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第10章 対決、インペラトル!

12話 契約! 破滅の使者!

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「さて、さっさと解除しちゃいましょう。頭の後ろを見せてくれない? そこに紋章があるから」
『こうか?』

 ドラゴンは、崖の上にいる私に見えるように頭を下げた。
 それを見たシルバーとイスカが息をのんだ。

「最強の魔物が、アビー様に頭を垂れた……」
「すげぇ……」
「ありがとう、はっきり見えたわ。まずは目くらましの魔法を解いてから、埋めこまれた魔道具を破壊するわよ」
『任せる』

 私は右手の人差し指を紋章に向けて、その指先に魔力を集中させた。

釘を打てクラウィス

 魔力が矢のように飛んで、紋章の一部を破壊する。すると、紋章は効力を失って、ぼろぼろと崩れて消滅した。

「魔法は解けたけど、何が埋まってるのかよく見えないわ。ねえ、ドラゴン、頭の後ろに乗っていい?」
『不本意だが、許す』
「ありがとう。行くわよ、シルバー!」
「はい。運びます」

 私はシルバーにおんぶしてもらって、ドラゴンの頭の上に降り立った。
 そこでようやく、ドラゴンに使用されていた魔道具が見えた。それは金色の小さな壺である。

「嘘でしょ!? 願いの薬壺じゃない!」
「貴重な魔道具ですか?」
「貴重というか、これはラピスブルー王国の宮殿内で保管されている国宝級の魔道具よ。誰かは知らないけれど、王国内にインペラトルとつながっているスパイ野郎がいるってことじゃない!」

 しかも、宮殿に入れるってことは、陛下の近くにいるってことになる。
 もう十二神でも何でもないけど、気分は良くない。

「考え事はあとにしましょう。本当は国宝なんて破壊したくないけど、仕方ないわね! 陛下ごめんね! 解除ブレイク!」

 バキッ! と音を立てて薬壺が壊れた。私はその欠片を回収してから、シルバーに崖の上まで運んでもらった。

『どうやら、成功したようだな』

 ドラゴンがゆっくりと顔を上げた。
 操術から解き放たれたことで、ドラゴンの身体に魔力がみなぎっている。
 シルバーとイスカは、警戒するように身構えた。

「どうかしら、自由になった感想は?」

 ドラゴンは開放感を味わうように勢いよく翼を広げた。たったそれだけの動作で、激しい突風が吹き荒れた。
 さすがは、魔物種の頂点に君臨する最強の魔物ね。

『新たな羽を得たような気分だ! おのれ人間どもめ、皆殺しにしてやる!』
「いいわね! ついでに景気よくぱーっと燃やしましょうよ!」
『お前本当に人間か? 思考がぶっ飛びすぎて逆に冷静になってしまうな……』
「え、なぜ!?」

 賛同しただけなのに、なぜかげんなりされてしまった。
 私が不服そうに頬をふくらませると、それを見たドラゴンは小さく笑った。

『うん、まあ、とにかく世話になったな』
「ドラゴンから礼を言われるなんて、滅多にない経験だわ! まーた私が強くなっちゃうわね! そうでしょうシルバー!」
「その通りです、アビー様」
『どういう意味だ? なぜお前が強くなる?』

 私とドラゴンのやりとりを眺めていたイスカは、偉大なるものを前にしたような、すこし緊張した表情で言った。

「人間には決して心を開かないと言われたドラゴンが、あんたに礼を言うなんてな。ほんと、マスターはすげぇよ」
「まあね!!」
「声でっか。自己肯定感の塊」
「当然でしょ! 私は私を愛しているもの!」

 私は誇らしげに胸を張った。
 ドラゴンは飛び立つことなく、じっと静かに私たちの会話を聞いていた。

「どうしたの? もう操術は解除したはずだけど?」
『ドラゴン族は、孤高で誇り高き魔物。人間とはれ合わん。だが、お前には恩がある。一度だけお前の力となろう』
「本当に!? ドラゴンの力を貸してもらえるなんて楽しすぎるじゃない!!」
「あのドラゴンが、アビー様に力を貸すなんて……さすがです、アビー様!」
「絵本の中でしか聞いたことねぇよ。この人、マジでとんでもねぇことしてるんじゃ……」

 シルバーとイスカが、興奮気味に声をうわずらせた。

『傲慢の王。お前の名は?』

 ドラゴンが頭を下げて、私と目線を合わせて尋ねた。
 傲慢の王。なんて心地良い響きだろう。
 身体の奥から魔力が湧き上がり、抑えきれない高揚感に包まれる。

「アビゲイル・デケンベルよ!」

 誇らしげに答えると、ドラゴンの瞳が一瞬輝いて、私の右目が熱を持った。

「これは?」
『右目に我の紋章を刻んだ。呼べ、命じろ、アビゲイル・デケンベル。これは契約だ!』

 不思議なことに、頭の中にドラゴンの名前が浮かんだ。
 私の魔力が意思を持ったように、彼の名を唱えたがっている。世界に破滅を、と叫んでいる。

『ちなみに初回は無料で利用できるぞ!』
「初回無料ですって!? 使う、今すぐ使う~!」
「ドラゴンってサービスいいんですね」
「魔物にサービスの概念あんのか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ! シルバー、この周辺に古城はある?」

 ミーレスから聞いた情報では、インペラトル本部は古城を利用しているという話だった。
 シルバーはぐるりと周囲を見渡してから、森の中を指差した。わずかに城のとがった屋根が見える。

「あら、森の中に隠れていたのね! 早速初回無料を使っちゃうわよ! 破滅の使者アンブラよ!」
『何を望む。アビゲイル』
「あの悪趣味な城に、派手な花火を打ち上げて! 今日がやつらの滅亡記念日よ!」

 アンブラは雄叫びを上げて、空へと飛び上がった。

『よかろう! 最高の祝日にしてくれるわ!!』

 アンブラが天をあおいで咆哮すると、上空に巨大な魔法陣が出現し、火をまとった無数の岩石が流れ星のように古城へと降り注いだ。
 城の屋根や壁が弾け飛び、爆発し、花火のように色鮮やかな火花が散る。破壊の振動は、私たちのいる崖まで伝わってきた。

「おーほほほほ! 最高の眺めだわ~! 燃えろ、燃えろ~!!」
「アビー様、あそこにはインペラトルに捕われたガルラ村の村人たちがいるのでは?」
「あ」

 古城は再びドォン! と音と立てて爆発した。
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