55 / 73
第10章 対決、インペラトル!
12話 契約! 破滅の使者!
しおりを挟む
「さて、さっさと解除しちゃいましょう。頭の後ろを見せてくれない? そこに紋章があるから」
『こうか?』
ドラゴンは、崖の上にいる私に見えるように頭を下げた。
それを見たシルバーとイスカが息をのんだ。
「最強の魔物が、アビー様に頭を垂れた……」
「すげぇ……」
「ありがとう、はっきり見えたわ。まずは目くらましの魔法を解いてから、埋めこまれた魔道具を破壊するわよ」
『任せる』
私は右手の人差し指を紋章に向けて、その指先に魔力を集中させた。
「釘を打て」
魔力が矢のように飛んで、紋章の一部を破壊する。すると、紋章は効力を失って、ぼろぼろと崩れて消滅した。
「魔法は解けたけど、何が埋まってるのかよく見えないわ。ねえ、ドラゴン、頭の後ろに乗っていい?」
『不本意だが、許す』
「ありがとう。行くわよ、シルバー!」
「はい。運びます」
私はシルバーにおんぶしてもらって、ドラゴンの頭の上に降り立った。
そこでようやく、ドラゴンに使用されていた魔道具が見えた。それは金色の小さな壺である。
「嘘でしょ!? 願いの薬壺じゃない!」
「貴重な魔道具ですか?」
「貴重というか、これはラピスブルー王国の宮殿内で保管されている国宝級の魔道具よ。誰かは知らないけれど、王国内にインペラトルとつながっているスパイ野郎がいるってことじゃない!」
しかも、宮殿に入れるってことは、陛下の近くにいるってことになる。
もう十二神でも何でもないけど、気分は良くない。
「考え事はあとにしましょう。本当は国宝なんて破壊したくないけど、仕方ないわね! 陛下ごめんね! 解除!」
バキッ! と音を立てて薬壺が壊れた。私はその欠片を回収してから、シルバーに崖の上まで運んでもらった。
『どうやら、成功したようだな』
ドラゴンがゆっくりと顔を上げた。
操術から解き放たれたことで、ドラゴンの身体に魔力がみなぎっている。
シルバーとイスカは、警戒するように身構えた。
「どうかしら、自由になった感想は?」
ドラゴンは開放感を味わうように勢いよく翼を広げた。たったそれだけの動作で、激しい突風が吹き荒れた。
さすがは、魔物種の頂点に君臨する最強の魔物ね。
『新たな羽を得たような気分だ! おのれ人間どもめ、皆殺しにしてやる!』
「いいわね! ついでに景気よくぱーっと燃やしましょうよ!」
『お前本当に人間か? 思考がぶっ飛びすぎて逆に冷静になってしまうな……』
「え、なぜ!?」
賛同しただけなのに、なぜかげんなりされてしまった。
私が不服そうに頬をふくらませると、それを見たドラゴンは小さく笑った。
『うん、まあ、とにかく世話になったな』
「ドラゴンから礼を言われるなんて、滅多にない経験だわ! まーた私が強くなっちゃうわね! そうでしょうシルバー!」
「その通りです、アビー様」
『どういう意味だ? なぜお前が強くなる?』
私とドラゴンのやりとりを眺めていたイスカは、偉大なるものを前にしたような、すこし緊張した表情で言った。
「人間には決して心を開かないと言われたドラゴンが、あんたに礼を言うなんてな。ほんと、マスターはすげぇよ」
「まあね!!」
「声でっか。自己肯定感の塊」
「当然でしょ! 私は私を愛しているもの!」
私は誇らしげに胸を張った。
ドラゴンは飛び立つことなく、じっと静かに私たちの会話を聞いていた。
「どうしたの? もう操術は解除したはずだけど?」
『ドラゴン族は、孤高で誇り高き魔物。人間とは馴れ合わん。だが、お前には恩がある。一度だけお前の力となろう』
「本当に!? ドラゴンの力を貸してもらえるなんて楽しすぎるじゃない!!」
「あのドラゴンが、アビー様に力を貸すなんて……さすがです、アビー様!」
「絵本の中でしか聞いたことねぇよ。この人、マジでとんでもねぇことしてるんじゃ……」
シルバーとイスカが、興奮気味に声をうわずらせた。
『傲慢の王。お前の名は?』
ドラゴンが頭を下げて、私と目線を合わせて尋ねた。
傲慢の王。なんて心地良い響きだろう。
身体の奥から魔力が湧き上がり、抑えきれない高揚感に包まれる。
「アビゲイル・デケンベルよ!」
誇らしげに答えると、ドラゴンの瞳が一瞬輝いて、私の右目が熱を持った。
「これは?」
『右目に我の紋章を刻んだ。呼べ、命じろ、アビゲイル・デケンベル。これは契約だ!』
不思議なことに、頭の中にドラゴンの名前が浮かんだ。
私の魔力が意思を持ったように、彼の名を唱えたがっている。世界に破滅を、と叫んでいる。
『ちなみに初回は無料で利用できるぞ!』
「初回無料ですって!? 使う、今すぐ使う~!」
「ドラゴンってサービスいいんですね」
「魔物にサービスの概念あんのか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ! シルバー、この周辺に古城はある?」
ミーレスから聞いた情報では、インペラトル本部は古城を利用しているという話だった。
シルバーはぐるりと周囲を見渡してから、森の中を指差した。わずかに城のとがった屋根が見える。
「あら、森の中に隠れていたのね! 早速初回無料を使っちゃうわよ! 破滅の使者アンブラよ!」
『何を望む。アビゲイル』
「あの悪趣味な城に、派手な花火を打ち上げて! 今日がやつらの滅亡記念日よ!」
アンブラは雄叫びを上げて、空へと飛び上がった。
『よかろう! 最高の祝日にしてくれるわ!!』
アンブラが天を仰いで咆哮すると、上空に巨大な魔法陣が出現し、火をまとった無数の岩石が流れ星のように古城へと降り注いだ。
城の屋根や壁が弾け飛び、爆発し、花火のように色鮮やかな火花が散る。破壊の振動は、私たちのいる崖まで伝わってきた。
「おーほほほほ! 最高の眺めだわ~! 燃えろ、燃えろ~!!」
「アビー様、あそこにはインペラトルに捕われたガルラ村の村人たちがいるのでは?」
「あ」
古城は再びドォン! と音と立てて爆発した。
『こうか?』
ドラゴンは、崖の上にいる私に見えるように頭を下げた。
それを見たシルバーとイスカが息をのんだ。
「最強の魔物が、アビー様に頭を垂れた……」
「すげぇ……」
「ありがとう、はっきり見えたわ。まずは目くらましの魔法を解いてから、埋めこまれた魔道具を破壊するわよ」
『任せる』
私は右手の人差し指を紋章に向けて、その指先に魔力を集中させた。
「釘を打て」
魔力が矢のように飛んで、紋章の一部を破壊する。すると、紋章は効力を失って、ぼろぼろと崩れて消滅した。
「魔法は解けたけど、何が埋まってるのかよく見えないわ。ねえ、ドラゴン、頭の後ろに乗っていい?」
『不本意だが、許す』
「ありがとう。行くわよ、シルバー!」
「はい。運びます」
私はシルバーにおんぶしてもらって、ドラゴンの頭の上に降り立った。
そこでようやく、ドラゴンに使用されていた魔道具が見えた。それは金色の小さな壺である。
「嘘でしょ!? 願いの薬壺じゃない!」
「貴重な魔道具ですか?」
「貴重というか、これはラピスブルー王国の宮殿内で保管されている国宝級の魔道具よ。誰かは知らないけれど、王国内にインペラトルとつながっているスパイ野郎がいるってことじゃない!」
しかも、宮殿に入れるってことは、陛下の近くにいるってことになる。
もう十二神でも何でもないけど、気分は良くない。
「考え事はあとにしましょう。本当は国宝なんて破壊したくないけど、仕方ないわね! 陛下ごめんね! 解除!」
バキッ! と音を立てて薬壺が壊れた。私はその欠片を回収してから、シルバーに崖の上まで運んでもらった。
『どうやら、成功したようだな』
ドラゴンがゆっくりと顔を上げた。
操術から解き放たれたことで、ドラゴンの身体に魔力がみなぎっている。
シルバーとイスカは、警戒するように身構えた。
「どうかしら、自由になった感想は?」
ドラゴンは開放感を味わうように勢いよく翼を広げた。たったそれだけの動作で、激しい突風が吹き荒れた。
さすがは、魔物種の頂点に君臨する最強の魔物ね。
『新たな羽を得たような気分だ! おのれ人間どもめ、皆殺しにしてやる!』
「いいわね! ついでに景気よくぱーっと燃やしましょうよ!」
『お前本当に人間か? 思考がぶっ飛びすぎて逆に冷静になってしまうな……』
「え、なぜ!?」
賛同しただけなのに、なぜかげんなりされてしまった。
私が不服そうに頬をふくらませると、それを見たドラゴンは小さく笑った。
『うん、まあ、とにかく世話になったな』
「ドラゴンから礼を言われるなんて、滅多にない経験だわ! まーた私が強くなっちゃうわね! そうでしょうシルバー!」
「その通りです、アビー様」
『どういう意味だ? なぜお前が強くなる?』
私とドラゴンのやりとりを眺めていたイスカは、偉大なるものを前にしたような、すこし緊張した表情で言った。
「人間には決して心を開かないと言われたドラゴンが、あんたに礼を言うなんてな。ほんと、マスターはすげぇよ」
「まあね!!」
「声でっか。自己肯定感の塊」
「当然でしょ! 私は私を愛しているもの!」
私は誇らしげに胸を張った。
ドラゴンは飛び立つことなく、じっと静かに私たちの会話を聞いていた。
「どうしたの? もう操術は解除したはずだけど?」
『ドラゴン族は、孤高で誇り高き魔物。人間とは馴れ合わん。だが、お前には恩がある。一度だけお前の力となろう』
「本当に!? ドラゴンの力を貸してもらえるなんて楽しすぎるじゃない!!」
「あのドラゴンが、アビー様に力を貸すなんて……さすがです、アビー様!」
「絵本の中でしか聞いたことねぇよ。この人、マジでとんでもねぇことしてるんじゃ……」
シルバーとイスカが、興奮気味に声をうわずらせた。
『傲慢の王。お前の名は?』
ドラゴンが頭を下げて、私と目線を合わせて尋ねた。
傲慢の王。なんて心地良い響きだろう。
身体の奥から魔力が湧き上がり、抑えきれない高揚感に包まれる。
「アビゲイル・デケンベルよ!」
誇らしげに答えると、ドラゴンの瞳が一瞬輝いて、私の右目が熱を持った。
「これは?」
『右目に我の紋章を刻んだ。呼べ、命じろ、アビゲイル・デケンベル。これは契約だ!』
不思議なことに、頭の中にドラゴンの名前が浮かんだ。
私の魔力が意思を持ったように、彼の名を唱えたがっている。世界に破滅を、と叫んでいる。
『ちなみに初回は無料で利用できるぞ!』
「初回無料ですって!? 使う、今すぐ使う~!」
「ドラゴンってサービスいいんですね」
「魔物にサービスの概念あんのか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ! シルバー、この周辺に古城はある?」
ミーレスから聞いた情報では、インペラトル本部は古城を利用しているという話だった。
シルバーはぐるりと周囲を見渡してから、森の中を指差した。わずかに城のとがった屋根が見える。
「あら、森の中に隠れていたのね! 早速初回無料を使っちゃうわよ! 破滅の使者アンブラよ!」
『何を望む。アビゲイル』
「あの悪趣味な城に、派手な花火を打ち上げて! 今日がやつらの滅亡記念日よ!」
アンブラは雄叫びを上げて、空へと飛び上がった。
『よかろう! 最高の祝日にしてくれるわ!!』
アンブラが天を仰いで咆哮すると、上空に巨大な魔法陣が出現し、火をまとった無数の岩石が流れ星のように古城へと降り注いだ。
城の屋根や壁が弾け飛び、爆発し、花火のように色鮮やかな火花が散る。破壊の振動は、私たちのいる崖まで伝わってきた。
「おーほほほほ! 最高の眺めだわ~! 燃えろ、燃えろ~!!」
「アビー様、あそこにはインペラトルに捕われたガルラ村の村人たちがいるのでは?」
「あ」
古城は再びドォン! と音と立てて爆発した。
10
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
玲眠の真珠姫
紺坂紫乃
ファンタジー
空に神龍族、地上に龍人族、海に龍神族が暮らす『龍』の世界――三龍大戦から約五百年、大戦で最前線に立った海底竜宮の龍王姫・セツカは魂を真珠に封じて眠りについていた。彼女を目覚めさせる為、義弟にして恋人であった若き隻眼の将軍ロン・ツーエンは、セツカの伯父であり、義父でもある龍王の命によって空と地上へと旅立つ――この純愛の先に待ち受けるものとは? ロンの悲願は成就なるか。中華風幻獣冒険大河ファンタジー、開幕!!
あたし、なまくび?だけど魔法少女はじめました! ~夢見の異世界エルドラ~
雨宮ユウ
ファンタジー
仲良し女子高生達が送る、お気楽能天気な異世界ライフ開幕……
って思ったら、あたし頭だけなんだけどー!?
友達を助けるため異世界転移したら、なぜか頭だけになっていた女子高生・望実。
だけど超絶能天気なポジティブシンキングで、迫る困難もなんのその!
夢の世界で直面するおバカな事件を爽快に解決しながら、自分達の夢を叶えるため、
なまくび魔法少女として大冒険するお話。
死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~
白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた!
もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する!
とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する!
ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか?
過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談
小説家になろうでも連載しています!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました
福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。
最弱悪役令嬢に捧ぐ
クロタ
ファンタジー
死んで乙女ゲームの最弱悪役令嬢の中の人になってしまった『俺』
その気はないのに攻略キャラや、同じ転生者(♂)のヒロインとフラグを立てたりクラッシュしたりと、慌ただしい異世界生活してます。
※内容はどちらかといえば女性向けだと思いますが、私の嗜好により少年誌程度のお色気(?)シーンがまれにあるので、苦手な方はご注意ください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる