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暗黒の訪れ
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ギフト「聖女」について
聖女という言葉から、なんらかの災いを避けるだとか、魔を浄化するとか、憶測は多々あれど、その実どのような効果があるのか、発動条件は何かなど明確な所は誰にも分からなかった。
魔塔に入塔後、ボクはギフトについて研究を重ねた。
まずは過去のギフト持ちの記録を読み漁り、ギフトを与えられる人間の共通点などを調べた。
次に自分のギフトについて知るために、様々な角度から実験を行った。
場所、物質、時間や距離、延々と試しては記録をした。
それから、ギフト「聖女」について調査を開始した。
それは国王となった元学友のアクシアからの依頼でもあったし、同じく同窓生のユリアの存在自体に、興味があったからでもあった。
「ごめんね、何度も呼び立てて」
ユリアは会いに行くたびに、ボクに申し訳なさそうにする。
「いや、いいよ、ボクとキミとの仲じゃない」
彼女はボクの気持ちに気付いていると思う。本当ならボクを遠ざけるべきだと分かっているのに出来ないでいる。
「それに、ボク以外の誰がキミのギフトを解明できると思う?」
そう、それが彼女がボクを遠ざけられない理由だ。
ギフトの能力を発現出来ていない彼女は、陰で似非聖女などと揶揄され始めていた。
刻一刻と旗色は悪くなっている。
焦るのも分かる。
「さあ、今日も魔力の解放から始めよう」
「ええ、そうね…頑張るわ」
聖女であると証明できなければ、正妃の座に就くことは叶わないだろう。
それどころか、国王を謀ったと罪を負わせられかねない。
ボクに頼るしかないという彼女の不幸な状況を、不謹慎にもボクは嬉しく感じていた。
そして、運命の日が来たのだ。
戦争が始まってから、ボクは防衛のために戦地に赴いていた。
終戦を迎えても後処理の為にその場に残され、召還されないまま時間は過ぎて行く。
彼女が処刑されると聞いたのは、魔塔に帰還命令が出たその日の事だった。
急いで駆けつけた時には既に、ユリアが処刑台に上がる日の朝だった。
手を回すにも遅すぎて、ただ処刑の時間を待つしかできなかった。
ーーボクが、もっとちゃんと調べて、聖女の力を発現させてあげられていたら!!
彼女の首に、刃物が落とされる瞬間、一つの術式に思い至った。
ギフト「空間転移」は、今居るこの場所一点と、別の場所の一点を、亜空間で繋げて、転移させるものだ。
そこに、時間は関係ないのかもしれない。
ならばーー
「時間遡行!!」
彼女を、過去に飛ばして仕舞えばいい。
術の発動と、彼女の首が落ちたのがどちらか先かは分からない。
成功したかもわからない。
ただボクは、今の彼女の体と、過去の彼女の体を、亜空間で繋げて、こちら側から過去に向かって魂を押し出したのだ。
明確な座標を示した訳ではないから、もし成功していても彼女が何歳まで遡行したかも分からない。
「生きて、できれば幸せに」
処刑後、彼女の亡骸は西の森に捨てられた。
そこから次々と事件が起こったのである。
まずは彼女が捨てられた西の森に、強力な魔物が出始め、王都近郊までその脅威が迫ることもあった。
ボクは王弟からの指示で調査をすることとなる。
「では、あの女の魔力を肉体ごと喰らったことが原因だと?」
「ええ、ギフトを与えられる程の魔力量があった訳ですから、死後の肉ですら魔物に影響を与えたのかと」
「死してなお、面倒な女め、忌々しい」
(ボクにとっては、貴方のほうが忌々しいけどね)
心で毒づいて、顔は平成を装ったまま、ボクは頭を下げる。
「引き続き、調査を続行致しましょう」
なんだか、このままでは終わらない予感がする。
きっと彼らは後悔することになる。
ボクはその焦燥を、最前列で観覧することにしよう。
西の魔物は討伐しても、増える一方だった。
最早、彼女の死肉を食べた云々という規模ではありえない数の魔物が確認され、近衛騎士たちさえも討伐に駆り出される事態になっていた。
「調査の結果、森の瘴気がどんどん濃くなっているようですね」
「原因は?何故急にそんな事に」
「いいえ急な事では無く、文献によると
、昔からあの森には瘴気が溜まりやすかったそうですけど」
ボクは王弟の次の問いを待った。
「では、何故今までは瘴気を抑えられていた?」
その、当然思い至る質問に、ボクは身震いした。
「魔塔に西の森を研究している魔物学者がいましてね、彼の記録では、ここ18年ほどは瘴気が抑えられていたらしいですよ」
「18年…なぜその期間だけ?18年とはまた微妙な数字だ」
思い当たる節がないという様子で、王弟は考え込んでしまった。
ボクの心に少しの苛立ちが混じる。
「おや、もうお忘れですか。その期間はこの国に聖女が居たではないですか」
「はっ?馬鹿な、あの女にそんな力があるわけがない」
鼻で笑って、取り合わない王弟にボクは一言だけ付け足して報告を終えた。
「ボクは、ギフト「聖女」に関しては、受動的能力だと考えております、だとすれば、彼女が居なくなった事で、もしかすると他にも不具合が起こるかもしれませんよ、それでは失礼致します」
聖女という言葉から、なんらかの災いを避けるだとか、魔を浄化するとか、憶測は多々あれど、その実どのような効果があるのか、発動条件は何かなど明確な所は誰にも分からなかった。
魔塔に入塔後、ボクはギフトについて研究を重ねた。
まずは過去のギフト持ちの記録を読み漁り、ギフトを与えられる人間の共通点などを調べた。
次に自分のギフトについて知るために、様々な角度から実験を行った。
場所、物質、時間や距離、延々と試しては記録をした。
それから、ギフト「聖女」について調査を開始した。
それは国王となった元学友のアクシアからの依頼でもあったし、同じく同窓生のユリアの存在自体に、興味があったからでもあった。
「ごめんね、何度も呼び立てて」
ユリアは会いに行くたびに、ボクに申し訳なさそうにする。
「いや、いいよ、ボクとキミとの仲じゃない」
彼女はボクの気持ちに気付いていると思う。本当ならボクを遠ざけるべきだと分かっているのに出来ないでいる。
「それに、ボク以外の誰がキミのギフトを解明できると思う?」
そう、それが彼女がボクを遠ざけられない理由だ。
ギフトの能力を発現出来ていない彼女は、陰で似非聖女などと揶揄され始めていた。
刻一刻と旗色は悪くなっている。
焦るのも分かる。
「さあ、今日も魔力の解放から始めよう」
「ええ、そうね…頑張るわ」
聖女であると証明できなければ、正妃の座に就くことは叶わないだろう。
それどころか、国王を謀ったと罪を負わせられかねない。
ボクに頼るしかないという彼女の不幸な状況を、不謹慎にもボクは嬉しく感じていた。
そして、運命の日が来たのだ。
戦争が始まってから、ボクは防衛のために戦地に赴いていた。
終戦を迎えても後処理の為にその場に残され、召還されないまま時間は過ぎて行く。
彼女が処刑されると聞いたのは、魔塔に帰還命令が出たその日の事だった。
急いで駆けつけた時には既に、ユリアが処刑台に上がる日の朝だった。
手を回すにも遅すぎて、ただ処刑の時間を待つしかできなかった。
ーーボクが、もっとちゃんと調べて、聖女の力を発現させてあげられていたら!!
彼女の首に、刃物が落とされる瞬間、一つの術式に思い至った。
ギフト「空間転移」は、今居るこの場所一点と、別の場所の一点を、亜空間で繋げて、転移させるものだ。
そこに、時間は関係ないのかもしれない。
ならばーー
「時間遡行!!」
彼女を、過去に飛ばして仕舞えばいい。
術の発動と、彼女の首が落ちたのがどちらか先かは分からない。
成功したかもわからない。
ただボクは、今の彼女の体と、過去の彼女の体を、亜空間で繋げて、こちら側から過去に向かって魂を押し出したのだ。
明確な座標を示した訳ではないから、もし成功していても彼女が何歳まで遡行したかも分からない。
「生きて、できれば幸せに」
処刑後、彼女の亡骸は西の森に捨てられた。
そこから次々と事件が起こったのである。
まずは彼女が捨てられた西の森に、強力な魔物が出始め、王都近郊までその脅威が迫ることもあった。
ボクは王弟からの指示で調査をすることとなる。
「では、あの女の魔力を肉体ごと喰らったことが原因だと?」
「ええ、ギフトを与えられる程の魔力量があった訳ですから、死後の肉ですら魔物に影響を与えたのかと」
「死してなお、面倒な女め、忌々しい」
(ボクにとっては、貴方のほうが忌々しいけどね)
心で毒づいて、顔は平成を装ったまま、ボクは頭を下げる。
「引き続き、調査を続行致しましょう」
なんだか、このままでは終わらない予感がする。
きっと彼らは後悔することになる。
ボクはその焦燥を、最前列で観覧することにしよう。
西の魔物は討伐しても、増える一方だった。
最早、彼女の死肉を食べた云々という規模ではありえない数の魔物が確認され、近衛騎士たちさえも討伐に駆り出される事態になっていた。
「調査の結果、森の瘴気がどんどん濃くなっているようですね」
「原因は?何故急にそんな事に」
「いいえ急な事では無く、文献によると
、昔からあの森には瘴気が溜まりやすかったそうですけど」
ボクは王弟の次の問いを待った。
「では、何故今までは瘴気を抑えられていた?」
その、当然思い至る質問に、ボクは身震いした。
「魔塔に西の森を研究している魔物学者がいましてね、彼の記録では、ここ18年ほどは瘴気が抑えられていたらしいですよ」
「18年…なぜその期間だけ?18年とはまた微妙な数字だ」
思い当たる節がないという様子で、王弟は考え込んでしまった。
ボクの心に少しの苛立ちが混じる。
「おや、もうお忘れですか。その期間はこの国に聖女が居たではないですか」
「はっ?馬鹿な、あの女にそんな力があるわけがない」
鼻で笑って、取り合わない王弟にボクは一言だけ付け足して報告を終えた。
「ボクは、ギフト「聖女」に関しては、受動的能力だと考えております、だとすれば、彼女が居なくなった事で、もしかすると他にも不具合が起こるかもしれませんよ、それでは失礼致します」
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