死に戻り悪役令嬢、すぐ燃える~最弱魔術師ですが『燃えると死に戻りする』を乱用して、全人類をひざまずかせます!~

屋根上花火

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第10章 対決、インペラトル!

10話 新・ドラゴンルートって、こと!?

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 逃げ道を断たれてその場に立ち尽くすシニストラに、私は包みこむように優しく微笑んで言った。

「そう怖い顔をしないで、一緒に楽しみましょうよ……一生に一度の死をね」

 ドラゴンの怒りの咆哮ほうこうが響き、その衝撃で地面が上下に揺れた。

「嫌だ……嫌だ、嫌だ!!」

 シニストラは尻餅をついて、ついに情けない悲鳴を上げた。

「まだ死にたくない!! 僕は死にたくない!!」
「そうなの? だったら助けてあげてもいいわよ」
「へ?」

 シニストラは困惑したように、上目遣いに私を見た。
 私は椅子から立ち上がって、間近に迫ったドラゴンを見すえた。

「怒りで我を忘れたドラゴンほど扱いやすいものはないわ。さあ、シルバー! ブレスレットとアンクレットに瘴気防御機能をつけてあるから、全力でやっちゃって!」

 シルバーの青い瞳が輝き、目の下に黒い縞模様が現れた。

「ようやく私の出番ですね。お任せください」

 シルバーは助走をつけて、私を食らおうと口を開けたドラゴンに向かって高く跳躍した。
 足首にあるアンクレットが、星のように光り輝く。

 初めてドラゴンと対決した時とは違って、今回はドラゴンブラッドによるダメージ蓄積がある。体調万全のシルバーの敵じゃない。

「お覚悟」

 シルバーは、空中でくるりと一回転して体勢を変えると、ドラゴンの頭にかかと落としを食らわせた。

 ドンッ! と腹の底に響く大砲のような音が聞こえて、かかと落としの衝撃による風圧で身体が吹っ飛ばされそうになった。
 ゴーレムコアで強化されたオニュクス族の力、予想以上にヤバイわね。

「グギャア!!!」

 ドラゴンの口から断末魔の悲鳴が上がった。威力が強すぎて、ドラゴンの頭がへこんでいる。

「私の所有物ヤバー! 強すぎだわ!」
「アビー様!」
「ええ、わかってるわ! 薔薇の強欲ロドングリード!」

 私は炎の壁を出現させて、頭上に落下してくるドラゴンの身体を崖の下へ押し出すようにしてぶつけた。
 ドラゴンの身体は、崖の上にいたインペラトル兵を巻きこみながら森へと落下した。

 奇跡的に巻きこまれなかったシニストラは、最強の手札だったドラゴンを無効化されて、呆然としている。

「嘘だ……僕の、最高傑作がぁ……」
「おーほほほほ! 命だけは助けてあげたわよ?」
「アビゲイル……貴様ぁ!! この借りは必ず返してやるからな!!」
「生きていたらね」
「何?」
「イスカ、出番よ」
「了解」

 イスカはシニストラの前に立って、にやっと笑った。
 シニストラはあわてて立ち上がって、イスカから距離をとるように後ずさりする。

「な、何をするつもりだ!?」
「何って、こうするんだよ!」

 イスカは、右の拳をシニストラの顔面に叩きつけた。
 バキッ! と骨が折れるような音がして、シニストラの鼻や口から血が噴き出す。

「ぐほぉあっ!? あ、うわぁぁぁぁ!?」

 よろめいたシニストラは崖から足を踏み外して、悲鳴を上げながら森へと落下していった。

 私たちが崖の上から覗きこむと、垂直になった壁に必死に張りついているシニストラを見つけた。

「た、助けてくれ!」
「あれで落ちないとか、運が良いわね」
「見てないで助けろ! 貴様なんかよりも、僕のほうがよっぽど価値のある人間なんだぞ!? 世界の損失だぞ!?」

 私がイスカに視線を向けると、その意図を察したイスカが悪い笑みを浮かべた。

「悪いな。俺にとっちゃあんたの価値はゴミ以下だ」

 イスカはそう言って、シニストラの両手を槍で斬りつけた。

「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」

 シニストラは痛みで両手を離し、森の中へと落ちていった。
 ドスンッと何かが落ちた音と、「うぎゃ」と潰れたような声が聞こえた気がした。
 しばらくして、森の中が急に騒がしくなった。

「あら、始まったみたいねぇ」

 森の中では、とても面白いことが始まっていた。シニストラとその部下たちが、オークの集団に囲まれていたのだ。
 オークたちはずいぶんと気が立っている様子で、飢えた獣のようなうなり声を上げている。

「知ってるでしょうけど、ガルラ村のオークたちよ。あなたたち、彼らに対して非道な実験を繰り返していたみたいじゃない。とってもお怒りのご様子よ?」
「ま、待て! 僕がご主人様だぞ! 言うことを聞け!!」

 オークたちは斧を手にとって、シニストラたちと距離をつめる。
 シニストラはすがるように私を見上げて言った。

「アビゲイル! ぼ、僕と、手を組まないか?」
「なぁに? 遠くてよく聞こえないわ」
「僕と手を組まないかと聞いたんだよ! 僕たちが協力すれば、エールクラルスだけじゃなくて、ラピスブルーだって支配できるぞ!」
「却下」
「即答!?」
「だって操術のやり方、わかっちゃったもの。あなたの知識なんてもう必要ないし……ただのゴミを気にかける馬鹿がどこにいるの?」

 吐き捨てるように言うと、シニストラの表情が絶望に染まった。

「ああ、そうそう、操術は解いてあるから存分に楽しんで!」

 オークたちに声をかけると、彼らはこちらを見上げてこくりとうなずいた。
 そして、雄叫びを上げて、シニストラたちに襲いかかる。

「ひっ!? 来るな!! 僕に近づくなぁぁぁぁ!!」
「地の果てまでお逃げなさいよ!! 止まったら内臓を引きずり出されてジ・エンドよ!! おーほほほほ!!」

 シニストラたちは、殺気立つオークに追いかけられて、森の奥へと逃げていった。
 それを見たイスカが楽しそうに笑った。

「はは! ざまぁみろってんだ!」
「追いかけてもいいわよ?」
「いや、いいよ。結構すっきりしたし」

 言葉通り、イスカの顔は晴れやかだった。
 私だったら、追いかけて紅茶を飲みながら見物するのに、無欲な男だわ。

「それにしても、シニストラも大したことなかったわね。私は、どんな時でも心乱さず冷静に最後まで戦いつづけるのに!」
「さすがアビー様。『心乱さず冷静に』以外は肯定します」
「全部肯定しなさいよ! ま、いいわ! 早速ドラゴンを解体しようかしら!」

 ドラゴンのコアは貴重な魔道具の素材になるし、皮は最強の防具になる。
 うきうきしながら用途を考えていると、なぜかシルバーが困ったような顔をして言った。

「アビー様、ご機嫌なところ申し訳ありませんが」
「何?」
「ドラゴンめっちゃ生きてます」
「え」

 崖の下に視線を向けると、じっとこちらを見つめているドラゴンと目が合った。
 私はその場で飛び上がり、絶叫した。
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