50 / 73
第10章 対決、インペラトル!
7話 禁術発動!!
しおりを挟む
シューラ族たちの雄叫びが聞こえた。崖のすぐ下にある森の中からだ。
座っていた椅子がガタガタと音を立てる。興奮して、思わず立ち上がりかけたせいだ。
「僕に迫ってきている?」
僕はハンカチを取り出して額の汗を拭いた。
「どういうことだ? アビゲイルはドラゴンが追っている方角にいるはずだろう!?」
僕の位置から遠く離れた場所に、ドラゴンは飛んでいる。小鳥の監視は問題ないはずだ。なのに、なぜ?
僕は無意識に、眼鏡のブリッジに触れていた。
「そうか、別働隊がこちらに向かっているということか。ならば焦る必要はないな」
「しかし、シニストラ様。その別働隊は魔物の配置を把握して、手薄な場所を的確に選んでいるように思えます」
部下が不安そうな顔で言った。さらに別の部下が、何度も周囲を警戒しながらつづけた。
「こちらの情報が筒抜けということは、インペラトル内にアビゲイルのスパイがいるのでは?」
「そんなはずはない、どうせ偶然だ! あんなゴミ魔術師にそんな知能があるものか! 現にやつは致命的なミスを犯したぞ!」
僕はブレスレットの黒い石に触れて、魔力を注ぎこんだ。こうすれば、より操術の威力が増すはずだ。
「自ら居場所を教えるような、知能がゴミレベルの戦闘民族を仲間にしたのが貴様の敗因だ! 戻ってこい、ドラゴン! 抵抗は許さんぞ!」
ブレスレットの黒い石が光って、ドラゴンが雄叫びを上げながら左に旋回した。
「まずはその別働隊から灰にしてやるぞ、アビゲイル!」
「そう来ると思ったわよ、シニストラ! ラヴァ、聞こえる?」
私は森の中を移動しながら、右耳につけたイヤリングに話しかけた。イヤリングについた赤い石がぴかぴかと輝く。
『ウキー!』
耳元で甲高い鳴き声が響いた。
即席の簡易通信魔道具だけど、性能は悪くない。が、音量くっそでかくて耳が死にそう。
「声量落として。あと今は人間体なんだから人語をしゃべりなさい。もう使ってあげないわよ?」
『あ、やだ! 申し訳ありません、ご主人様!』
イヤリングから、ラヴァのしゅんとした声が届いた。
「今まで私のふりをしてドラゴンを引きつけてくれたけど、今度はこっちから反撃するわよ。禁術『ドラゴンブラッド』を発動させるわ!」
『了解です!』
ユーリウス家の禁術ドラゴンブラッド。
火属性魔法の頂点とも言える威力を持ち、その名は「ドラゴンの血に触れるだけで燃えて灰になる」という伝説からつけられている。
「うまくいったら、あなたをたくさん召喚して使ってあげるわ」
『本当ですか!? ラヴァ、頑張りますから、これが終わったらたーっくさんお世話させてくださいね! 他の十二神よりもたくさんですよ?』
「いいわよ、存分にこき使ってあげるわ!」
『やった! うふふふ、やぁっとご主人様に可愛がっていただけます! 私なしでは生きていけない身体にしてさしあげますね……』
イヤリングから毒のように甘い笑い声が聞こえた。シルバーが顔をしかめる。
「その家具、どこかに放置しましょう」
「調教しすぎたけど性能には問題ないわ!」
「そういう問題では……」
「それに! ラヴァは私が捕獲した十二神の中で、もっとも強力な魔法が使えるのよ。とはいえ、ラヴァ単体の魔力だけじゃドラゴンブラッドは発動できないから、私の魔力を供給しないといけないけど」
私は肺いっぱいに空気を吸いこんで、詠唱を始めた。
「それは高潔を司る音色、その名は偉大なる竜」
私につづいて、ラヴァが詠唱を始める。
『それは不老不死をもたらした毒、その名は竜の血』
私とラヴァの声が重なる。
「血で満たした杯、つかむ右手は恐れを知らず、身魂安楽を望む者、すべてを飲み干せ!」
肌を焼き焦がすような熱風が吹き抜けて、全身の魔力がごっそり抜け落ちる感覚がした。
私とラヴァは声を張り上げた。
「不浄焼き払う竜の血!!」
呪文を唱えると、ドラゴンごと天を貫くようにして巨大な火柱が立った。
光が強すぎて、世界は一瞬暗闇に包まれる。
まるで、この世界の光源がその火柱だけになったと言っても過言ではないほどの、地獄のような光景だった。
「ガァァァァ!!」
火柱に捕われたドラゴンの絶叫が、ビリビリと鼓膜を揺らす。
それでも、ドラゴンが灰になる様子はない。
「禁術レベルの魔法でもドラゴンを仕留められないなんて、本当に化け物ね!」
「ある程度離れている私たちでさえ、熱風で皮膚が焼け焦げそうだというのに」
シルバーが、もがき暴れるドラゴンを見ながら言った。
その時、苛立ったドラゴンが、地上のラヴァ目掛けて炎を吐き出した。
「うわ、地獄絵図。ラヴァ、死んでる?」
『あははっ、ドラゴンのくせにこんなものですか!? 退屈すぎてあくびが出ますねぇ!!』
「余裕か。ドラゴンをあおるなんて、さすが無駄に火属性耐性のあるラヴァね。ラヴァより先に簡易通信魔道具が壊れそうだわ」
ラヴァの声にノイズが混じり始めたので、私はイヤリングを外した。
「せっかく手に入れた家具を壊しちゃうのは惜しいし、さっさと決着をつけてやるわよ」
シニストラがいる崖は、目と鼻の先だった。
座っていた椅子がガタガタと音を立てる。興奮して、思わず立ち上がりかけたせいだ。
「僕に迫ってきている?」
僕はハンカチを取り出して額の汗を拭いた。
「どういうことだ? アビゲイルはドラゴンが追っている方角にいるはずだろう!?」
僕の位置から遠く離れた場所に、ドラゴンは飛んでいる。小鳥の監視は問題ないはずだ。なのに、なぜ?
僕は無意識に、眼鏡のブリッジに触れていた。
「そうか、別働隊がこちらに向かっているということか。ならば焦る必要はないな」
「しかし、シニストラ様。その別働隊は魔物の配置を把握して、手薄な場所を的確に選んでいるように思えます」
部下が不安そうな顔で言った。さらに別の部下が、何度も周囲を警戒しながらつづけた。
「こちらの情報が筒抜けということは、インペラトル内にアビゲイルのスパイがいるのでは?」
「そんなはずはない、どうせ偶然だ! あんなゴミ魔術師にそんな知能があるものか! 現にやつは致命的なミスを犯したぞ!」
僕はブレスレットの黒い石に触れて、魔力を注ぎこんだ。こうすれば、より操術の威力が増すはずだ。
「自ら居場所を教えるような、知能がゴミレベルの戦闘民族を仲間にしたのが貴様の敗因だ! 戻ってこい、ドラゴン! 抵抗は許さんぞ!」
ブレスレットの黒い石が光って、ドラゴンが雄叫びを上げながら左に旋回した。
「まずはその別働隊から灰にしてやるぞ、アビゲイル!」
「そう来ると思ったわよ、シニストラ! ラヴァ、聞こえる?」
私は森の中を移動しながら、右耳につけたイヤリングに話しかけた。イヤリングについた赤い石がぴかぴかと輝く。
『ウキー!』
耳元で甲高い鳴き声が響いた。
即席の簡易通信魔道具だけど、性能は悪くない。が、音量くっそでかくて耳が死にそう。
「声量落として。あと今は人間体なんだから人語をしゃべりなさい。もう使ってあげないわよ?」
『あ、やだ! 申し訳ありません、ご主人様!』
イヤリングから、ラヴァのしゅんとした声が届いた。
「今まで私のふりをしてドラゴンを引きつけてくれたけど、今度はこっちから反撃するわよ。禁術『ドラゴンブラッド』を発動させるわ!」
『了解です!』
ユーリウス家の禁術ドラゴンブラッド。
火属性魔法の頂点とも言える威力を持ち、その名は「ドラゴンの血に触れるだけで燃えて灰になる」という伝説からつけられている。
「うまくいったら、あなたをたくさん召喚して使ってあげるわ」
『本当ですか!? ラヴァ、頑張りますから、これが終わったらたーっくさんお世話させてくださいね! 他の十二神よりもたくさんですよ?』
「いいわよ、存分にこき使ってあげるわ!」
『やった! うふふふ、やぁっとご主人様に可愛がっていただけます! 私なしでは生きていけない身体にしてさしあげますね……』
イヤリングから毒のように甘い笑い声が聞こえた。シルバーが顔をしかめる。
「その家具、どこかに放置しましょう」
「調教しすぎたけど性能には問題ないわ!」
「そういう問題では……」
「それに! ラヴァは私が捕獲した十二神の中で、もっとも強力な魔法が使えるのよ。とはいえ、ラヴァ単体の魔力だけじゃドラゴンブラッドは発動できないから、私の魔力を供給しないといけないけど」
私は肺いっぱいに空気を吸いこんで、詠唱を始めた。
「それは高潔を司る音色、その名は偉大なる竜」
私につづいて、ラヴァが詠唱を始める。
『それは不老不死をもたらした毒、その名は竜の血』
私とラヴァの声が重なる。
「血で満たした杯、つかむ右手は恐れを知らず、身魂安楽を望む者、すべてを飲み干せ!」
肌を焼き焦がすような熱風が吹き抜けて、全身の魔力がごっそり抜け落ちる感覚がした。
私とラヴァは声を張り上げた。
「不浄焼き払う竜の血!!」
呪文を唱えると、ドラゴンごと天を貫くようにして巨大な火柱が立った。
光が強すぎて、世界は一瞬暗闇に包まれる。
まるで、この世界の光源がその火柱だけになったと言っても過言ではないほどの、地獄のような光景だった。
「ガァァァァ!!」
火柱に捕われたドラゴンの絶叫が、ビリビリと鼓膜を揺らす。
それでも、ドラゴンが灰になる様子はない。
「禁術レベルの魔法でもドラゴンを仕留められないなんて、本当に化け物ね!」
「ある程度離れている私たちでさえ、熱風で皮膚が焼け焦げそうだというのに」
シルバーが、もがき暴れるドラゴンを見ながら言った。
その時、苛立ったドラゴンが、地上のラヴァ目掛けて炎を吐き出した。
「うわ、地獄絵図。ラヴァ、死んでる?」
『あははっ、ドラゴンのくせにこんなものですか!? 退屈すぎてあくびが出ますねぇ!!』
「余裕か。ドラゴンをあおるなんて、さすが無駄に火属性耐性のあるラヴァね。ラヴァより先に簡易通信魔道具が壊れそうだわ」
ラヴァの声にノイズが混じり始めたので、私はイヤリングを外した。
「せっかく手に入れた家具を壊しちゃうのは惜しいし、さっさと決着をつけてやるわよ」
シニストラがいる崖は、目と鼻の先だった。
71
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる