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第10章 対決、インペラトル!
6話 これが私のドラゴン攻略作戦よ!
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漆黒のドラゴンが、広大な森の上を行ったり来たりしている。
私は森の中に身を潜ませながら、その様子を観察していた。
「効いてる、効いてる。今頃シニストラは、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしてるはずよ!」
「アビー様、準備できました」
「よくやったわ、シルバー!」
私の背後には、シューラ族が狩った動物の肉が積み上がっていた。
シルバーはその肉の山とドラゴンを交互に見て言った。
「なぜ森のあちこちに肉を設置するのかと疑問でしたが、ドラゴンをおびき寄せるためだったのですね」
「ええ、そうよ。さらに、その肉にガルラ村で手に入れたドラゴンハーブを加えれば完成!」
私は道具袋から適当にドラゴンハーブをつかんで、肉にふりかけた。
見た目は、細かい葉がたくさんついた、どこにでもありそうなハーブだけどね。
「ドラゴンハーブは、ドラゴンが好む香りだと言われているの。このハーブと肉の効果でドラゴンが誘惑されてるってわけ」
「なるほど、食欲がシニストラの操術を上回ったというわけですね」
「その食欲が重要なのよ。特にドラゴンの場合はね」
「どういうことだ?」
途中から話を聞いていたイスカが首をかしげた。
「前提として、プライドの高いドラゴンは人間が用意した食べ物や、人間そのものを捕食することは、絶対にない」
「絶対って、本当なのか?」
イスカが疑わしげに眉をひそめる。私は自信満々に答えた。
「ええ、絶対よ。なぜなら、ドラゴンにとって人間は汚いから、食べる価値すらないの。捕食せず、ただ殺すだけなのよ」
「しかしアビー様、あのドラゴンは我々の用意した肉に反応しています」
「そこが重要なのよ! あのドラゴンは、大嫌いな人間が用意した肉で腹を満たさなければならないほど、飢餓状態に陥っているの。シニストラの操術は魔道具だけじゃなくて、飢餓状態を利用して操術の効力を上げているのよ」
「つまり、食事をあえて与えないことで、ドラゴンの判断力を奪っているということですね」
「そういうこと!」
シルバーとイスカが同時に感嘆の声を漏らした。
「へえ~、すげぇな!」
「さすがアビー様、あのドラゴンが飢餓状態だとよく気がつきましたね」
「シルバーが、『あのドラゴンは人間を食らう』と教えてくれたからね!」
「お……教えていませんが?」
「予知夢でね!!」
困ったような顔をしたシルバーに、私は反射的にそう叫んでいた。
納得してくれたのか、シルバーはどこか誇らしげな顔をしてうなずいた。
「予知夢の中の私が、アビー様のお役に立てたならば光栄です」
「私の所有物なんだから、役に立って当然じゃない!」
お役に立ったどころか、あなたは私のために死んだわよ。とは言えなかった。
ドラゴン戦でシルバーが死んだのは、最初のあの一回だけ。でも、私にとっては許容できない一回だった。
ドラゴンとその背後にいるシニストラに対して沸々と殺意が湧き上がるけど、まだその時じゃない。
私は感情を押し殺して、号令をかけた。
「さあ、ドラゴンが来る前に出発するわよ!」
「了解しました」
「おう、ようやくだな!」
シルバーとイスカが真剣な顔で応えた。
私はロックを羊型省エネ召喚して、もこもこの背中に飛び乗った。シルバーたちもオオカミの背中に乗って、私の指示を待っている。
「さあ、出発! 走りなさい!」
「モーフモフモフモフ!」
「気持ち悪い鳴き声ね」
「ひどい! ご主人様がそう鳴けって言ったのに!!」
ロックはぽろぽろと涙を流しながら走り出した。
私の隣にシルバー、私たちの後ろにイスカたちシューラ族がつづく。
「アビー様、操術の効力を低下させたのは、私たちがシニストラのもとへたどり着くための時間稼ぎですよね?」
「そうよ!」
「完全にドラゴンを振り切ったほうが良いのでは?」
「当然の疑問よね、私もそうしたい」
私は行く先々で発生したドラゴンエンドを思い出して、頬を引きつらせながら笑った。
「でも、完全に振り切るとキナラ村が焼き尽くされちゃうのよね。正直村がどうなろうと関係ないけど、私があいつに敗北したみたいでムカつくのよ!」
「なるほど、だから完全には見失わせないように、ラヴァを囮にしたんですね」
「ええ、そうよ!」
私は悪びれることなく、にっこりと微笑んだ。
「ちょうど体格も同じくらいだしね。私の服に香水、同じ髪色のウィッグをつければほとんど私よ! ドラゴンは指示通りラヴァを追いかけるし、見失ったことにはならないでしょう?」
ガルラ村に向かう前にシューラ族の服に着替えたり、別の香水をつけたりしたのはこのためだ。
「シニストラったらお間抜けねぇ~! 最高のお嬢様である私が、常に同じ格好をするわけないじゃない! 香りだってこだわってるのよ!」
「そうですよ、アビー様はいつも汗くさいわけじゃありませんよ」
「ん? たまに汗くさいみたいに聞こえるんだけど!? とにかく! ラヴァが囮になっている間にシニストラを見つけるわよ! ドラゴンを操るのはシニストラ本人のはずだから、絶対に近くにいるわ!」
何度も死に戻りしてるから、シニストラの周辺に配置されている魔物の種類も数も覚えている。そのおかげで、シニストラの居場所は大体わかった。
「隠密なんて柄じゃないわ! 派手にいきましょう!」
「おお!」
私の声に応えるように、シューラ族たちが雄叫びを上げた。
「いいんですか、アビー様、こちらの居場所がバレますが……」
「あえてよ! 命が狙われていることを、ちゃんと自覚させないとねぇ? こっちは何度死んだと思ってんのよ、ぶっ殺してやるわ」
「モフ!?」
怒りに任せて羊毛をにぎると、ロックが悲鳴を上げた。
何度死んでも正気を保っていられたのは、シニストラへの激しい殺意のおかげだった。
「ふふふ、感謝してるから、いい子にして待ってなさいよ、シニストラァ……」
私の声は、期待と興奮と殺意でうわずっていた。
私は森の中に身を潜ませながら、その様子を観察していた。
「効いてる、効いてる。今頃シニストラは、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしてるはずよ!」
「アビー様、準備できました」
「よくやったわ、シルバー!」
私の背後には、シューラ族が狩った動物の肉が積み上がっていた。
シルバーはその肉の山とドラゴンを交互に見て言った。
「なぜ森のあちこちに肉を設置するのかと疑問でしたが、ドラゴンをおびき寄せるためだったのですね」
「ええ、そうよ。さらに、その肉にガルラ村で手に入れたドラゴンハーブを加えれば完成!」
私は道具袋から適当にドラゴンハーブをつかんで、肉にふりかけた。
見た目は、細かい葉がたくさんついた、どこにでもありそうなハーブだけどね。
「ドラゴンハーブは、ドラゴンが好む香りだと言われているの。このハーブと肉の効果でドラゴンが誘惑されてるってわけ」
「なるほど、食欲がシニストラの操術を上回ったというわけですね」
「その食欲が重要なのよ。特にドラゴンの場合はね」
「どういうことだ?」
途中から話を聞いていたイスカが首をかしげた。
「前提として、プライドの高いドラゴンは人間が用意した食べ物や、人間そのものを捕食することは、絶対にない」
「絶対って、本当なのか?」
イスカが疑わしげに眉をひそめる。私は自信満々に答えた。
「ええ、絶対よ。なぜなら、ドラゴンにとって人間は汚いから、食べる価値すらないの。捕食せず、ただ殺すだけなのよ」
「しかしアビー様、あのドラゴンは我々の用意した肉に反応しています」
「そこが重要なのよ! あのドラゴンは、大嫌いな人間が用意した肉で腹を満たさなければならないほど、飢餓状態に陥っているの。シニストラの操術は魔道具だけじゃなくて、飢餓状態を利用して操術の効力を上げているのよ」
「つまり、食事をあえて与えないことで、ドラゴンの判断力を奪っているということですね」
「そういうこと!」
シルバーとイスカが同時に感嘆の声を漏らした。
「へえ~、すげぇな!」
「さすがアビー様、あのドラゴンが飢餓状態だとよく気がつきましたね」
「シルバーが、『あのドラゴンは人間を食らう』と教えてくれたからね!」
「お……教えていませんが?」
「予知夢でね!!」
困ったような顔をしたシルバーに、私は反射的にそう叫んでいた。
納得してくれたのか、シルバーはどこか誇らしげな顔をしてうなずいた。
「予知夢の中の私が、アビー様のお役に立てたならば光栄です」
「私の所有物なんだから、役に立って当然じゃない!」
お役に立ったどころか、あなたは私のために死んだわよ。とは言えなかった。
ドラゴン戦でシルバーが死んだのは、最初のあの一回だけ。でも、私にとっては許容できない一回だった。
ドラゴンとその背後にいるシニストラに対して沸々と殺意が湧き上がるけど、まだその時じゃない。
私は感情を押し殺して、号令をかけた。
「さあ、ドラゴンが来る前に出発するわよ!」
「了解しました」
「おう、ようやくだな!」
シルバーとイスカが真剣な顔で応えた。
私はロックを羊型省エネ召喚して、もこもこの背中に飛び乗った。シルバーたちもオオカミの背中に乗って、私の指示を待っている。
「さあ、出発! 走りなさい!」
「モーフモフモフモフ!」
「気持ち悪い鳴き声ね」
「ひどい! ご主人様がそう鳴けって言ったのに!!」
ロックはぽろぽろと涙を流しながら走り出した。
私の隣にシルバー、私たちの後ろにイスカたちシューラ族がつづく。
「アビー様、操術の効力を低下させたのは、私たちがシニストラのもとへたどり着くための時間稼ぎですよね?」
「そうよ!」
「完全にドラゴンを振り切ったほうが良いのでは?」
「当然の疑問よね、私もそうしたい」
私は行く先々で発生したドラゴンエンドを思い出して、頬を引きつらせながら笑った。
「でも、完全に振り切るとキナラ村が焼き尽くされちゃうのよね。正直村がどうなろうと関係ないけど、私があいつに敗北したみたいでムカつくのよ!」
「なるほど、だから完全には見失わせないように、ラヴァを囮にしたんですね」
「ええ、そうよ!」
私は悪びれることなく、にっこりと微笑んだ。
「ちょうど体格も同じくらいだしね。私の服に香水、同じ髪色のウィッグをつければほとんど私よ! ドラゴンは指示通りラヴァを追いかけるし、見失ったことにはならないでしょう?」
ガルラ村に向かう前にシューラ族の服に着替えたり、別の香水をつけたりしたのはこのためだ。
「シニストラったらお間抜けねぇ~! 最高のお嬢様である私が、常に同じ格好をするわけないじゃない! 香りだってこだわってるのよ!」
「そうですよ、アビー様はいつも汗くさいわけじゃありませんよ」
「ん? たまに汗くさいみたいに聞こえるんだけど!? とにかく! ラヴァが囮になっている間にシニストラを見つけるわよ! ドラゴンを操るのはシニストラ本人のはずだから、絶対に近くにいるわ!」
何度も死に戻りしてるから、シニストラの周辺に配置されている魔物の種類も数も覚えている。そのおかげで、シニストラの居場所は大体わかった。
「隠密なんて柄じゃないわ! 派手にいきましょう!」
「おお!」
私の声に応えるように、シューラ族たちが雄叫びを上げた。
「いいんですか、アビー様、こちらの居場所がバレますが……」
「あえてよ! 命が狙われていることを、ちゃんと自覚させないとねぇ? こっちは何度死んだと思ってんのよ、ぶっ殺してやるわ」
「モフ!?」
怒りに任せて羊毛をにぎると、ロックが悲鳴を上げた。
何度死んでも正気を保っていられたのは、シニストラへの激しい殺意のおかげだった。
「ふふふ、感謝してるから、いい子にして待ってなさいよ、シニストラァ……」
私の声は、期待と興奮と殺意でうわずっていた。
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