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お店経営編
第二章 29話『『元』究極メイド、新しい従業員を雇う』
しおりを挟むガーベラの一件から一週間程経過した。
街の復興は順調に進んでいた。
工事などに必要な費用はアミナの借金とされているが、とりあえず街を立て直す為と、事件が事件だった為に、借金の返済期限は決まっていなかった。
かくいうアミナも暇があれば街の復興に繰り出し、簡単な街の建造物の修復等を熟していた。
それと同時並行し、雑貨店の経営もしていた。
半壊したとは言え壊れた家は街全体の3割程だ。
被害を受けていない住民や冒険者等は、アミナの店をそこそこ利用している。
しかし、雑貨屋の経営は芳しくない。
それは決して、経済的な理由では無かった。
もっと違う別の理由だった――。
「ちょっとメイさん!!何してるんですか!!」
アミナは大きな声で叫んだ。
その声を聞いて、呼びかけられたメイは振り返った。
「何って、見りゃ分かるだろ。接客だよ」
彼女はそう言ってお客さんの頭に紅茶を注ぐ。
少し集めのお湯で淹れた紅茶は、お客さんの禿げた頭の上で湯気を立てている。
「お茶お茶!!お客さんにかかってますって!!」
「あ、やべ。悪ぃな」
メイはそう言ってお客さんの頭を手に持っていた薄汚れた布で拭いた。
既に何故か濡れているその布は変な匂いを放っていた。
「ちょちょ!!それ雑巾!!さっき床拭いてたやつじゃないですか!!」
「あ、ホントだ。それより菓子食うか?」
机の上に置かれているクッキーを手に取ってお客さんに差し出した。
お客さんは「あ、あぁ……じゃあ頂こうかな……」と自身のハンカチで熱々の紅茶を拭きながら、メイからクッキーを受け取ろうとした。
すると、受け渡そうとした時にメイの有り余る力でクッキーが粉々に粉砕され、お客さんの顔面を無数の弾丸が襲った。
「うわ、汚れちまった」
メイはそう言ってクッキーの散弾を喰らって痛がっているお客さんの洋服で手を拭いた。
その光景を見てアミナは「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!」と叫んだ。
―――
「すみませんすみません!!」
アミナとメイは帰るお客さんを見送っていた。
今回はただ回復薬を買いたかっただけらしく、そこまで長時間接しなかった事が唯一の救いだった。
「ほら、メイさんも謝って下さい!!」
「え?あぁ、悪ぃ。また来いよな」
こんな従業員がいる店なんて二度と来ないだろうよ、とアミナは心の中で呟いた。
「い、いや良いんだよ……。それじゃあねアミナちゃんと、新しい従業員さん……」
お客さんのおじさんはとても疲れた様子で回復薬を持って帰っていった。
その様子を見ながら、メイは「ハゲって寒くねぇのかな」とデリカシーの欠片も無い事を呟いていた。
するとアミナは小さく低い声で彼女に言った。
その顔はおっかなく、一目で怒っている事が分かった。
「メイさん、少しお話があります」
淡々と言う彼女にメイは気にしていないように「おう?」と返した。
そして2人は店の中に戻り、アミナはメイを椅子に座らせた。
「さっきの接客、何なんですか」
「何って言われてもな、接客なんてした事ねぇからよ。あんまし目くじら立てんなよ」
悪びれた様子の無いメイにアミナは「はぁ」とため息を付いた。
「別に失敗は怒りませんけど、流石にあれは不味いですよ。お客さんに迷惑をかけるのはいけません。先程のお客さんは寛容な方でしたから何とかなりましたけど……」
アミナは帰ったお客さんが歩いていった方向へと目をやった。
それを追うようにして、メイも顔をそちらに向けた。
「まぁいいです、この後またお客さんが来るので、その時はよろしくお願いしますよ」
「おう、次も任せとけや」
自信満々に言う彼女に対し不安しか残らないアミナは、もう一度試しに彼女に任せる事にした。
―――
結論から言おう。ダメだった。
午後に来た2人目のお客さんは冒険者で、炎属性の魔法が出せる魔法瓶を所望していた。
アミナはそれを作る為の材料を隣の部屋に取りに行っていた。
その時、事件は起きた。
アミナが目を離している隙に、メイが冒険者相手に腕相撲を仕掛けたのだ。
女性が相手という事で勝てるだろうと考えていた冒険者はそれを受け入れた。
しかし、勝負は一瞬で決着した。
勝者は勿論メイだ。
だが問題はそこではない。
一番問題だったのは、その冒険者を腕相撲で撃沈させた時、アミナの家の床にヒビが入った。
それと同時に相手の冒険者を地面に埋めてしまった。
そう、文字通り埋めたのだ。
地面にめり込んだ彼は、勝てると思っていた女性に負けた事で、冒険者としての自信を無くしてしまったのか、商品を受け取らずに帰っていってしまった。
アミナはまたしてもやらかしたメイに対し、接客は無理だ、と思い、買い出しに行かせていた。
「くっそぉ……暇つぶしに付き合って貰ってただけだってのによぉ」
買い物カゴを持ちながら歩いているメイは呟いた。
アミナの用意したひらひらの可愛らしい洋服がとても動きづらく、失敗してアミナに叱られた事による苛立ちを増幅させる。
「えーっと、何買うんだっけか……」
アミナに持たされた買い物メモを取り出し、それを確認した。
するとその時、少し離れた場所で小さな少女が2人組の男に路地裏に連れ去られるのが見えた。
最初は黙って見つめているだけだったが、次第に商店街の方向から逸れ、3人が入っていった路地の方へと歩いていった。
「大人しくしろ!」
「騒ぐんじゃねぇ!」
薄暗い路地、2人の男は少女を取り押さえて縄で拘束しようとしていた。
少女は涙目になりながら助けを呼ぶが、男の1人に口を抑えられて大きな声が出せずにいた。
「よし、こいつを他国に売っ払えばまだ立て直せるかもしれねぇ……」
「あぁ、俺達でファルスタを復活させるんだ……!!」
「へぇ、楽しそうな事してるじゃねぇか」
2人の会話に声が割り込む。
それは路地裏に今しがた入って来たメイの言葉だった。
「て、てめぇはシェンメイ!!」
「雇われの分際で勝手な行動しやがった裏切り者め!!」
男達は恨みをぶつける。
メイは覚えていなかったが、恐らく彼等はファルスタの構成員なのだろう。
ギルドの代表や他の構成員が一週間前に捕まったが、彼等は運良く逃れたと予測できる。
数々の犯罪行為が露呈したファルスタは解散となった為、彼等は再び自身の居場所であるファルスタを作ろうとしていたのだ。
それに気がついたメイは、武器を取り出した2人を正面から見据えた。
「おいやっちまうぞ!」
「あぁ!死んでガーベラさんに詫びろ!!」
2人は粗末な短剣でメイに斬り掛かった。
横薙ぎを1人が繰り出し、もう1人は刺突をしてくる。
しかしその2つを同時にいなし、両方の短剣の刃を素手で握った。
「なっ!!なにする気だ!!」
「くそっ!!離れねぇ!!なんて握力してやがる!!」
簡単に刃を素手で持ち、軽く力を入れる。
それだけで2人は短剣を全く動かせない。
たったこれだけで大の男2人の腕力を凌駕していた。
そして刀身を握りつぶし、刃を粉々に砕いた。
「ひぃ!!バケモンだ!!」
男の1人が臆した様子で悲鳴を上げた。
そこから間を空けず、メイはそれぞれの腹部に拳を入れて悶絶させた。
声にならない叫び声を上げる2人は、お互いの肩を支えるようにしてその場を去っていった。
去り際にはお決まりの台詞である「覚えてやがれ!!」と残していった。
2人の背中を見送った後、メイは買い物カゴを持ち直し、終始無言で路地裏から歩き去ろうとした。
すると後ろから「まって!」と大きな声で言われた。
路地の表の方から人の気配を感じていた彼女はそちらに向かいたかったが、渋々振り返ると、先程誘拐されそうになり頬に涙を伝わせた少女が声をかけてきていた。
「おねーさんは、どぉしてそんなに強いの……?」
メイは鋭い眼光少女に向け、無言で見下ろした。
そんな目で見つめられている少女の顔は不安げでオドオドしている。
メソメソと涙を流し、鼻をすすっている。
答えないと立ち去れない雰囲気を感じたのか、それともただの気まぐれか、メイはしゃがんで少女と目線を合わせた。
「……泣かねぇからだよ」
それを聞くと、少女は一瞬キョトンとした後、必死に涙を拭いた。
口をへの字に固め、キリッとした表情へと変化した。
「これで強くなれる……?」
そう言ってくる少女の頭にポンと手を置くと、メイは何故か懐かしそうな顔をした。
「あぁ……そうだな。私の場合は悪い事しても強くなるがな」
「悪い事……?んーーじゃあ私夜更かしする!」
「はっ、ガキが生意気言ってんな。ガキはさっさと帰ってさっさと寝ろ」
メイはそれだけを言い残し、路地裏から立ち去った。
立ち去る彼女の表情は、どこか儚げで、どこか懐かしい、そんな顔だった。
気が付くと、路地の表の人の気配は消えていた。
―――
すっかり日が暮れ、メイはアミナの待つ店へと帰った。
「ただいま」
「あらメイさん。おかえりなさい」
メイが家の扉を開けると、アミナが明るく迎え入れてくれた。
昼間の接客で怒ってるものかと思っていたメイは少しだけ拍子抜けした。
すると彼女は「夕食が出来ていますよ」と言って奥の部屋のテーブルの上にパンとスープと肉料理を置いた。
2人は合掌して「いただきます」と言った。
「あれ、フィーはいねぇのか?」
「はい、すっかり疲れちゃったみたいで。ずっと2階で寝ています」
見当たらないフィーの事を疑問に思ったメイはアミナに聞いたが、すぐ答えが帰ってきた。
何しろフィーはアミナの作る料理が好きだった為、誰よりも早く食卓にいつもいたのだ。
そんな彼が食事時に見当たらなくては疑問に思って当然だ。
「そういえば、お買い物はどうでしたか?」
アミナに言われると、思い出したかのように「あっ」と言った。
そして隣の椅子に置いてある空の買い物カゴを見下ろした。
「悪ぃ、忘れちまってた」
またアミナに小言を言われる。
そう考えたメイはほんの少しだけ身構えた。
しかし、彼女の反応は想像とは違った。
アミナはニコニコした顔で「もう、しょうがないですね。また明日一緒に行きましょうか」と言った。
怒らないアミナに不信感を感じたメイは、初めてゾッとした。
「……なんかお前、今日気持ち悪いな」
「フフ、そんな事は無いですよ」
なんだか嬉しそうな表情を浮かべるアミナの顔が、今日だけは不気味に感じたメイなのだった。
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