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第10章 対決、インペラトル!

8話 初めまして、燃えるゴミ!

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 僕のドラゴンが巨大な火柱に阻まれて、激しくもがいているのが見える。

「ドラゴンを足止めするだと!? それにあの威力は禁術レベルじゃないか! ありえない!」

 熱風による汗で、眼鏡がずり落ちた。

「落ち着け、禁術だとしてもドラゴンを足止めしつづけるのは不可能だ。必ず魔力が尽きる!」

 一時的とはいえ、ドラゴンを封じられて動揺してしまったが、こんなことは長くつづかない。
 僕はアビゲイルの浅はかさを笑った。

「冷静になって考えればわかることじゃないか。僕の勝ちは揺るがない! 僕のドラゴンで、今度こそアビゲイルを灰にしてやる!」
「それは楽しみだ」

 僕の左隣に椅子が置かれて、そこに部下が座った。
 赤い軍服の腕章を見れば、それが下っ端の兵であることは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。
 身の程知らずの間抜けな兵に、僕は怒りのあまり持っていた鞭を折りそうになった。

「おい、貴様! 貴様ごときがなぜ最高司令官である僕の隣に座って……」
「ドラゴンを操ろうと考えて、それを実行できるほどの魔術師は、ラピスブルー王国には存在しない」

 兵が帽子をとって顔をさらした。押しこめられていた長い髪がふわりと風になびく。
 そこには、今まで小鳥に監視させていたはずの女がいた。
 
「お初にお目にかかります、リヴァイアサン殺し……いえ、エールクラルス帝国の天才魔術師、シニストラ」

 勝気そうな瞳が、挑むように細められる。
 この僕を嘲笑うような態度に怒りを覚えたが、あえて笑顔で出迎えてやった。

「ようこそ、国を追放された元十二神、アビゲイル・デケンベル。歓迎する、よ?」

 ガッと音を立てて、アビゲイルが僕の左腕をつかんだ。振りほどこうとしても、びくともしない。

「は!? 力強っ!? 痛いっ、痛いぞ!?」

 アビゲイルは僕の腕に指を食いこませながら、にっこりと微笑んだ。

「このクソうじ虫野郎……とりあえず死ね!!」

 アビゲイルの手から炎が噴き出し、僕の左腕に燃え移った。

「うわぁぁぁぁ!? 何を考えているんだ貴様ぁぁぁぁ!?」

 燃え移った炎は勢いを増して、あっという間に僕の全身を包みこんだ。皮膚が焼ける、目が焼ける、喉が焼ける。

「ぐあぁぁぁぁ!?」
「シニストラ様!?」
「アビー様!!」

 僕の部下と、アビゲイルが連れていた従者の叫び声が響いた。
 アビゲイルは特に気にする様子もなく、その目をぎらぎらと輝かせていた。
 こいつ、死が怖くないのか!?

「おーほほほほ!! 燃えろ、燃えろ~~!!」
「だ、誰か早く水属性魔法を……誰か早く、僕を助け……」

 助けを求めて、もがき苦しむ僕の右手をつかむ者がいた。
 アビゲイルだ。
 彼女は僕と一緒に炎に包まれながらも、熱を感じていないかのように笑っている。
 人生最大の恐怖に、僕は涙を流して絶叫した。

「ぎゃあぁぁぁぁ!! 嫌だぁぁぁぁ!!」
「助かるとでも思ってんの!? 残念ね!! お前はここで死ぬのよ!! 死んで炭になりなさーい!!」
「ひぃぃぃぃ!?」
「おーほほほほ!!」

 炎に視力を奪われ、視界が暗闇に支配される。
 唯一機能していた僕の耳の奥で、アビゲイルの悪魔のような笑い声がこだましていた。



「ようこそ、国を追放された元十二神、アビゲイル・デケンベル。歓迎するよ」

 目の前には炭になったシニストラ、じゃなくて嫌味たらしく笑っているシニストラがいた。
 私は心底がっかりして、思わず深いため息をついた。

「あーあ、どうして殺意が高まると、私も一緒に燃えるのかしら。死ぬのはこいつだけでいいのに」
「何を言っているのかわからんが、貴様が死ね」
「あら、そう怒らないでよ。私はあなたを尊敬しているのよ?」
「何?」

 シニストラは疑わしげに眉をひそめた。

「あなたはエールクラルス帝国に生まれた天才魔術師で、主に魔道具方面の才能に恵まれた。そして、十歳になった時に、あのリヴァイアサンを討伐した」
「そうだ、よく勉強しているじゃないか」
「けれど、神童と呼ばれたあなたは、その才能で様々な悪事を働き、追放された。今は国賊であり大罪人だったかしら?」

 シニストラは額に青筋を立てたが、怒鳴り散らすような真似はしなかった。

「ふん、そんな挑発には乗らん」
「あら、残念! 意外に冷静ね」
「僕のほうこそ、きみの意外な才能に驚いていたところさ」
「そうなの?」
「偶然僕の居場所を突き止め、偶然数々の罠を突破してここまでやって来た。きみは運が良いらしい。特別に、再利用価値のあるゴミとして認めてあげようじゃないか!」

 シニストラが小馬鹿にしたように笑って言った。
 私の隣で、インペラトルの軍服を着たシルバーが「殺す」とつぶやいた。でも、実際に行動を起こしたのはイスカのほうだった。

「お前らのせいで、どれだけ俺たちが苦しめられたのか、どれだけの人たちが苦しんだのか、わかってんのか!?」

 イスカが憎しみをぶつけるように叫んで、手に持っていた槍を突きつけた。
 シニストラは怪訝そうな顔をした。

「何を言っている? ただの実験動物を気にかける馬鹿がどこにいるのだ」
「じ、実験動物だと!?」
「貴様はシューラ族だな。シューラ族は身体が頑丈だから、実験動物や戦いの道具として重宝ちょうほうしたよ。優秀な遺伝子を持つシューラ族を交配して、僕好みの兵器を作る予定だったが、まさか裏切るとはな……次は改良した操術で、徹底的に自由を奪うとするか! あははは!」

 シニストラは毒々しい笑い声を上げた。
 イスカは目を血走らせて、槍で襲いかかろうとした。

「待ちなさい」
「マスター! どうして止める!!」

 腕をつかんで止めると、イスカは獣が威嚇するように歯を見せて、うなり声を上げた。

「まだ動くには早いからよ」
「く……わかったよ」

 イスカは不承不承といった感じで後ろに下がった。にぎった拳が怒りで震えていた。
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