ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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お店経営編

第二章 20話『『現』ランクS+魔物、街を奪還する4』

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一瞬。
そう、一瞬だった。
何が起きたのか微塵も分からなかった。
僕は何が行われたのかも理解できず、目の前の悪党に顔面へと拳を入れられ、ギルドの壁に打ち付けられた。

「ぐはっ!!」

脆弱な僕の肉体は悲鳴を上げていた。
殴られた頬はズキズキと腫れ、歯も何本か折れた。
壁に打ち付けられた衝撃で背中の骨にも何か損傷が出来ただろう。
動こうとするたびに痛みが走る。

「あっ、いっけね。商品に傷がついちまうって言ったの、俺じゃん」

ガーベラは自身が先程発した言葉を思い出し、カイドウを見下ろした。
しかし彼の後ろからフィーが爪を振るう。
完全に背後を取られたガーベラに避ける術は無い。
決まった、とカイドウは確信して痛みから片目を閉じる。

――だが、フィーの爪はガーベラに当たる事は無かった。
何故当たらなかったのか、片目を閉じていたカイドウだったが、その瞬間をハッキリ捉えていた。
フィーの爪が振りかざされた時、ガーベラが一瞬にして消え去り、カイドウとフィーから数メートル離れた場所に移動していたのだ。

「なっ……消えた、のか……?」

カイドウは疑問の声を上げながら、移動した先にいるガーベラの背を見ていた。

おかしい……ヤツの能力は瞬間移動では無い。
それはアミナさんからの情報で分かっている。
なら今のはヤツ本来の速度とでも言うのか……!?
いや違う、今のは恐らく――

「空間を切り取ったな」

カイドウが今までの情報から予測される回避のカラクリで最も可能性の高いものを口にした。
それを聞いたガーベラは振り向き、驚いたような表情をしていた。

「お前の能力は空間を切り取って別空間に保存する能力だ……。だからここからお前が立っている位置までの空間を消し飛ばして、フィアレーヌ君の攻撃を回避したんだ。そして恐らく、さっき僕の目の前に瞬間移動したのも同じ原理だな」

「へぇ、こりゃ驚いたぞ。やっぱりお前賢いな。能力は知っていても、この原理に気づかずに死ぬヤツも結構な数いたのに」

「ブロッセと言いお前と言い、本当に人を騙すのが好きだな」

煽るような口調でカイドウは言う。
ヨロヨロと弱々しく震える足はまるで子鹿のようだ。
そんな彼の言葉にガーベラは律儀に「んだと」と怒りの表情をした。

「能力を誤認させて戦っているのがそっくりだって言ってんだよ。そんな事しないと勝てないのか――」

カイドウの安い挑発に乗っかったのか、ガーベラはまたしても一瞬でカイドウの目の前に出現し、拳を振り上げた。
しかし今度はそれをフィーが服の襟を引っ張った事で回避する事が出来た。
カイドウに当たるハズだった拳はギルドの壁を粉砕し、床にガレキを散らかした。

「誰がズル野郎だ……誰が」

「そんな事は言ってないけど……まぁいいや、似たような事だし。ありがとうフィアレーヌ君。今の喰らってたら多分死んでたよ」

カイドウはパンパンに腫れた顔で笑いながらフィーに言った。
何故カイドウがガーベラを煽るような事を言ったのか、フィーには大体予想がついていた。

今のを見て分かった事がある。
恐らく、ガーベラのスキルは生物の一部だけを飛ばす事は出来にゃい。
飛ばすとしたら全てでなければならにゃい。
その証拠に、カイドウの頭は消し飛んでいにゃい。
さっさと殺したいなら頭ごと空間に飛ばしてしまえばいいだけにゃ。
つまり、オレ達を殺したいアイツは、オレ達に直接スキルは使えにゃい事ににゃる。

「今ので大体あいつのスキルに関しては理解出来た……。フィアレーヌ君、君ならだいたい察してくれていると思う。スキルに関する情報は何となく君にも伝わっただろう。だから僕は放っておいて、あいつと戦ってきて欲しいんだ」

ボロボロになった体を起こしながらカイドウは言う。
元々戦いなんて向いていない貧弱な青年のカイドウが、死ぬかもしれない一か八かに賭けて、スキルの特徴の一つを紐解いた。
それだけで立派だ。
フィーはそう言いた気にカイドウを見つめた。

「僕はなんとか隙を突いて街の人達を助け出す。ここに見張りの部下が1人だけって事は多分、もうこの建物内にヤツの部下はいないと思うんだ」

頼りにならにゃい貧弱男かと思っていたが……結構根性あるじゃぁにゃあが。
だが、貧弱だからこその体の傷は全てカイドウにとって致命傷になりかねにゃい。
そんな傷だらけで本当に大丈夫なのかにゃ。

そんなフィーの心中を察したのか、カイドウは笑った。
この短時間で、賢い頭を持つカイドウとフィーはすっかり心が通じ合っている様子だった。

「心配しなくても大丈夫だよ。僕こう見えて打たれ強いんだ。何せイジメて欲しいからね」

ウィンクしながらフィーに言った。
この一件が終わったらアミナに何か頼み込んで、カイドウに何かをしてあげてもらおう。
フィーはそんな事を考えながら、カイドウが別の部屋に走るまでの時間稼ぎの為、目の前の地面を抉り、目眩ましと障害物を設置した。

(行けにゃ――!!)

フィーは目だけを、カイドウは顔全体で頷き、互いに逆方向に走り出した。
カイドウはギルドの二階に向かって走る。
そしてフィーは目の前にいる全ての元凶を絶つ為に、自身で発生させた木屑による煙幕を振り払い、ガーベラがいたであろう場所に振り下ろした。
しかし案の定手応えは無く、ガーベラはカイドウの方を追っていた。

「行かせる訳ねぇだろうが!!ガキ!!」

ガーベラが手をかざす。
するとそこの間の空間が消し飛び、一瞬で距離を詰めた。

(今のを見る限り、一度に消し飛ばせる範囲はおよそ15メートル……にゃら、まだあと2回は必要にゃ。やれるもんならやってみるにゃ)

フィーは地面を蹴るために足に力を入れる。
そして、バネの要領で地面を蹴り、超スピードで飛び上がる。

(……それがオレの速度より速いならにゃ!!)

フィーの圧倒的な速度から繰り出される頭突きはガーベラの腹部に直撃し、ギルド内の数十メートル離れた逆側の壁に衝突し、再び煙を舞わせた。
今の内に、とカイドウは辿々しい足取りで階段を駆け上がっていき、それを死守するようにフィーは階段の前に陣取っている。

カイドウが2階に上がり、完全に見えなくなった頃、ガーベラは煙の中から姿を表した。
その彼には、フィーの頭突きによる傷跡が見受けられず、なんと無傷でフィーの顔を睨みつける。
正直、その時のガーベラは、傷より顔の方がおっかなかった。
怒りに完全に支配され、顔は真紅に染まり、長袖に隠されていた太い筋肉質な腕が露出した事で浮き出る血管の数々。
それらは紛れもなく歴戦の猛者のそれだった。

「覚悟しろよクソ猫……絶対にテメェは許さねぇ……」

静かだ。
とても静かにガーベラは言うが、フィーの野生の勘は告げていた。
彼を魔物に例えるなら危険度ランクSはくだらない、凶悪で凶暴な人間だと。
だが決して、フィーはガーベラの事を魔物としては見ず、ましてや人間としても見ない。
それは、魔物としての誇りからや、アミナやカイドウと同じ人間だと思いたくないという私的な思いからだった。

(2人きりになったにゃ……帰ってきたらアミナにうんと褒めてもらうとするにゃ)

フィーは一度、首をフルフルと回してから巨大化する。
みるみる大きくなっていくフィーは、やがてギルドの建物内で不自由なく動ける最大サイズへと変化した。

(さぁ来いにゃ――)
「許さねぇ……許さねぇ……絶対に――」

フィーは顔を下に向け、ガーベラは下に向いていた顔を上方向に向ける。
今まで噛み合っていなかった1匹と1人の視線が交差する。

(ぶっ殺してやるにゃ)
「ぶっ殺してやる!!」

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