上 下
35 / 73
第8章 鬼退治

8話 再来! 破壊の悪魔!

しおりを挟む

「な、何者だ!」

 ミーレスがよろよろと立ち上がり、血走った目で女をにらんだ。

「貴様らだな? 俺の可愛い部下たちを倒したのは!」
「違うわよ。私なら害虫の巣まで一気に叩き潰すもの」

 女が挑発的に笑う。害虫呼ばわりされたミーレスは、こめかみに青筋を立てて叫んだ。

「俺は元エールクラルス帝国軍の魔銃使い、ミーレス・ドゥロス大佐だ! ラピスブルー王国の十二神からも恐れられた存在なのだぞ! 貴様のようなただのゴミが敵う相手ではないのだ!」
「お会いできて光栄ですわ、元生ゴミ大佐殿。腐臭漂う、うさんくさい武勇伝をありがとう」
「貴様ぁぁぁぁっ! 余裕ぶっていられるのも今の内だ! インペラトルに刃向った罰を受けろ!!」

 ミーレスが拳銃を女に向けると、銃口を中心として巨大な魔法陣が展開された。
 俺はそれほど魔法に明るくないが、強力な魔法が発動することだけは理解できた。

「どうせ貴様は魔術師の墓場生まれの、魔法すら使えん下等人種のゴミだろう! ゴミごときが、この俺に敵うはずがないのだ! 特別に十二神を打ち破った混合魔法で抹殺してやる!!」

 ミーレスは勝ち誇ったように叫んだ。
 だが、魔法は発動しなかった。
 突然魔法陣にひびが入り、パリンとガラスが割れるような音を立てて崩壊したのだ。

「は!? ど、どういうことなんだ!?」

 魔法陣が崩壊すると同時に、ミーレスの銃の部品がばらばらに崩壊し、武器としての機能を失った。
 ミーレスは一瞬で丸腰になった。

「嘘だ、なぜこんなことに!?」
「おーほほほほ! 魔銃なんてほとんど魔道具みたいなものでしょう? 仕組みさえ理解できれば簡単に無効化できちゃうわ!」
「ば、馬鹿な! 一瞬で相手の魔道具を破壊できる魔術師など存在しない!」
「帝国は十年前の戦争から何も学んでないのね。帝国お得意の混合魔法を打ち破った魔術師がいたことを、もう忘れたのかしらぁ?」

 ミーレスは顔色を変えて、「まさか……」と怯えたようにつぶやいた。

「貴様は『破壊の悪魔』、マリアン・デケンベルの娘か!?」
「その通りよ! おーほほほほ!!」

 ミーレスはひどく取り乱した様子で、高笑いする女を凝視していた。

「破壊の悪魔って?」
「ラピスブルーの英雄じゃ」
「その声は、じいちゃん!?」

 振り返ると、長老が例のリフティング少年に支えられながら歩いていた。少年はもう片方の腕で、先ほどの少女を抱えている。

「あ……あんた、さっきは助けてくれて本当にありがとう!」
「いえ、お礼はアビー様に」

 少年はそう言って、ふたりを俺の隣に座らせた。
 長老は少年に礼を言ってから、話のつづきを語り始める。

「帝国が得意とする混合魔法を無効化したと言われる英雄が、マリアン・デケンベルじゃ。その強さから帝国では『破壊の悪魔』と恐れられ、国内では『北東の絶対守護者』として称えられておったそうじゃ」
「あのヤバイ女が、そんなすごい魔術師の娘なのか……」

 女はミーレスの反応を見て、毒々しい笑みを浮かべている。どう見ても、正義感で助けに入ったって感じの人間ではなさそうだ。
 ミーレスは声を震わせながらも、負けじと言い返した。

「そ、そんなはずはない! デケンベルの魔術師がこんな場所にいるはずがないだろう!!」
「なぁに? お父様に叩きのめされた記憶でもよみがえった?」
「黙れ! 俺は誰にも負けない!!」

 ミーレスが目を血走らせて俺たちのほうを見た。
 嫌な予感がして、後ずさりする。

「貴様ら! この女を殺せ!!」

 首の後ろにある紋章が熱を持ち、俺の意思に反して視線が女のほうを向いた。
 他のみんなも同じように、女を標的として、今にも襲いかかりそうな雰囲気だ。
 しかし、女は動揺した様子もなく、右手の甲を見せつけるようにして突き出した。そこには何かの紋章が刻まれていた。

「出でよ! 第八の守護者パロット!」

 女が叫ぶと、紋章からカードが出現した。
 カードが燃え尽きると、女の前に緑色の髪の青年が立っていた。
 ミーレスが目を見開く。

「は!? 人が出てきた!?」

 突然現れた青年はレイピアを掲げて、呪文を唱えた。

逃れよ、葉のようにアポフィリオン!」

 風が吹き荒れ、俺の身体は家の屋根の上まで巻き上げられた。
 そのまま遠くへ吹き飛ばされるかと思ったが、突然風が止んで、俺の身体はその場にふわふわと浮いていた。他のみんなも同じように浮いている。

「な、何ぃ!?」
「これでシューラ族は操れなくなったわよ!」

 なるほど、だから俺たちを空中に……。
 そこでふと疑問に思った。

「どうして俺たちを攻撃しないんだ?」

 こんな魔法を使えるなら、俺たちをまとめて攻撃する魔法だって使えたはずだ。わざわざ俺たちを避難させる理由はない。

「俺たちを、助けてくれたのか?」

 過激な女って印象が強すぎて、あまり信じられないけど、それ以外の理由が思いつかない。
 地上では、女が火炎放射器を手に、じりじりとミーレスを追いつめていた。

「十二神を打ち破ったですってぇ? このホラ吹き野郎!!」
「ご、ごめんなさい! だって本物がこんなところにいるなんて思わないじゃないですかぁ!!」
「あら、ようやく認めたのね? もう二度と嘘がつけないように、悪いお口を溶接してさしあげるわよ! おーほほほほ!!」

 女は楽しそうに笑いながら火炎を放射した。

「た、助けてー!! うぎゃあぁぁぁぁ!?」

 散々俺たちを痛めつけてきたミーレスが、命乞いをしながら必死に逃げ回っている。ひどく痛快な気分だった。
 俺は無意識に笑っていた。

「いけー!! やっちゃえー!!」
「そんなクズ男燃やせー!!」
「俺たちをそいつから解放してくれーー!!」

 シューラ族全員が、空から声援を送っていた。
 それに応えるように、女は高笑いした。

「おーほほほほ!! すべて燃やしてひざまずかせてやるわよーー!!」

 女は嬉々として、逃げ回るミーレスをあぶりつづけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました

福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...