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三度目の正直って言葉がありますね
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「ーーっ、はぁっ!!」
じっとりと嫌な汗を感じる。
長らく息をしていなかったみたいに肺が痛むほど荒い呼吸を繰り返した。
額に張り付いた髪をかき上げて、あたりを見回す。
(ここはどこ?っていうか、また転生したの?)
そっと、首に手を当ててみてホッとする。
滑らかな肌の質感、その下に脈の拍動を感じる。
「生きてるのね、私」
口から出た聞き馴染みのある声色、見慣れた景色。
「まさか?!」
ベッドから跳ね起きて、鏡台に駆け寄った。
「私、また私だわ」
綿菓子のようにふわふわの茶色の髪、大きな栗色の目、ピンクの唇。
ユリア・ド・ドルチェランに転生したばかりの、まだ10歳だったあの頃に戻っているようだった。
「お嬢様、素足で床にお立ちになるなんて、はしたないですわよ」
「リノっ!」
柔らかく嗜められて、ユリアは振り返り自分付きの侍女を抱きしめた。
「なんです?ユリアお嬢様」
「ううん、なんでもないの、ただ凄く怖い夢を見ちゃって」
頬を擦り付けて甘える。
人肌の温もりが心地よかった。
しばらく背中を撫でてもらいながら、この現実を受け入れるため、ユリアは気持ちを整理した。
(私の人生はバッドエンドを迎えるたびにやり直しになるのね。トゥルーエンドを迎えるまで、きっと終わらないのだわ)
「リノ、ありがとう。もう大丈夫」
心配そうに覗き込む侍女に笑顔を返して、用意された履物に足を通す。
(だったら、この三度目の人生こそトゥルーエンドを迎えてみせる!三度目の正直ってやつよ)
窓から差し込む日差しが、なんだか希望の光のように思えた。
「ところで、リノ?今日の予定を確認したいんだけど…」
「本日は、午後からご両親と共にハインベル子爵家のお茶会に参加予定です。昨日の夜まで嬉しそうにされてましたのに、お忘れで?」
「いやぁ、怖い夢のせいで、ね!ねっ!?ほら、それより準備しよっ?準備っ!」
不思議そうにするリノを笑顔で押し切って、浴室に移動する。
(このお茶会は記憶にある。やっぱり、回帰してるのね。転生してこの世界に来たあの日に戻ってるんだわ)
優里亜が死に、異世界に転生を果たしたのがユリア10歳のこの年。
3年後には学園に入学し、王子たちと出会い、16歳で卒業と同時に王子と婚約、その2年後には戦争の責任を着せられて処刑。
「嵐のようだったわね」
「何か仰いましたか?」
なんでもなーい、と、応えながら髪に香油を塗ってくれるリノの顔を見上げた。
黒髪黒い瞳の、なんとなく日本人っぽい顔立ち。
いつもそばに居てくれて、困った時は必ず助けてくれた。
転生直後は彼女の存在にどれだけ救われただろう。
前回の人生で処刑された後、彼女はどうなったのか?
おそらく、男爵家は良くて取り潰し、悪ければ親族一同皆殺しに合ったろう。
使用人たちも、職を失っただけでは済まなかったかもしれない。
(ううん、悪いことを考えるのはやめよう。私は回帰したんだから、やり直せるはず)
着々と準備が進み、ドレスのリボンが結ばれる頃には、昼食の時間も過ぎていた。
「さあ、お嬢様。出来上がりましたよ」
「お疲れ様、リノ。いつも可愛く仕上げてくれてありがとう」
ベロア調の深緑のドレスに、金の刺繍を施したクラシカルなスタイルは、地味過ぎず派手過ぎず、男爵家の娘に相応しい装いだ。
これなら目立ち過ぎて、上位の令嬢達に目をつけられることもないだろう。
「不快なところや、きつ過ぎる部分はありませんか?」
「お昼ご飯がサンドイッチちょこっとで、お腹が空いてる以外は大丈夫よ」
お腹を押さえてみせると、リノはクスッと笑った。
「あらあら。ハインベル様のお屋敷で、美味しいお菓子を頂けると思いますよ。あ、でも、がっついたらダメですよ」
「分かってる。じゃあ、行きましょっ」
私室の扉を開き、ユリアは三度目の人生に、一歩を踏み出した。
じっとりと嫌な汗を感じる。
長らく息をしていなかったみたいに肺が痛むほど荒い呼吸を繰り返した。
額に張り付いた髪をかき上げて、あたりを見回す。
(ここはどこ?っていうか、また転生したの?)
そっと、首に手を当ててみてホッとする。
滑らかな肌の質感、その下に脈の拍動を感じる。
「生きてるのね、私」
口から出た聞き馴染みのある声色、見慣れた景色。
「まさか?!」
ベッドから跳ね起きて、鏡台に駆け寄った。
「私、また私だわ」
綿菓子のようにふわふわの茶色の髪、大きな栗色の目、ピンクの唇。
ユリア・ド・ドルチェランに転生したばかりの、まだ10歳だったあの頃に戻っているようだった。
「お嬢様、素足で床にお立ちになるなんて、はしたないですわよ」
「リノっ!」
柔らかく嗜められて、ユリアは振り返り自分付きの侍女を抱きしめた。
「なんです?ユリアお嬢様」
「ううん、なんでもないの、ただ凄く怖い夢を見ちゃって」
頬を擦り付けて甘える。
人肌の温もりが心地よかった。
しばらく背中を撫でてもらいながら、この現実を受け入れるため、ユリアは気持ちを整理した。
(私の人生はバッドエンドを迎えるたびにやり直しになるのね。トゥルーエンドを迎えるまで、きっと終わらないのだわ)
「リノ、ありがとう。もう大丈夫」
心配そうに覗き込む侍女に笑顔を返して、用意された履物に足を通す。
(だったら、この三度目の人生こそトゥルーエンドを迎えてみせる!三度目の正直ってやつよ)
窓から差し込む日差しが、なんだか希望の光のように思えた。
「ところで、リノ?今日の予定を確認したいんだけど…」
「本日は、午後からご両親と共にハインベル子爵家のお茶会に参加予定です。昨日の夜まで嬉しそうにされてましたのに、お忘れで?」
「いやぁ、怖い夢のせいで、ね!ねっ!?ほら、それより準備しよっ?準備っ!」
不思議そうにするリノを笑顔で押し切って、浴室に移動する。
(このお茶会は記憶にある。やっぱり、回帰してるのね。転生してこの世界に来たあの日に戻ってるんだわ)
優里亜が死に、異世界に転生を果たしたのがユリア10歳のこの年。
3年後には学園に入学し、王子たちと出会い、16歳で卒業と同時に王子と婚約、その2年後には戦争の責任を着せられて処刑。
「嵐のようだったわね」
「何か仰いましたか?」
なんでもなーい、と、応えながら髪に香油を塗ってくれるリノの顔を見上げた。
黒髪黒い瞳の、なんとなく日本人っぽい顔立ち。
いつもそばに居てくれて、困った時は必ず助けてくれた。
転生直後は彼女の存在にどれだけ救われただろう。
前回の人生で処刑された後、彼女はどうなったのか?
おそらく、男爵家は良くて取り潰し、悪ければ親族一同皆殺しに合ったろう。
使用人たちも、職を失っただけでは済まなかったかもしれない。
(ううん、悪いことを考えるのはやめよう。私は回帰したんだから、やり直せるはず)
着々と準備が進み、ドレスのリボンが結ばれる頃には、昼食の時間も過ぎていた。
「さあ、お嬢様。出来上がりましたよ」
「お疲れ様、リノ。いつも可愛く仕上げてくれてありがとう」
ベロア調の深緑のドレスに、金の刺繍を施したクラシカルなスタイルは、地味過ぎず派手過ぎず、男爵家の娘に相応しい装いだ。
これなら目立ち過ぎて、上位の令嬢達に目をつけられることもないだろう。
「不快なところや、きつ過ぎる部分はありませんか?」
「お昼ご飯がサンドイッチちょこっとで、お腹が空いてる以外は大丈夫よ」
お腹を押さえてみせると、リノはクスッと笑った。
「あらあら。ハインベル様のお屋敷で、美味しいお菓子を頂けると思いますよ。あ、でも、がっついたらダメですよ」
「分かってる。じゃあ、行きましょっ」
私室の扉を開き、ユリアは三度目の人生に、一歩を踏み出した。
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