上 下
41 / 73
第8章 鬼退治

14話 アンデッドクイーンと十二神を服従させます!

しおりを挟む
「やめろ、そんなおぞましいもの、このワシに向けるでない!」
「どうして? さっきまで熱い視線を送っていたじゃないの、ほら!!」
「うぎゃあ!?」

 距離を詰めて紋章を顔に近づけると、シュアンは涙目になって悲鳴を上げた。顔は青ざめ、ぶるぶると身体を震わせている。

「やめるのじゃ、やめておくれ!! それだけはやめてよぉ!!」
「のじゃ口調でキャラ付けしていたくせに、早速崩壊してるんですけど!? 自分のキャラ解像度低すぎじゃないの~~!?」
「うわぁぁぁぁん!! 口調いじるのひどいのじゃあぁぁぁぁ! この馬鹿、アホ、ブーース!!」
「殺すぞ」

 シュアンは私に暴言を吐きながら、子供のように泣きじゃくった。
 理由はわからないけど、どうやらこの紋章が弱点らしい。
 その時、魔物封印専用ブレスレットが光った。

「そうだった、魔物が抵抗できない状態になったらこれが使えるわ! おーほほほほ! 服従しなさーい!」

 ブレスレットから黄金色のくさりが飛び出して、シュアンの身体を拘束した。

「な!? お前に服従とか死んでも嫌じゃあぁぁぁぁ!!」
「死んでコアだけになっても構わないわよ」
「お前本当に鬼畜じゃな!? 人の心とかないのか!?」

 シュアンは必死に逃げ出そうと全身でもがいていたけど、ずるずると私のほうへ引きずられて、最後はブレスレットに吸いこまれて消えた。
 シュアンが封印されると、私の全身に魔力がみなぎった。

「封印した魔物の魔力を、私の魔力として扱えるとは聞いていたけど……すごいわ、これ!」
「アビー様、体調は大丈夫ですか?」

 シルバーが駆け寄ってきて、心配そうに顔を覗きこんできた。

「ええ、問題ないわ! 魔力増加の他にも、封印した魔物の能力を魔法として使用できるみたい!」
「つまり、生き物をアンデッド化させる魔法が使える、ということですね」
「そうよ! ああ、でも、アンデッドをひざまずかせても意味ないのよね。とりあえず、魔力が増加したおかげで十二神を三人召喚しても問題なさそうだわ!」

 私は腰に手を当てて、辺りを見渡した。
 シュアンが封印されたことで、瘴気に支配されていた空は雲ひとつない青空に戻っていた。
 瘴気の気配もないし、数カ月もすれば緑が戻ってくるはず。

「喜びなさいよ、シューラ族。あなたたちを悩ませていたアンデッドクイーンは私が封印したわ。これで瘴気に悩まされることもないわよ」
「ええ!?」

 歓声よりも、驚きの声が上がった。
 すぐには信じられないのか、イスカが心配そうな顔をして言った。

「マジならすげぇけど……アンデッドはそのブレスレットに封印されてんだろ? あんたは大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。このブレスレットは特別製だから、瘴気が漏れることはないわ!」

 それを聞いたイスカはほっと安堵した様子で、ようやく笑顔を見せた。

「そっか、それならよかった! あんた本当に色々とすげぇな!」
「まあね!」

 イスカが信じたことで、他のシューラ族たちも「千年の呪いから解放された!」と歓声を上げた。
 私はしばらくその光景を眺めてから、ひとり地面にうずくまっている人物に視線を向けた。

「あら、ひとりだけ大ダメージを負ってるやつがいるわね?」

 「ダイジョーブ?」と声をかけると、その場にうずくまっていたラヴァが、ぜえぜえと息を切らしながら私をにらんだ。
 瘴気の侵食によって肌は焼けただれた状態になり、ひどく出血している。

「これくらい、平気です! 王都に戻ればすぐに治せます!」
「ふうん?」

 私はラヴァに近づいて左手をつかんだ。触れられただけでも激痛が走るのか、ラヴァは顔をしかめて小さくうめいた。

「く、ぅ……は、離してください!」
「嫌よ」

 私はラヴァの左手に、本気で噛みついた。

「ぎゃあぁぁぁぁ!? 痛い、痛い!! やめて、離して!!」

 ラヴァは目を見開いて絶叫し、あわてて手を引き抜いた。左手にはくっきりと歯形がついている。

「あなたいったい何を考えているんですか!? 本気で噛みついてくるなんて信じられません!」
「仕返し」
「はあ!? え、何これ……」

 ラヴァの左手は、不自然なほど青白くなっていた。その範囲は、私がつけた歯形を中心にして徐々に広がっていく。

「ま、まさか、アンデッド!?」
「そうよ、あなたはもう感染しているの」

 「早速使っちゃった」と悪戯っぽく舌を出す。ラヴァの顔が恐怖に引きつった。

「あと数分で死ぬんじゃないかしら? ま、あなたのせいで全滅するところだったし、その命で償うのは当然よね」
「そ、そんな……嫌だ嫌だ嫌だ!! まだ死にたくない!!」

 冷静さを失ったラヴァは、泣きながら私の腕にすがりついた。

「アビー、お願い、助けてください! あなたにたくさんひどいことを言いました、たくさん傷つけました! それをすべて謝罪しますから!!」
「私に服従するなら考えてあげる」
「ふく……は、はい! 服従します!」
「はい、嘘。あなたの性格上、最弱魔術師である私に謝罪するなんて、プライドが許さないでしょう。絶対に裏切るわ」
「裏切ったりしません!」
「そう。なら、ネックレスにしているその指輪をちょうだい」

 ラヴァははっと息をのんで、服の上からネックレスに触れた。

「こ、これはユーリウス家の家宝で、これがないと私はユーリウス家を継ぐことができません」
「知ってるわよ。あなたにとってその指輪は命より大事なもの。何かにつけて家の名前を持ち出すほど、あなたはユーリウスの名に執着している。だってそれ以外、あなたは何も持っていないから」

 ラヴァは目を吊り上げたが、自分の立場を思い出して口をつぐんだ。

「その指輪はもう必要ないわよね? だってあなたは私に服従するんだもの」
「それは、家を捨てろという意味ですか?」
「よくわかってるじゃない。指輪と命、どっちをとるの?」 

 ラヴァは悔しげに下唇したくちびるを噛みながら、震える手でネックレスを外した。誇りよりも、自分の命を優先したらしい。

「私がここまでしたんです、助けてくれますよね?」
「服従するなら」
「服従、します」
「交渉成立ね」

 私はネックレスごと指輪を受け取ると、それをそのままシルバーに渡した。
 ラヴァが、不安そうに私を見上げる。

「シルバー、やっちゃって」
「かしこまりました」
「え?」

 シルバーは右手で指輪をにぎりこみ、バキバキと音を立てて粉砕した。

「ぎゃあぁぁぁぁ!?」

 ラヴァは金切り声の悲鳴を上げて、目と口をぽかんと開いたまま動かなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

【完結】大聖女の息子はやり直す

ゆるぽ
ファンタジー
大聖女の息子にして次期侯爵であるディート・ルナライズは義母と義姉に心酔し破滅してしまった。力尽き倒れた瞬間に15歳の誕生日に戻っていたのだ。今度は絶対に間違えないと誓う彼が行動していくうちに1度目では知らなかった事実がどんどんと明らかになっていく。母の身に起きた出来事と自身と実妹の秘密。義母と義姉の目的とはいったい?/完結いたしました。また念のためR15に変更。/初めて長編を書き上げることが出来ました。読んでいただいたすべての方に感謝申し上げます。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

処理中です...