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第8章 鬼退治
9話 あなたたちに自由を教えてあげる!
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拘束されたミーレスとその部下たちは、落ち着かない様子で上目遣いにこちらを見ていた。
「変な真似したらシルバーのオモチャにするし、猛獣たちのディナーにしちゃうかもね?」
そう脅せば、黒焦げアフロのミーレスはがたがたと震えながら何度もうなずいた。
「さあ、シューラ族にかけた魔法を解いてもらうわよ」
「お、俺には無理だ。それを仕掛けたのは俺じゃないし、俺には知識がない」
「でも操ることはできるんでしょ?」
「俺の右手首についているブレスレットがその装置だ。きっとあなたなら理解できるはずだ」
シルバーが背後にまわり、ミーレスの手首からブレスレットを外す。小さな赤い石がついた、ブレスレット型魔道具だ。
私はシルバーからブレスレットを受け取り、細部までじっくりと確認する。
「ふうん……このブレスレットがあれば、シューラ族を思いのままにできるってわけね。こんな技術があるなら、なぜ封印の地にいる魔物を支配しようとしなかったの? あれを支配できれば、かなりの戦力になるはずよ」
ミーレスはあわてて首を横に振った。
「封印されているのは恐らくアンデッド系……戦力にすれば心強いが、一歩間違えれば、破滅するのはこちらだ」
「賢明な判断ね。あなたたちはその封印が破られないように、引きつづきシューラ族に守らせていたのね」
その判断ができない女がいて、これから厄災をばらまく予定なのだけど。
元帝国兵のほうがマシって、あいつと同じ十二神だった私が恥ずかしい。
「き、貴様ら、必ず後悔するぞ」
「は?」
ミーレスはビクビクと怯えながら、小馬鹿にするように笑った。器用なやつね。
「我々の定時連絡がなければ、インペラトルから再び兵が送られてくる。どのみち貴様らは死ぬんだよ」
「やっぱりそういうことか。ラヴァがインペラトルを倒したことで定時連絡が途絶えて、こいつらが来たわけね」
結果的にラヴァの尻拭いをさせられて腹が立つけど、インペラトルの謎の魔法を解明できるいい機会だわ。
「貴様らが余裕ぶっていられるのも今の内……」
「ああ、もうこいつうるさいから、倉庫にでもぶちこんでおいて。それから、死なない程度に遊んであげてね」
ミーレスは「ひい!?」と悲鳴を発した。
好戦的なシューラ族たちは、我先にとミーレスたちを引きずって倉庫に向かっていく。
すぐに、男たちの断末魔の悲鳴が響き渡った。
「ふふ、心地良い悲鳴だわ!」
「アビゲイル殿」
シューラ族の長老が、イスカに支えられながら近づいてきた。イスカは私のほうをちらっと見て、すこし複雑な表情をした。
「我々を救っていただき、誠にありがとうございます。ぜひ、お礼をさせていただきたいのですが……」
「ああ、そう。だったら封印の地へ案内して」
長老は、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「な、何故あのような危険な場所に?」
「ラヴァをぶちのめすためよ」
「ほ!?」
私の発言で、シューラ族たちがどよめいた。
「何よ、今更あの女をかばったりしないわよね?」
「かばうわけねぇだろ、あんなやつ」
イスカが吐き捨てるように言った。
「ラヴァって女はインペラトルを倒したあと、瘴気を止めるために、封印の地に封印された魔物を退治するって言い出した。そのための案内をしてほしいってな」
「インペラトルを倒して魔物退治もしてくれるなんて、ラヴァは救世主ねぇ」
私が皮肉っぽく笑うと、イスカも似たような顏をした。
「その通りだよ。まだ動けるやつらは、みんなあいつについていった。俺は反対したんだ! インペラトルの連絡が途絶えれば、不審に思って攻めてくるって!」
憤るイスカの隣で、長老は悲しげな表情をして言った。
「ここに残っているのは、インペラトルに酷使されて身体を壊した者か、瘴気のせいで動けなくなった子供やお年寄りばかりです。ワシらは動けない者を連れて避難するべきだと説得したが、無駄だった」
「ふうん……その説得を聞いても、あの女は何も言わなかったの?」
イスカが苛立った様子で言った。
「先に瘴気の問題を解決すれば、シューラ族たちも回復して、インペラトルを返り討ちにできるでしょう、だってよ」
「わあ、言ってそ~。瘴気が消えても身体のダメージはそう簡単に消えないわよ」
「ああ、そうだ。あいつは最初から魔物退治が目的で、俺たちを利用することしか考えてねぇんだよ。インペラトルと同じさ!」
「ま、そうでしょうね」
ラヴァだって、インペラトルが再びこの村に攻めこんでくると気づいていたはず。それでも、自分の手柄を優先して、村に残ったシューラ族が全滅する未来を選んだ。
「ふふ、私は自他ともに認める悪女だけど、あの女は善人の皮をかぶったクズね」
「アビー様、どうしますか?」
シルバーが声をひそめる。
「まだ動けるシューラ族もいますし、案内を頼むことはできそうですが」
「放っておけば、またインペラトルが攻めてくるのよね。面倒だけど、今回はやることがあるのよ」
「やること、ですか?」
「ええ。ラヴァの尻拭いになるのは不本意だけど」
私は両手を腰に当てて、胸を反らして言った。
「よく聞きなさい。このアビゲイルが、あなたたちに自由を教えてあげる! あなたたちを助けてあげるわよ!」
それを聞いたシューラ族たちの反応は様々だった。
「自由を?」
「この人は私たちを助けてくれたけど……」
「信じていいのか?」
彼らは期待と困惑、迷いを口にして顔を見合わせている。最初に声を上げたのはイスカだった。
「自由だと? 今度はそういう手口かよ」
イスカはその目に軽蔑の色を浮かべて言った。
「変な真似したらシルバーのオモチャにするし、猛獣たちのディナーにしちゃうかもね?」
そう脅せば、黒焦げアフロのミーレスはがたがたと震えながら何度もうなずいた。
「さあ、シューラ族にかけた魔法を解いてもらうわよ」
「お、俺には無理だ。それを仕掛けたのは俺じゃないし、俺には知識がない」
「でも操ることはできるんでしょ?」
「俺の右手首についているブレスレットがその装置だ。きっとあなたなら理解できるはずだ」
シルバーが背後にまわり、ミーレスの手首からブレスレットを外す。小さな赤い石がついた、ブレスレット型魔道具だ。
私はシルバーからブレスレットを受け取り、細部までじっくりと確認する。
「ふうん……このブレスレットがあれば、シューラ族を思いのままにできるってわけね。こんな技術があるなら、なぜ封印の地にいる魔物を支配しようとしなかったの? あれを支配できれば、かなりの戦力になるはずよ」
ミーレスはあわてて首を横に振った。
「封印されているのは恐らくアンデッド系……戦力にすれば心強いが、一歩間違えれば、破滅するのはこちらだ」
「賢明な判断ね。あなたたちはその封印が破られないように、引きつづきシューラ族に守らせていたのね」
その判断ができない女がいて、これから厄災をばらまく予定なのだけど。
元帝国兵のほうがマシって、あいつと同じ十二神だった私が恥ずかしい。
「き、貴様ら、必ず後悔するぞ」
「は?」
ミーレスはビクビクと怯えながら、小馬鹿にするように笑った。器用なやつね。
「我々の定時連絡がなければ、インペラトルから再び兵が送られてくる。どのみち貴様らは死ぬんだよ」
「やっぱりそういうことか。ラヴァがインペラトルを倒したことで定時連絡が途絶えて、こいつらが来たわけね」
結果的にラヴァの尻拭いをさせられて腹が立つけど、インペラトルの謎の魔法を解明できるいい機会だわ。
「貴様らが余裕ぶっていられるのも今の内……」
「ああ、もうこいつうるさいから、倉庫にでもぶちこんでおいて。それから、死なない程度に遊んであげてね」
ミーレスは「ひい!?」と悲鳴を発した。
好戦的なシューラ族たちは、我先にとミーレスたちを引きずって倉庫に向かっていく。
すぐに、男たちの断末魔の悲鳴が響き渡った。
「ふふ、心地良い悲鳴だわ!」
「アビゲイル殿」
シューラ族の長老が、イスカに支えられながら近づいてきた。イスカは私のほうをちらっと見て、すこし複雑な表情をした。
「我々を救っていただき、誠にありがとうございます。ぜひ、お礼をさせていただきたいのですが……」
「ああ、そう。だったら封印の地へ案内して」
長老は、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「な、何故あのような危険な場所に?」
「ラヴァをぶちのめすためよ」
「ほ!?」
私の発言で、シューラ族たちがどよめいた。
「何よ、今更あの女をかばったりしないわよね?」
「かばうわけねぇだろ、あんなやつ」
イスカが吐き捨てるように言った。
「ラヴァって女はインペラトルを倒したあと、瘴気を止めるために、封印の地に封印された魔物を退治するって言い出した。そのための案内をしてほしいってな」
「インペラトルを倒して魔物退治もしてくれるなんて、ラヴァは救世主ねぇ」
私が皮肉っぽく笑うと、イスカも似たような顏をした。
「その通りだよ。まだ動けるやつらは、みんなあいつについていった。俺は反対したんだ! インペラトルの連絡が途絶えれば、不審に思って攻めてくるって!」
憤るイスカの隣で、長老は悲しげな表情をして言った。
「ここに残っているのは、インペラトルに酷使されて身体を壊した者か、瘴気のせいで動けなくなった子供やお年寄りばかりです。ワシらは動けない者を連れて避難するべきだと説得したが、無駄だった」
「ふうん……その説得を聞いても、あの女は何も言わなかったの?」
イスカが苛立った様子で言った。
「先に瘴気の問題を解決すれば、シューラ族たちも回復して、インペラトルを返り討ちにできるでしょう、だってよ」
「わあ、言ってそ~。瘴気が消えても身体のダメージはそう簡単に消えないわよ」
「ああ、そうだ。あいつは最初から魔物退治が目的で、俺たちを利用することしか考えてねぇんだよ。インペラトルと同じさ!」
「ま、そうでしょうね」
ラヴァだって、インペラトルが再びこの村に攻めこんでくると気づいていたはず。それでも、自分の手柄を優先して、村に残ったシューラ族が全滅する未来を選んだ。
「ふふ、私は自他ともに認める悪女だけど、あの女は善人の皮をかぶったクズね」
「アビー様、どうしますか?」
シルバーが声をひそめる。
「まだ動けるシューラ族もいますし、案内を頼むことはできそうですが」
「放っておけば、またインペラトルが攻めてくるのよね。面倒だけど、今回はやることがあるのよ」
「やること、ですか?」
「ええ。ラヴァの尻拭いになるのは不本意だけど」
私は両手を腰に当てて、胸を反らして言った。
「よく聞きなさい。このアビゲイルが、あなたたちに自由を教えてあげる! あなたたちを助けてあげるわよ!」
それを聞いたシューラ族たちの反応は様々だった。
「自由を?」
「この人は私たちを助けてくれたけど……」
「信じていいのか?」
彼らは期待と困惑、迷いを口にして顔を見合わせている。最初に声を上げたのはイスカだった。
「自由だと? 今度はそういう手口かよ」
イスカはその目に軽蔑の色を浮かべて言った。
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