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第8章 鬼退治

6話 イスカは処刑されるようですよ

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 夜が明けて陽が昇っても、私たちはまだシューラ族の村にたどりつけていなかった。
 地図によると、もうそろそろ見えてきてもおかしくはないはずだけど……。

「山登りあきたし、疲れたわ~! 景色も木ばっかりだし、信じられないほどでかいハエとか飛んでるし、最悪!」
「アビー様、頑張ってください。あとすこしですよ」
「本当に? あの盗人に騙されていないでしょうね? ちくしょうだわ、左目潰しておけばよかった!」

 私は顔の汗を拭いて、深くため息をついた。
 途中までシルバーに運んでもらったけど、十二神の時にもっと運動しておけばよかったと後悔した。

「遠慮なさらずとも、私が村まで運んでさしあげますのに」

 シルバーが余裕を見せつけるように高速スクワットを披露ひろうしている。その綺麗な顔には、汗ひとつかいていない。
 体力オバケのあおり方半端ないわ……。思わず顔が引きつった。

「私は何事も完璧でありたいの! というか、ここの瘴気はヤバイわね。こんなところ、普通は暮らせないわよ」
「アビー様」

 シルバーが声をひそめて、私を草むらへと誘導した。

「どうして隠れるの?」
「あそこを見てください。シューラ族の村です」

 シルバーの指差した方向に、小さな村があった。シューラ族の他に、ちらほらと赤い軍服姿の兵が見える。

「インペラトル? ラヴァが倒したんじゃなかったの?」
「そこらじゅうに元帝国兵がいますね。見てください、中央の広場にシューラ族が集められていますよ」

 シルバーほど視力は良くないけど、私にも確認できた。
 広場に集められたシューラ族の多くは女や子供、そしてお年寄り。
 彼らがすこしでも抵抗を見せると、インペラトルたちは笑いながら暴力を振るっていた。

「お願いします、子供たちにひどいことをしないで!」
「ペットがご主人様に口答えするんじゃねぇ!」
「お母さん!」

 悲鳴と、子供の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
 目の前の光景が不快すぎて、ついつい眉間にしわを寄せちゃう。私の綺麗な顔が台無しだわ。

「情けないクズ悪党どもね。シルバー、情報を」
「剣を持っているのが五人、銃が五人。奥に見える一番大きな家を拠点としていて、入口近くの家を武器庫にしていると思われます」
「エールクラルス帝国は、魔道具や武器を介して威力を増幅させる『混合魔法』を好むから要注意よ」
「了解しました」
「ま、私には効かないけどね!」

 その時、見覚えのあるシューラ族が、インペラトルに殴り倒されるのが見えた。
 顔ははっきり見えないけど、反抗的な態度をとっていることはここからでも確認できる。

「あら、イスカだわ。ここにいたのね」
「あれが、アビー様がおっしゃっていたイスカですか」

 インペラトルの口の動きを読んでいたシルバーが眉を寄せて、「彼、ヤバイですよ」と言った。

「というと?」
「裁判の結果、今から処刑されるそうです」
「あらあら~! 盛り上がってきたわねぇ、シルバー?」
「そうですね、アビー様」

 私がにやりと笑うと、シルバーもまた意地悪く笑った。



「イスカ。我々の仲間に危害を加えた女と、ここから逃げたシューラ族たちの居場所を吐け」

 インペラトルの幹部を名乗る男、ミーレスが、うつ伏せになっている俺の頭を踏みつけた。
 俺は血の混じったつばを吐いて笑った。

「知らねぇよ。知ってても、誰がてめぇに言うかよ」

 勢いよく後頭部を踏みつけられて、顔面に痛みが走った。小石が突き刺さり、皮膚がこすれて血があふれてくるのがわかる。

「しつけがなってないな」
「ぐっ!」

 何度も何度も踏みつけられて、砂が俺の血を吸い取ってぬかるんでいる。
 あの女のことなんて心底どうでもいいが、一緒についていった仲間たちが心配だった。
 ぐっと髪をつかまれて、顔を覗きこまれる。
 ムカツク男の顔だ。噛みついてやりたいが、身体が重くて動かない。
 
「質問じゃない、これは命令だ。答えろ」
「ぐっ!?」

 首の後ろに刻まれた「支配の紋章」が熱を持った。思わず仲間の居場所を教えそうになって、とっさに歯を食いしばる。
 本当は歯を食いしばって抵抗できるものではないが、今回は運が良かったらしい。
 俺の口からは、うなり声しか出なかった。

「うーん、吐かないな。こいつは紋章の効きが悪いからなぁ……」

 ミーレスはため息をつくと、俺の髪から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。
 集められた同族たちが、不安そうに男を見つめる。

「よし、決めた。とりあえずここにいるやつ全員、皆殺しにしよう!」

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