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めでたしめでたしのその後
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ーーああ、なんでこんな事になってしまったんだろう。
肌を焼く灼熱の太陽。
今年は日照りで農作物に深刻な被害が出たと聞いていた。
周りを囲む群衆の憎悪に気圧され足がすくむ。
「さっさと歩け!」
「きゃぁっ」
前を行く男が、忌々しげに鎖を引く。
自身の首輪が引っ張られた衝撃で、ユリアは地面に顔から落ちた。
ジンと痛む頬よりも、その次に来た衝撃の方がはるかに痛みを伴った。
石が投げられたのだ。
こめかみの辺りから、血が滴るのを感じた。
それを皮切りに、数多くの石つぶてが体を打ち、民衆の怒号が鼓膜を揺らした。
「死ね!悪女め」
「国の害虫!」
「お前が贅沢するために、うちの子が餓死したんだ」
「こんなヤツさっさと殺せー!」
「毒女なんか殺しちゃえ」
「アンタのせいでうちの人は戦死したのよっ」
立ち上がる隙もない石の雨の中を、無理やり鎖を引かれて這って進む。
断頭台の前に進むと、見覚えのある男が、スッと手を挙げた。
王弟アンドレその人である。
静寂が訪れ、アンドレの横に控えていた役人が罪状を読み上げる。
「罪人、ユリア・ド・ドルチェランにおいては、穀倉を荒らし、民衆を苦しめ、戦争を引き起こした罪、また、聖女を語り王族を騙した罪、その他にも横領や反対勢力の者への殺人教唆の罪など、数多くの悪事を働いた事、明白であるため、ここに、死刑を求刑する」
わあああっ!と、群衆から歓喜の雄叫びが上がる。
「意義のある者は前へ」
と、アンドレの声が響いた。
しばらくの後、アンドレは宣言した。
「国の王たる我が兄に代わり、罪人への死刑の執行を認めよう」
再び群衆から上がる声の渦の中、ユリアの頭は凶刃の下に固定された。
短い人生だった。
1度目も、今回も…
ユリアは転生者だった。
1度目では浅山優里亜(あさやまゆりあ)という、日本に住む普通の女子高生として人生を送った。
17歳の夏、トラックに轢かれて死んだ。
2度目は異世界でユリア・ド・ドルチェランとなった。
この世界は、浅山優里亜の知っている乙女ゲームの世界に酷似していた。
とある村娘が聖女として見出され、男爵家の養女となり、魔法学園に入学し、さまざまなイベントを経て好みのキャラクターと恋愛関係に至るのである。
ユリアは優里亜の記憶を活用し、アクシア王子ルートで無事トゥルーエンドを迎えた。
それがユリア16歳のこと。
翌年に急逝した父王に代わり、アクシアが国王に即位した。
そこで二人は幸せに暮らしましたとはならなかった。
本来、正妃の座に収まるべき公爵令嬢ミュゼリアを悪役令嬢として断罪追放したが為、国内外を問わず、正妃の座を巡って派閥間の対立構造が激化し、国政に影響が出始めた。
ユリアを正妃に付けたいと、アクシアが民衆に向け、国の穀倉から聖女の名で無償の炊き出しを何度も行ったことが最初の愚策だった。
その年の晩春に長雨が続き、麦の収穫量が予定したよりも大幅に減ったのだ。
補償や食料確保のため、財政が圧迫したのを敵国にかぎつけられた。
十分な軍事費を用意できず、準備不足で迎えた戦争は、辛くも防衛を果たしたが、多くの犠牲を払った。
アクシアも敵の矢を左の眼球に受け、生死の境を彷徨った挙句、今も意識は戻らない。
民衆の怒りはもはや爆発寸前であり、誰かが責任を取らなくては収まらないところまで来ていた。
そこで、何の後ろ盾も持たず、聖女としての活躍もないままのユリアは、国王を愚策に走らせたとして、全ての罪が被せられ、処刑されたのだ。
こうして、ユリア・ド・ドルチェランは18歳の夏、断頭台にて散ったのだった。
肌を焼く灼熱の太陽。
今年は日照りで農作物に深刻な被害が出たと聞いていた。
周りを囲む群衆の憎悪に気圧され足がすくむ。
「さっさと歩け!」
「きゃぁっ」
前を行く男が、忌々しげに鎖を引く。
自身の首輪が引っ張られた衝撃で、ユリアは地面に顔から落ちた。
ジンと痛む頬よりも、その次に来た衝撃の方がはるかに痛みを伴った。
石が投げられたのだ。
こめかみの辺りから、血が滴るのを感じた。
それを皮切りに、数多くの石つぶてが体を打ち、民衆の怒号が鼓膜を揺らした。
「死ね!悪女め」
「国の害虫!」
「お前が贅沢するために、うちの子が餓死したんだ」
「こんなヤツさっさと殺せー!」
「毒女なんか殺しちゃえ」
「アンタのせいでうちの人は戦死したのよっ」
立ち上がる隙もない石の雨の中を、無理やり鎖を引かれて這って進む。
断頭台の前に進むと、見覚えのある男が、スッと手を挙げた。
王弟アンドレその人である。
静寂が訪れ、アンドレの横に控えていた役人が罪状を読み上げる。
「罪人、ユリア・ド・ドルチェランにおいては、穀倉を荒らし、民衆を苦しめ、戦争を引き起こした罪、また、聖女を語り王族を騙した罪、その他にも横領や反対勢力の者への殺人教唆の罪など、数多くの悪事を働いた事、明白であるため、ここに、死刑を求刑する」
わあああっ!と、群衆から歓喜の雄叫びが上がる。
「意義のある者は前へ」
と、アンドレの声が響いた。
しばらくの後、アンドレは宣言した。
「国の王たる我が兄に代わり、罪人への死刑の執行を認めよう」
再び群衆から上がる声の渦の中、ユリアの頭は凶刃の下に固定された。
短い人生だった。
1度目も、今回も…
ユリアは転生者だった。
1度目では浅山優里亜(あさやまゆりあ)という、日本に住む普通の女子高生として人生を送った。
17歳の夏、トラックに轢かれて死んだ。
2度目は異世界でユリア・ド・ドルチェランとなった。
この世界は、浅山優里亜の知っている乙女ゲームの世界に酷似していた。
とある村娘が聖女として見出され、男爵家の養女となり、魔法学園に入学し、さまざまなイベントを経て好みのキャラクターと恋愛関係に至るのである。
ユリアは優里亜の記憶を活用し、アクシア王子ルートで無事トゥルーエンドを迎えた。
それがユリア16歳のこと。
翌年に急逝した父王に代わり、アクシアが国王に即位した。
そこで二人は幸せに暮らしましたとはならなかった。
本来、正妃の座に収まるべき公爵令嬢ミュゼリアを悪役令嬢として断罪追放したが為、国内外を問わず、正妃の座を巡って派閥間の対立構造が激化し、国政に影響が出始めた。
ユリアを正妃に付けたいと、アクシアが民衆に向け、国の穀倉から聖女の名で無償の炊き出しを何度も行ったことが最初の愚策だった。
その年の晩春に長雨が続き、麦の収穫量が予定したよりも大幅に減ったのだ。
補償や食料確保のため、財政が圧迫したのを敵国にかぎつけられた。
十分な軍事費を用意できず、準備不足で迎えた戦争は、辛くも防衛を果たしたが、多くの犠牲を払った。
アクシアも敵の矢を左の眼球に受け、生死の境を彷徨った挙句、今も意識は戻らない。
民衆の怒りはもはや爆発寸前であり、誰かが責任を取らなくては収まらないところまで来ていた。
そこで、何の後ろ盾も持たず、聖女としての活躍もないままのユリアは、国王を愚策に走らせたとして、全ての罪が被せられ、処刑されたのだ。
こうして、ユリア・ド・ドルチェランは18歳の夏、断頭台にて散ったのだった。
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