61 / 73
第11章 王と処刑台
5話 対決! 十二神最強!
しおりを挟む
間違いない。ここから見える景色も、私の服装も「あの時」のままだ。
「過去に戻った?」
すぐに首を横に振る。それはおかしい。私はすでに処刑台を回避しているのだから、ここが過去であってはならない。
考えられるのは、「処刑台ルートのうちのどれかに戻った」ということ。
「罪状を読み上げ……おい、聞いているのか、悪女アビゲイル」
「うるさい、死んで」
「はあ!? お前が死刑!!」
執行人がぎゃあぎゃあとわめいている。今大事なところなんだから邪魔しないでほしい。
私は黙って思考をめぐらせた。
ここに来た原因は何? ステラの手に触れたこと? 状況から考えると、あの片割れのイヤリングに触れたことが原因かもしれない。
「とにかく、ここでじっとしていたら殺されるわね」
手足を拘束する鎖をどうやって破壊しようかと考えていると、処刑を急かす人々の中から、私を呼ぶ声が聞こえた。
「お嬢様!」
「え、この声って……」
はっと顔を上げると、人々の間を縫うようにして近づいてくるシルバーの姿があった。
立派な青年へと成長しつつある姿ではなく、ぼろぼろの服を着た、痩せた少年の姿をしていた。
「ということは、ここはイチゴタルトを渡したあの時の!」
シルバーは観客からの大ブーイングを受けながら、行く手を阻む憲兵隊の頭上を軽々と飛び越え、襲いかかる執行人の斧を素手で殴り砕き、颯爽と登場したパロットを雑に蹴り飛ばした。
たったひとりで私を助けようとして、私のために命を落とした少年がそこにいる。
その姿に心が震えた。
「お嬢様、今お助けします!」
シルバーは傷だらけになりながら、私の拘束を解こうと駆け寄ってくる。
その背後に、槍を持った死神が音もなく舞い降りた。シャリスだ。
槍を構えるシャリスを見て、私は鋭く叫んだ。
「シルバー、伏せて!」
「え!? はい!」
ありったけの殺意を魔力に練りこんで、私は突進してくるシャリスに向けて右手を突き出した。
あの時のように、ただ見ているだけの私じゃない!
「吹き飛べ! 薔薇の強欲!」
私の目の前に、幾重にも重なった炎の壁が出現し、シャリスと接触した瞬間に大爆発を起こした。
見物客たちが爆風に吹き飛ばされて、悲鳴を上げながら地面を転がり回る。
「おーほほほほ! 私の処刑を楽しんでいた罰よ!! 全員くたばれ!!」
シャリスは爆発の勢いに逆らわず、そのまま後ろに飛び退いて処刑台から降りた。
「おかしいな……」
シャリスは、右手をにぎったり開いたりしながら、不思議そうに首をかしげた。
「こんなに強い魔法を使う十二神って、いましたっけ?」
シャリスの反応に、私は「ふふん」と胸を張って答えた。
「刺激しかない経験と殺意のおかげで超超強化された、元・十二神よ!」
「はあ? よくわかりませんけど」
シャリスは探るように私を見つめた。彼は私に対する殺気を隠そうとしない。
十二神最強に警戒されるなんて、面白くて仕方がないわね。
「おい、今の見たか!?」
私の魔法を目撃した憲兵隊や神官たちが、何やら騒ぎ始めた。
「十二神最強であるシャリス様を、あの十二神最弱のアビゲイルが止めたぞ!?」
「あれは本当にアビゲイルか? あんな強力な魔法が使えるなんて聞いてないぞ!?」
モブたちの称賛が気持ち良い。新たな経験は、確実に私の魔力を高めていく。
もっと恐れおののきなさいよ!
「すごい……お嬢様はこんなにもお強かったのですね!」
地面に伏せていたシルバーが、目を輝かせながら私を見上げた。素直な反応がちょっと懐かしくて、私は表情をゆるめた。
「あなたのおかげでね」
「え?」
シルバーはきょとんと首をかしげた。
詳しく教えてあげたいけど、今はシャリスの攻撃を警戒しないといけない。
今の私には右手の紋章も、シュアンのコアもない。使える武器には限りがある。
どうしてここに来てしまったのか、その理由を知るためにも、まだ死ぬわけにはいかない。
「あら、そういえば……シャリスって総神官長直属の特権高位魔術師だったわね?」
「そうですけど」
シャリスは槍を構えるわけでもなく、じっとこちらを見つめている。
このまま対話する流れに持っていけば、戦わずに済むかもしれない。とにかく今は時間が惜しい。
私はシルバーに頼んで手足の鎖を外してもらうと、処刑台を降りてシャリスと向かい合った。
「シャリス。陛下の行方、知りたくない?」
シャリスの目が鋭さを増した。
「陛下は宮殿にいるでしょう」
声の調子は先ほどと変わらないけど、「犯人はお前か?」とその表情が語っていた。
「まあ、これだけ聞くと私が怪しいわよね。でも勘違いしないで、私はその誘拐犯を知っているのよ」
「シャリス!」
私の言葉をさえぎるように、男の声が響き渡った。
憲兵隊を押し退けて現れた男の姿に、私は思わず唇に笑みを浮かべる。
「早速登場ね、神官長アリーズ」
「過去に戻った?」
すぐに首を横に振る。それはおかしい。私はすでに処刑台を回避しているのだから、ここが過去であってはならない。
考えられるのは、「処刑台ルートのうちのどれかに戻った」ということ。
「罪状を読み上げ……おい、聞いているのか、悪女アビゲイル」
「うるさい、死んで」
「はあ!? お前が死刑!!」
執行人がぎゃあぎゃあとわめいている。今大事なところなんだから邪魔しないでほしい。
私は黙って思考をめぐらせた。
ここに来た原因は何? ステラの手に触れたこと? 状況から考えると、あの片割れのイヤリングに触れたことが原因かもしれない。
「とにかく、ここでじっとしていたら殺されるわね」
手足を拘束する鎖をどうやって破壊しようかと考えていると、処刑を急かす人々の中から、私を呼ぶ声が聞こえた。
「お嬢様!」
「え、この声って……」
はっと顔を上げると、人々の間を縫うようにして近づいてくるシルバーの姿があった。
立派な青年へと成長しつつある姿ではなく、ぼろぼろの服を着た、痩せた少年の姿をしていた。
「ということは、ここはイチゴタルトを渡したあの時の!」
シルバーは観客からの大ブーイングを受けながら、行く手を阻む憲兵隊の頭上を軽々と飛び越え、襲いかかる執行人の斧を素手で殴り砕き、颯爽と登場したパロットを雑に蹴り飛ばした。
たったひとりで私を助けようとして、私のために命を落とした少年がそこにいる。
その姿に心が震えた。
「お嬢様、今お助けします!」
シルバーは傷だらけになりながら、私の拘束を解こうと駆け寄ってくる。
その背後に、槍を持った死神が音もなく舞い降りた。シャリスだ。
槍を構えるシャリスを見て、私は鋭く叫んだ。
「シルバー、伏せて!」
「え!? はい!」
ありったけの殺意を魔力に練りこんで、私は突進してくるシャリスに向けて右手を突き出した。
あの時のように、ただ見ているだけの私じゃない!
「吹き飛べ! 薔薇の強欲!」
私の目の前に、幾重にも重なった炎の壁が出現し、シャリスと接触した瞬間に大爆発を起こした。
見物客たちが爆風に吹き飛ばされて、悲鳴を上げながら地面を転がり回る。
「おーほほほほ! 私の処刑を楽しんでいた罰よ!! 全員くたばれ!!」
シャリスは爆発の勢いに逆らわず、そのまま後ろに飛び退いて処刑台から降りた。
「おかしいな……」
シャリスは、右手をにぎったり開いたりしながら、不思議そうに首をかしげた。
「こんなに強い魔法を使う十二神って、いましたっけ?」
シャリスの反応に、私は「ふふん」と胸を張って答えた。
「刺激しかない経験と殺意のおかげで超超強化された、元・十二神よ!」
「はあ? よくわかりませんけど」
シャリスは探るように私を見つめた。彼は私に対する殺気を隠そうとしない。
十二神最強に警戒されるなんて、面白くて仕方がないわね。
「おい、今の見たか!?」
私の魔法を目撃した憲兵隊や神官たちが、何やら騒ぎ始めた。
「十二神最強であるシャリス様を、あの十二神最弱のアビゲイルが止めたぞ!?」
「あれは本当にアビゲイルか? あんな強力な魔法が使えるなんて聞いてないぞ!?」
モブたちの称賛が気持ち良い。新たな経験は、確実に私の魔力を高めていく。
もっと恐れおののきなさいよ!
「すごい……お嬢様はこんなにもお強かったのですね!」
地面に伏せていたシルバーが、目を輝かせながら私を見上げた。素直な反応がちょっと懐かしくて、私は表情をゆるめた。
「あなたのおかげでね」
「え?」
シルバーはきょとんと首をかしげた。
詳しく教えてあげたいけど、今はシャリスの攻撃を警戒しないといけない。
今の私には右手の紋章も、シュアンのコアもない。使える武器には限りがある。
どうしてここに来てしまったのか、その理由を知るためにも、まだ死ぬわけにはいかない。
「あら、そういえば……シャリスって総神官長直属の特権高位魔術師だったわね?」
「そうですけど」
シャリスは槍を構えるわけでもなく、じっとこちらを見つめている。
このまま対話する流れに持っていけば、戦わずに済むかもしれない。とにかく今は時間が惜しい。
私はシルバーに頼んで手足の鎖を外してもらうと、処刑台を降りてシャリスと向かい合った。
「シャリス。陛下の行方、知りたくない?」
シャリスの目が鋭さを増した。
「陛下は宮殿にいるでしょう」
声の調子は先ほどと変わらないけど、「犯人はお前か?」とその表情が語っていた。
「まあ、これだけ聞くと私が怪しいわよね。でも勘違いしないで、私はその誘拐犯を知っているのよ」
「シャリス!」
私の言葉をさえぎるように、男の声が響き渡った。
憲兵隊を押し退けて現れた男の姿に、私は思わず唇に笑みを浮かべる。
「早速登場ね、神官長アリーズ」
52
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる