死に戻り悪役令嬢、すぐ燃える~最弱魔術師ですが『燃えると死に戻りする』を乱用して、全人類をひざまずかせます!~

屋根上花火

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第10章 対決、インペラトル!

7話 禁術発動!!

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 シューラ族たちの雄叫びが聞こえた。崖のすぐ下にある森の中からだ。
 座っていた椅子がガタガタと音を立てる。興奮して、思わず立ち上がりかけたせいだ。

「僕にせまってきている?」

 僕はハンカチを取り出して額の汗を拭いた。

「どういうことだ? アビゲイルはドラゴンが追っている方角にいるはずだろう!?」

 僕の位置から遠く離れた場所に、ドラゴンは飛んでいる。小鳥の監視は問題ないはずだ。なのに、なぜ?
 僕は無意識に、眼鏡のブリッジに触れていた。

「そうか、別働隊がこちらに向かっているということか。ならば焦る必要はないな」
「しかし、シニストラ様。その別働隊は魔物の配置を把握して、手薄な場所を的確に選んでいるように思えます」

 部下が不安そうな顔で言った。さらに別の部下が、何度も周囲を警戒しながらつづけた。

「こちらの情報が筒抜つつぬけということは、インペラトル内にアビゲイルのスパイがいるのでは?」
「そんなはずはない、どうせ偶然だ! あんなゴミ魔術師にそんな知能があるものか! 現にやつは致命的なミスを犯したぞ!」

 僕はブレスレットの黒い石に触れて、魔力を注ぎこんだ。こうすれば、より操術の威力が増すはずだ。

「自ら居場所を教えるような、知能がゴミレベルの戦闘民族を仲間にしたのが貴様の敗因だ! 戻ってこい、ドラゴン! 抵抗は許さんぞ!」

 ブレスレットの黒い石が光って、ドラゴンが雄叫びを上げながら左に旋回した。

「まずはその別働隊から灰にしてやるぞ、アビゲイル!」
「そう来ると思ったわよ、シニストラ! ラヴァ、聞こえる?」

 私は森の中を移動しながら、右耳につけたイヤリングに話しかけた。イヤリングについた赤い石がぴかぴかと輝く。

『ウキー!』

 耳元で甲高い鳴き声が響いた。
 即席の簡易通信魔道具だけど、性能は悪くない。が、音量くっそでかくて耳が死にそう。

「声量落として。あと今は人間体なんだから人語をしゃべりなさい。もう使ってあげないわよ?」
『あ、やだ! 申し訳ありません、ご主人様!』

 イヤリングから、ラヴァのしゅんとした声が届いた。

「今まで私のふりをしてドラゴンを引きつけてくれたけど、今度はこっちから反撃するわよ。禁術『ドラゴンブラッド』を発動させるわ!」
『了解です!』

 ユーリウス家の禁術ドラゴンブラッド。
 火属性魔法の頂点とも言える威力を持ち、その名は「ドラゴンの血に触れるだけで燃えて灰になる」という伝説からつけられている。
 
「うまくいったら、あなたをたくさん召喚して使ってあげるわ」
『本当ですか!? ラヴァ、頑張りますから、これが終わったらたーっくさんお世話させてくださいね! 他の十二神よりもたくさんですよ?』
「いいわよ、存分にこき使ってあげるわ!」
『やった! うふふふ、やぁっとご主人様に可愛がっていただけます! 私なしでは生きていけない身体にしてさしあげますね……』

 イヤリングから毒のように甘い笑い声が聞こえた。シルバーが顔をしかめる。

「その家具、どこかに放置しましょう」
「調教しすぎたけど性能には問題ないわ!」
「そういう問題では……」
「それに! ラヴァは私が捕獲した十二神の中で、もっとも強力な魔法が使えるのよ。とはいえ、ラヴァ単体の魔力だけじゃドラゴンブラッドは発動できないから、私の魔力を供給しないといけないけど」

 私は肺いっぱいに空気を吸いこんで、詠唱を始めた。

「それは高潔こうけつつかさど音色ねいろ、その名は偉大なる竜」

 私につづいて、ラヴァが詠唱を始める。

『それは不老不死をもたらした毒、その名は竜の血』

 私とラヴァの声が重なる。

「血で満たしたさかずき、つかむ右手は恐れを知らず、身魂安楽しんこんあんらくを望む者、すべてを飲み干せ!」

 肌を焼き焦がすような熱風が吹き抜けて、全身の魔力がごっそり抜け落ちる感覚がした。
 私とラヴァは声を張り上げた。

不浄焼き払う竜の血ドラゴンブラッド!!」

 呪文を唱えると、ドラゴンごと天を貫くようにして巨大な火柱が立った。
 光が強すぎて、世界は一瞬暗闇に包まれる。
 まるで、この世界の光源がその火柱だけになったと言っても過言ではないほどの、地獄のような光景だった。

「ガァァァァ!!」

 火柱に捕われたドラゴンの絶叫が、ビリビリと鼓膜を揺らす。
 それでも、ドラゴンが灰になる様子はない。

「禁術レベルの魔法でもドラゴンを仕留められないなんて、本当に化け物ね!」
「ある程度離れている私たちでさえ、熱風で皮膚が焼け焦げそうだというのに」
 
 シルバーが、もがき暴れるドラゴンを見ながら言った。
 その時、苛立ったドラゴンが、地上のラヴァ目掛けて炎を吐き出した。

「うわ、地獄絵図。ラヴァ、死んでる?」
『あははっ、ドラゴンのくせにこんなものですか!? 退屈すぎてあくびが出ますねぇ!!』
「余裕か。ドラゴンをあおるなんて、さすが無駄に火属性耐性のあるラヴァね。ラヴァより先に簡易通信魔道具が壊れそうだわ」

 ラヴァの声にノイズが混じり始めたので、私はイヤリングを外した。

「せっかく手に入れた家具を壊しちゃうのは惜しいし、さっさと決着をつけてやるわよ」

 シニストラがいる崖は、目と鼻の先だった。
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