、それで無かったことにされるのか?
ユリアの無念はどうなるんだ。

ーーああ、ボクは、もうこんな世界には居たくないよ。キミの元へ、もう一度、キミに会いたい。

時間遡行リバース!!

失敗すればそれまで。
亜空間を彷徨う魂だけの存在に成り果てるかも知れない。
成功すれば彼女にもう一度会えるだろう。

それでもいい、それでいい。
闇に溶けるように、意識が黒く塗り潰されていく。
タイランは、不思議と安らかな気持ちでそれを受け入れた。
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