死に戻り悪役令嬢、すぐ燃える~最弱魔術師ですが『燃えると死に戻りする』を乱用して、全人類をひざまずかせます!~

屋根上花火

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第11章 王と処刑台

5話 対決! 十二神最強!

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 間違いない。ここから見える景色も、私の服装も「あの時」のままだ。

「過去に戻った?」

 すぐに首を横に振る。それはおかしい。私はすでに処刑台を回避しているのだから、ここが過去であってはならない。
 考えられるのは、「処刑台ルートのうちのどれかに戻った」ということ。

「罪状を読み上げ……おい、聞いているのか、悪女アビゲイル」
「うるさい、死んで」
「はあ!? お前が死刑!!」

 執行人がぎゃあぎゃあとわめいている。今大事なところなんだから邪魔しないでほしい。

 私は黙って思考をめぐらせた。
 ここに来た原因は何? ステラの手に触れたこと? 状況から考えると、あの片割れのイヤリングに触れたことが原因かもしれない。

「とにかく、ここでじっとしていたら殺されるわね」

 手足を拘束する鎖をどうやって破壊しようかと考えていると、処刑を急かす人々の中から、私を呼ぶ声が聞こえた。

「お嬢様!」
「え、この声って……」

 はっと顔を上げると、人々の間を縫うようにして近づいてくるシルバーの姿があった。
 立派な青年へと成長しつつある姿ではなく、ぼろぼろの服を着た、痩せた少年の姿をしていた。

「ということは、ここはイチゴタルトを渡したあの時の!」

 シルバーは観客からの大ブーイングを受けながら、行く手を阻む憲兵隊の頭上を軽々と飛び越え、襲いかかる執行人の斧を素手で殴り砕き、颯爽と登場したパロットを雑に蹴り飛ばした。

 たったひとりで私を助けようとして、私のために命を落とした少年がそこにいる。
 その姿に心が震えた。

「お嬢様、今お助けします!」

 シルバーは傷だらけになりながら、私の拘束を解こうと駆け寄ってくる。
 その背後に、槍を持った死神が音もなく舞い降りた。シャリスだ。
 槍を構えるシャリスを見て、私は鋭く叫んだ。

「シルバー、伏せて!」
「え!? はい!」

 ありったけの殺意を魔力に練りこんで、私は突進してくるシャリスに向けて右手を突き出した。
 あの時のように、ただ見ているだけの私じゃない!

「吹き飛べ! 薔薇の強欲ロドングリード!」

 私の目の前に、幾重にも重なった炎の壁が出現し、シャリスと接触した瞬間に大爆発を起こした。
 見物客たちが爆風に吹き飛ばされて、悲鳴を上げながら地面を転がり回る。

「おーほほほほ! 私の処刑を楽しんでいた罰よ!! 全員くたばれ!!」

 シャリスは爆発の勢いに逆らわず、そのまま後ろに飛び退いて処刑台から降りた。

「おかしいな……」

 シャリスは、右手をにぎったり開いたりしながら、不思議そうに首をかしげた。

「こんなに強い魔法を使う十二神って、いましたっけ?」

 シャリスの反応に、私は「ふふん」と胸を張って答えた。

「刺激しかない経験と殺意のおかげで超超強化された、元・十二神よ!」
「はあ? よくわかりませんけど」

 シャリスは探るように私を見つめた。彼は私に対する殺気を隠そうとしない。
 十二神最強に警戒されるなんて、面白くて仕方がないわね。

「おい、今の見たか!?」

 私の魔法を目撃した憲兵隊や神官たちが、何やら騒ぎ始めた。
 
「十二神最強であるシャリス様を、あの十二神最弱のアビゲイルが止めたぞ!?」
「あれは本当にアビゲイルか? あんな強力な魔法が使えるなんて聞いてないぞ!?」

 モブたちの称賛が気持ち良い。新たな経験は、確実に私の魔力を高めていく。
 もっと恐れおののきなさいよ!

「すごい……お嬢様はこんなにもお強かったのですね!」

 地面に伏せていたシルバーが、目を輝かせながら私を見上げた。素直な反応がちょっと懐かしくて、私は表情をゆるめた。

「あなたのおかげでね」
「え?」

 シルバーはきょとんと首をかしげた。
 詳しく教えてあげたいけど、今はシャリスの攻撃を警戒しないといけない。
 今の私には右手の紋章も、シュアンのコアもない。使える武器には限りがある。

 どうしてここに来てしまったのか、その理由を知るためにも、まだ死ぬわけにはいかない。

「あら、そういえば……シャリスって総神官長直属の特権高位魔術師だったわね?」
「そうですけど」

 シャリスは槍を構えるわけでもなく、じっとこちらを見つめている。
 このまま対話する流れに持っていけば、戦わずに済むかもしれない。とにかく今は時間が惜しい。

 私はシルバーに頼んで手足の鎖を外してもらうと、処刑台を降りてシャリスと向かい合った。

「シャリス。陛下の行方、知りたくない?」

 シャリスの目が鋭さを増した。

「陛下は宮殿にいるでしょう」

 声の調子は先ほどと変わらないけど、「犯人はお前か?」とその表情が語っていた。

「まあ、これだけ聞くと私が怪しいわよね。でも勘違いしないで、私はその誘拐犯を知っているのよ」
「シャリス!」

 私の言葉をさえぎるように、男の声が響き渡った。
 憲兵隊を押し退けて現れた男の姿に、私は思わず唇に笑みを浮かべる。
 
「早速登場ね、神官長アリーズ」
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