34 / 73
第8章 鬼退治
7話 クズ悪党どもは焼却よ!
しおりを挟む
俺は耳を疑った。こいつは今、何と言った?
「ここに残ってるやつは、瘴気にやられたゴミばかりだ。大した情報も持っていないし、戦いの道具にもならない。だったら処分するしかないだろう?」
我ながら名案だ! と笑っているミーレスの顔をぐちゃぐちゃに潰してやりたい。
首の後ろの紋章さえなければ、この男を殺して仲間を逃がしてやれたのに。
「ん~それじゃあ、イスカ。手始めにガキどもを殺せ」
「な……」
絶句する俺に、ミーレスは気を良くしたように口元をゆがめて笑った。
「全員殺したら、お前だけは生かしてやろう。まあ、瘴気に侵食された身体でどれだけ生きていられるかは知らんが! さあイスカ、まずは目の前のゴミを殺せ」
「ふ、ふざけるな! やめろ!」
再び紋章が熱を持ち、身体が勝手に動き出す。焦りと恐怖で全身から嫌な汗が噴き出した。
「やめろよ、やめろ!」
「怖いよ、イスカ兄ちゃん……」
俺を兄と慕ってくれている少女が、目に涙を浮かべて、恐怖に身体を震わせながら俺を見上げている。
彼女の手足は瘴気に侵食されて、自力で立つことすらできない状態だった。
自力で逃げられないとわかっていても、叫ばずにはいられなかった。
「頼む、逃げてくれ!!」
俺の右手の拳は、少女の小さな頭に狙いを定めた。
身動きのできない少女とその母親が泣き叫ぶ。
見たくない、聞きたくないのに、目をそらすことも、耳をふさぐこともできない。
だが、振り下ろされた俺の拳は少女ではなく、間に割って入った長老の顏を殴りつけていた。
「ぐおっ!」
「長老!?」
長老の痩せた身体は軽く吹き飛んで、砂埃を上げて地面に転がった。
身体中打ちつけて、無事であるはずがないのに、長老はゆっくりと立ち上がって、歯を見せて笑った。
「ヒヒ! 良い拳をしとるのう。さすがはわしの孫じゃ」
「長老、どうして!」
転がった時に負傷したのか、右腕がだらりと垂れ下がっている。
もう一度攻撃を受けたらどうなるかを想像して、全身から血の気が引いた。
俺の考えを読んだように、長老は優しく微笑んだ。
「イスカ。これから何が起ころうとも、お前に罪はない。死への恐怖はあろうとも、誰もお前を憎みはしない。お前だけは生き残ってくれ」
「嫌だ……じいちゃん、逃げてくれ!!」
ミーレスがぷっと吹き出して、大笑いしながら手を打ち鳴らした。
「感動したぞ、ジジイ! 俺はこういう家族愛演出に弱いんだよ!」
「て、てめぇ!」
「よし、イスカ! そのジジイをひと思いに殺してやれ!」
ミーレスの命令により、再び身体が動き出す。
怒りと殺意、それを上回る嫌悪感と恐怖で、頭がおかしくなりそうだった。
「嫌だ、やめてくれ、殺したくねぇよ!!」
この腕や足を潰し、舌を噛み切りたくても、俺の意思ではどうにもならない。
じわりとにじんだ涙で視界がぼやける。このまま何も見えなくなればいいのに。
「さっさとやっちまえよ! 全員殺すまでに日が暮れちまうぞ! あはははは!!」
「頼む、誰でもいいから……早く俺を殺してくれ!!」
俺の拳が長老に叩きつけられる。ことはなかった。
なぜなら、俺は目の前を横切った灰色の何かに突き飛ばされたからだ。
「うわっ! 何だ!?」
「邪魔ですよ」
灰色の何かは、少年だった。
少年は素早くミーレスに接近し、その顔面を殴り飛ばした。
「へぶっ!?」
ミーレスの身体は何回転もしながら宙を舞う。
命令者が殴られたせいか、俺の身体に自由が戻った。
少年は目にも留まらぬ速さで空中にいるミーレスに追いつくと、落下してくる身体を蹴り上げた。
そして、再び落下してきた身体を、地面に落ちる直前で蹴り上げる。何度も、何度もそれを繰り返した。
その光景を見ていると、なぜか懐かしさがこみ上げてくる。子供の頃、ボールを地面に落とさないように蹴って遊んだっけ……。
「ミーレス様がめっちゃリフティングされてるぞ!?」
「お助けしろーー!」
ミーレスの部下たちが拳銃を構える。避けろと俺が声を発する前に、少年はその部下たちに向けてミーレスを蹴り飛ばした。
「うわあ!? あぶなっ!!」
「くそ! なめやがって!」
やつらはもう一度少年に銃を向けようとしたが、今度は背後から襲いかかってきた炎の波に全員飲みこまれてしまった。
「ぎゃあぁぁぁぁ!?」
「熱い、熱いぃぃぃぃ!!」
「おーほほほほ! 今時の燃えるゴミは良い声で鳴くわね~~!!」
また、見知らぬ人間が増えた。
インペラトルが持ってきた火炎放射器を使って、容赦なく男たちをあぶって笑っているヤバイ女が。
「ここに残ってるやつは、瘴気にやられたゴミばかりだ。大した情報も持っていないし、戦いの道具にもならない。だったら処分するしかないだろう?」
我ながら名案だ! と笑っているミーレスの顔をぐちゃぐちゃに潰してやりたい。
首の後ろの紋章さえなければ、この男を殺して仲間を逃がしてやれたのに。
「ん~それじゃあ、イスカ。手始めにガキどもを殺せ」
「な……」
絶句する俺に、ミーレスは気を良くしたように口元をゆがめて笑った。
「全員殺したら、お前だけは生かしてやろう。まあ、瘴気に侵食された身体でどれだけ生きていられるかは知らんが! さあイスカ、まずは目の前のゴミを殺せ」
「ふ、ふざけるな! やめろ!」
再び紋章が熱を持ち、身体が勝手に動き出す。焦りと恐怖で全身から嫌な汗が噴き出した。
「やめろよ、やめろ!」
「怖いよ、イスカ兄ちゃん……」
俺を兄と慕ってくれている少女が、目に涙を浮かべて、恐怖に身体を震わせながら俺を見上げている。
彼女の手足は瘴気に侵食されて、自力で立つことすらできない状態だった。
自力で逃げられないとわかっていても、叫ばずにはいられなかった。
「頼む、逃げてくれ!!」
俺の右手の拳は、少女の小さな頭に狙いを定めた。
身動きのできない少女とその母親が泣き叫ぶ。
見たくない、聞きたくないのに、目をそらすことも、耳をふさぐこともできない。
だが、振り下ろされた俺の拳は少女ではなく、間に割って入った長老の顏を殴りつけていた。
「ぐおっ!」
「長老!?」
長老の痩せた身体は軽く吹き飛んで、砂埃を上げて地面に転がった。
身体中打ちつけて、無事であるはずがないのに、長老はゆっくりと立ち上がって、歯を見せて笑った。
「ヒヒ! 良い拳をしとるのう。さすがはわしの孫じゃ」
「長老、どうして!」
転がった時に負傷したのか、右腕がだらりと垂れ下がっている。
もう一度攻撃を受けたらどうなるかを想像して、全身から血の気が引いた。
俺の考えを読んだように、長老は優しく微笑んだ。
「イスカ。これから何が起ころうとも、お前に罪はない。死への恐怖はあろうとも、誰もお前を憎みはしない。お前だけは生き残ってくれ」
「嫌だ……じいちゃん、逃げてくれ!!」
ミーレスがぷっと吹き出して、大笑いしながら手を打ち鳴らした。
「感動したぞ、ジジイ! 俺はこういう家族愛演出に弱いんだよ!」
「て、てめぇ!」
「よし、イスカ! そのジジイをひと思いに殺してやれ!」
ミーレスの命令により、再び身体が動き出す。
怒りと殺意、それを上回る嫌悪感と恐怖で、頭がおかしくなりそうだった。
「嫌だ、やめてくれ、殺したくねぇよ!!」
この腕や足を潰し、舌を噛み切りたくても、俺の意思ではどうにもならない。
じわりとにじんだ涙で視界がぼやける。このまま何も見えなくなればいいのに。
「さっさとやっちまえよ! 全員殺すまでに日が暮れちまうぞ! あはははは!!」
「頼む、誰でもいいから……早く俺を殺してくれ!!」
俺の拳が長老に叩きつけられる。ことはなかった。
なぜなら、俺は目の前を横切った灰色の何かに突き飛ばされたからだ。
「うわっ! 何だ!?」
「邪魔ですよ」
灰色の何かは、少年だった。
少年は素早くミーレスに接近し、その顔面を殴り飛ばした。
「へぶっ!?」
ミーレスの身体は何回転もしながら宙を舞う。
命令者が殴られたせいか、俺の身体に自由が戻った。
少年は目にも留まらぬ速さで空中にいるミーレスに追いつくと、落下してくる身体を蹴り上げた。
そして、再び落下してきた身体を、地面に落ちる直前で蹴り上げる。何度も、何度もそれを繰り返した。
その光景を見ていると、なぜか懐かしさがこみ上げてくる。子供の頃、ボールを地面に落とさないように蹴って遊んだっけ……。
「ミーレス様がめっちゃリフティングされてるぞ!?」
「お助けしろーー!」
ミーレスの部下たちが拳銃を構える。避けろと俺が声を発する前に、少年はその部下たちに向けてミーレスを蹴り飛ばした。
「うわあ!? あぶなっ!!」
「くそ! なめやがって!」
やつらはもう一度少年に銃を向けようとしたが、今度は背後から襲いかかってきた炎の波に全員飲みこまれてしまった。
「ぎゃあぁぁぁぁ!?」
「熱い、熱いぃぃぃぃ!!」
「おーほほほほ! 今時の燃えるゴミは良い声で鳴くわね~~!!」
また、見知らぬ人間が増えた。
インペラトルが持ってきた火炎放射器を使って、容赦なく男たちをあぶって笑っているヤバイ女が。
62
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!ー新たなる王室編ー
愚者 (フール)
恋愛
無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!
幼女編、こちらの続編となります。
家族の罪により王から臣下に下った代わりに、他国に暮らしていた母の違う兄がに入れ替わり玉座に座る。
新たな王族たちが、この国エテルネルにやって来た。
その後に、もと王族と荒れ地へ行った家族はどうなるのか?
離れて暮らすプリムローズとは、どんな関係になるのかー。
そんな彼女の成長過程を、ゆっくりお楽しみ下さい。
☆この小説だけでも、十分に理解できる様にしております。
全75話
全容を知りたい方は、先に書かれた小説をお読み下さると有り難いです。
前編は幼女編、全91話になります。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。
りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。
やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか
勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。
ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。
蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。
そんな生活もううんざりです
今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。
これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる