上 下
67 / 73
第12章 対決、神官長アリーズ!

4話 退いてくれないか? そこは僕の場所だ

しおりを挟む
「さて、これでアリーズは無力化できたわけだけど」

 私は全裸で床に這いつくばるアリーズから、宣言の座にしがみついているテンペスタに視線を向けた。
 こいつをどうしようかしら、と思案していると、廊下のほうから靴音が近づいてきた。

「身も心も必要以上に痛めつけて屈服させる。プレイも派手であきさせないところは、さすが女王様と言ったところだね」

 ぼろぼろになった会議室に、ひとりの美男子が現れた。彼は私を見て、楽しそうに微笑んでいる。

「え!? へ、陛下!?」
「やあ、ヘリオス。相変わらず禁欲的なファッションだね。セクシーを感じるよ」
「本物だー!」

 ヘリオス様は歓喜し、テンペスタは幽霊でも見たように青ざめた。

「あ、兄上!?」
「やあ、テンペスタ、元気そうだね」
「どういうことだ、アリーズ! 兄上は死んだと、そう言っていたじゃないか!!」
「馬鹿な……そんなはずは……」

 アリーズは身体をがくがくと震わせて、浅い呼吸を繰り返した。
 陛下はアリーズを無視して、テンペスタに微笑みかけた。

「見ての通り僕は生きている。だから退いてくれないか? そこは僕の場所だ」

 テンペスタは声にならない悲鳴を上げた。
 陛下は微笑んでいるけれど、その目はひどく冷たい。

「連れていけ」

 神官たちは、戦意喪失して抜け殻のようになったテンペスタを、会議室の外へと連れていった。
 陛下はその背中を見送ってから、宣言の座に腰を下ろした。
 ただそれだけのことなのに、場の空気がすっと引き締まる。

「では話を聞こうか、アリーズ。僕を殺害したのはきみだね。対策していなかったら本当に死んでいたよ」

 アリーズは全裸のまま、あわてて陛下の前にひざまずいた。

「陛下、此度の計画をくわだてたのはテンペスタ様でございます! 私は家族を人質にとられて、従うほかなく……」
「首謀者はきみではないと?」
「ええ、誓って、そのようなことは!! 陛下を手にかけたのもテンペスタ様でございます!!」

 自分は被害者だと必死に訴えるアリーズに、私は心底うんざりした。

 王を殺したことを認めれば、死んだほうがましと言われている極刑「ナラカの裁き」を受けることになる。さすがのアリーズも、その刑だけは免れたいと考えているらしい。

「何を言ったって無駄よ。さっさと認めて、裁きを受けなさいよ」

 アリーズは息を吹き返したように、鋭く私をにらみつけた。
 何だこいつ、全裸のくせに。

「証拠はどこにあるのだ? 私が陛下を手にかけたという証拠は!」
「何とここにございます」

 壊れた壁の向こうからシャリスが現れた。
 彼は白い布で包まれた何かを抱えている。それを見たアリーズは、さっと顔色を変えた。

「そ、それは!」
「アリーズ邸で見つけました。アリーズさんの指紋と陛下の血痕がべったりとついた魔剣です」

 シャリスが白い布をめくると、そこには乾いた血で汚れた短剣があった。

「強力な魔剣のため、自然治癒能力が高い相手でも殺害できます。ただ、強力な魔剣ゆえに簡単に処分することができず、屋敷内に隠すしかなかったようですね」
「ぐっ……くそ……」

 アリーズが悔しげに歯噛はがみをした。
 ヘリオス様は安堵したように表情をゆるめる。

「シャリス、間に合ったか!」
「ええ、何とか。ということでアリーズを逮捕します。って、どうしてこの人全裸なんですか?」

 ヘリオス様は複雑な表情を浮かべて、視線をそらした。

「それは、その、色々あってな」
「はあ、そうですか」

 シャリスは興味なさそうに、アリーズを後ろ手に拘束した。

「それはそうと、また会いましたね、アビゲイルさん」

 シャリスは、私の隣にいたシルバーやフロストたちの存在を完全に無視して、私に声をかけてきた。

「ええ、そうね。私がアリーズを裁いてやろうと思ったのに、あなたに美味しいところを持っていかれたわ」
「ほら、やっぱり死んでない」
「ん? 何の話?」
「いえ、こちらの話です」

 シャリスはなぜか満足そうに目を細めた。それを見たシルバーが苛立った様子ですかさず言った。

「アビー様に話しかけないでください」
「はあ? わざわざあなたの許可が必要だとでも?」

 お互いの殺気をぶつけ合いながら、ふたりはにらみ合った。
 このふたり、いつか本気で戦わせてみたいわね。

「くそ、くそ! こんなはずではなかったのに! この女さえ殺していれば!」

 拘束されたアリーズは往生際おうじょうぎわ悪く叫んだ。
 私は余裕たっぷりに微笑みながら、アリーズの顔を覗きこんで言った。

「檻の中はさぞ退屈でしょうね。たまには私がオモチャで遊んであげてもいいわよ? おーほほほほ!!」

 アリーズは屈辱に顔をゆがめながら、全裸のままシャリスに連行されていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

鉱石令嬢~没落した悪役令嬢が炭鉱で一山当てるまでのお話~

甘味亭太丸
ファンタジー
石マニアをこじらせて鉱業系の会社に勤めていたアラサー研究員の末野いすずはふと気が付くと、暇つぶしでやっていたアプリ乙女ゲームの悪役令嬢マヘリアになっていた。しかも目覚めたタイミングは婚約解消。最悪なタイミングでの目覚め、もはや御家の没落は回避できない。このままでは破滅まっしぐら。何とか逃げ出したいすずがたどり着いたのは最底辺の墓場と揶揄される炭鉱。 彼女は前世の知識を元に、何より生き抜くために鉱山を掘り進め、鉄を作るのである。 これは生き残る為に山を掘る悪役令嬢の物語。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

にいにと一緒に世界をめぐる~奉納スキルでアイテムゲット☆彡~

霧ちゃん→霧聖羅
ファンタジー
 村が疫病に侵された。 大人たちは一人また一人と倒れていった。 わたしが『魔神様』から、にぃにが『武神様』から『ご寵愛』を賜ったのが二人だけ助かった理由。 ご寵愛と一緒に賜ったスキルは色々あったんだけど、わたしね、『奉納』スキルが一番ズルっ子だと思います。 ※一章が終わるまでは12時&20時の2回更新。  ソレ以降はストックが切れるまで、毎日12時に更新します。 ※表紙画像は、『こんぺいとう**メーカー』さんを使わせていただきました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...