ヒロイン回帰!!〜めでたしめでたし、めでたくない?!〜

羽野 奏

文字の大きさ
上 下
7 / 49
(7)

暗黒の訪れ

しおりを挟む
ギフト「聖女」について
聖女という言葉から、なんらかの災いを避けるだとか、魔を浄化するとか、憶測は多々あれど、その実どのような効果があるのか、発動条件は何かなど明確な所は誰にも分からなかった。

魔塔に入塔後、ボクはギフトについて研究を重ねた。
まずは過去のギフト持ちの記録を読み漁り、ギフトを与えられる人間の共通点などを調べた。
次に自分のギフトについて知るために、様々な角度から実験を行った。
場所、物質、時間や距離、延々と試しては記録をした。
それから、ギフト「聖女」について調査を開始した。
それは国王となった元学友のアクシアからの依頼でもあったし、同じく同窓生のユリアの存在自体に、興味があったからでもあった。

「ごめんね、何度も呼び立てて」
ユリアは会いに行くたびに、ボクに申し訳なさそうにする。
「いや、いいよ、ボクとキミとの仲じゃない」
彼女はボクの気持ちに気付いていると思う。本当ならボクを遠ざけるべきだと分かっているのに出来ないでいる。
「それに、ボク以外の誰がキミのギフトを解明できると思う?」
そう、それが彼女がボクを遠ざけられない理由だ。
ギフトの能力を発現出来ていない彼女は、陰で似非聖女などと揶揄され始めていた。
刻一刻と旗色は悪くなっている。
焦るのも分かる。
「さあ、今日も魔力の解放から始めよう」
「ええ、そうね…頑張るわ」
聖女であると証明できなければ、正妃の座に就くことは叶わないだろう。
それどころか、国王を謀ったと罪を負わせられかねない。
ボクに頼るしかないという彼女の不幸な状況を、不謹慎にもボクは嬉しく感じていた。

そして、運命の日が来たのだ。

戦争が始まってから、ボクは防衛のために戦地に赴いていた。
終戦を迎えても後処理の為にその場に残され、召還されないまま時間は過ぎて行く。
彼女が処刑されると聞いたのは、魔塔に帰還命令が出たその日の事だった。

急いで駆けつけた時には既に、ユリアが処刑台に上がる日の朝だった。
手を回すにも遅すぎて、ただ処刑の時間を待つしかできなかった。

ーーボクが、もっとちゃんと調べて、聖女の力を発現させてあげられていたら!!

彼女の首に、刃物が落とされる瞬間、一つの術式に思い至った。
ギフト「空間転移」は、今居るこの場所一点と、別の場所の一点を、亜空間で繋げて、転移させるものだ。
そこに、時間は関係ないのかもしれない。
ならばーー

時間遡行リバース!!」

彼女を、過去に飛ばして仕舞えばいい。

術の発動と、彼女の首が落ちたのがどちらか先かは分からない。
成功したかもわからない。
ただボクは、今の彼女の体と、過去の彼女の体を、亜空間で繋げて、こちら側から過去に向かって魂を押し出したのだ。

明確な座標を示した訳ではないから、もし成功していても彼女が何歳まで遡行したかも分からない。
「生きて、できれば幸せに」

処刑後、彼女の亡骸は西の森に捨てられた。
そこから次々と事件が起こったのである。
まずは彼女が捨てられた西の森に、強力な魔物が出始め、王都近郊までその脅威が迫ることもあった。
ボクは王弟からの指示で調査をすることとなる。
「では、あの女の魔力を肉体ごと喰らったことが原因だと?」
「ええ、ギフトを与えられる程の魔力量があった訳ですから、死後の肉ですら魔物に影響を与えたのかと」
「死してなお、面倒な女め、忌々しい」
(ボクにとっては、貴方のほうが忌々しいけどね)
心で毒づいて、顔は平成を装ったまま、ボクは頭を下げる。
「引き続き、調査を続行致しましょう」
なんだか、このままでは終わらない予感がする。
きっと彼らは後悔することになる。
ボクはその焦燥を、最前列で観覧することにしよう。

西の魔物は討伐しても、増える一方だった。
最早、彼女の死肉を食べた云々という規模ではありえない数の魔物が確認され、近衛騎士たちさえも討伐に駆り出される事態になっていた。
「調査の結果、森の瘴気がどんどん濃くなっているようですね」
「原因は?何故急にそんな事に」
「いいえ急な事では無く、文献によると
、昔からあの森には瘴気が溜まりやすかったそうですけど」
ボクは王弟の次の問いを待った。
「では、何故今までは瘴気を抑えられていた?」
その、当然思い至る質問に、ボクは身震いした。
「魔塔に西の森を研究している魔物学者がいましてね、彼の記録では、ここ18年ほどは瘴気が抑えられていたらしいですよ」
「18年…なぜその期間だけ?18年とはまた微妙な数字だ」
思い当たる節がないという様子で、王弟は考え込んでしまった。
ボクの心に少しの苛立ちが混じる。
「おや、もうお忘れですか。その期間はこの国に聖女が居たではないですか」
「はっ?馬鹿な、あの女にそんな力があるわけがない」
鼻で笑って、取り合わない王弟にボクは一言だけ付け足して報告を終えた。
「ボクは、ギフト「聖女」に関しては、受動的パッシブ能力だと考えております、だとすれば、彼女が居なくなった事で、もしかすると他にも不具合が起こるかもしれませんよ、それでは失礼致します」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...