上 下
32 / 73
第8章 鬼退治

5話 行くわよ! シューラ族の村!

しおりを挟む

 真夜中をすこしすぎた頃。シューラ村の倉庫のほうから男の悲鳴が上がった。

「あら、早速罠にかかったお馬鹿さんがいるわね」
「確認しにいきましょうか」

 倉庫の中には、逆さまに宙吊りになっている小太りの男がいた。

「た、助けてくれー! 縄がひとりでに絡みついてきたんだ! 魔物に違いねぇ!」
「なぁんだ、小汚い盗人じゃない。倉庫の火事はあなたのせいだったのね」
「は!? 俺は何も燃やしちゃいねぇぞ!」
「今はね」

 倉庫内は荒らされ、床に薬瓶がいくつも転がっていた。

「こいつが荒らしたことで明日の夜、じゃなくて今日の夜に倉庫から火が上がったわけね」
「アビー様、こいつを村人に引き渡しますか?」
「引き渡す前に聞きたいことがあるの。ねえ、あなた、シューラ族の村の場所を知ってる? 村の人は誰も知らないみたいなの」
「けっ、誰が教えるかよ!」

 私は右手の人差し指の先に、ろうそくほどの小さな火をつけて、男の左目に近づけた。男は恐怖で顔を引きつらせた。

「十秒後、あなたの目にこの指を突っこむ。じゅーう、きゅーう、さん、にー……」
「しししし知ってる!! シューラ族の村の場所、知ってるよ!!」
「あらぁ、それなら最初から言いなさいよ。場所を詳しく教えなさい」

 私は魔道具の縄を解除して、男に地図を書かせた。
 男は私の顔色をうかがいながら、おずおずと完成した地図を差し出す。

「こ、これでいいですかねぇ?」
「汚いけど、じゅうぶんよ。あなた、シューラ族がどういう状況なのか知ってる? 誰かに奴隷扱いされてるの?」
「ええと、たしか噂だと『インペラトル』って組織が、シューラ族を奴隷のように扱って戦わせてるって聞きましたよ。元帝国兵の組織だとか」
「は? 元帝国兵ってまさか……」
「エールクラルス帝国ですよ」
「はいぃぃぃぃ!?」

 私は自分の耳を疑った。
 エールクラルス帝国は、十年前にラピスブルー王国と平和条約を結んだばかりのライバル国家である。

「エールクラルスが、どうして私の国にいるのよ!」
「いや、あんたの国じゃないだろ」
「アビー様の国ですが? 指の爪を全部はがしますよ」
「アビー様の国ですぅぅぅぅ!!」

 シルバーが男を脅している光景を眺めながら、私は考えをめぐらせた。

「魔術師の墓場は見捨てられた地……そこに元帝国兵が流れこんで好き勝手していても、誰にも気づかれないってわけね」

 そこで私は、アンデッドシューラ族おじいさんに頭をかじられていた男のことを思い出した。
 彼は帝国の赤い軍服を着ていたのだ。

「山賊どもがでかい顔をしていたのは、そのインペラトルっていう後ろ盾があったからかもしれないわね。けど、戦闘民族であるシューラ族が、あいつらに負けるとは思えないんだけど」

 男は困った顔をして言った。

「さすがにそこまではわかりません。ただインペラトルは魔物を操る特殊な魔法を使うそうですよ」
「魔物を操る魔法ですって!? それ本当なの!?」
「え、ええ、操った魔物で村を襲ってるって話です」
「にわかに信じられない話ね」
「そんなに珍しい魔法なのですか?」

 私があまりにも疑うからか、シルバーが意外そうに言った。

「珍しいと言うか、まだそんな魔法は発見されていないの。魔術師なら誰もが一度は考える魔法だけど、成功例はゼロ。実現は不可能と言われているわ」
「そんな魔法をインペラトルが使っている、と」
「もし、そんなものが本当に実用化されているなら、その応用でシューラ族たちを支配しているのも納得だわ」

 イスカはインペラトルの話なんて一度もしなかったけど、彼が言っていた「道具扱いするよそ者」はインペラトルで間違いない。

「シューラ族を操るために、インペラトルはシューラ族の村に滞在していたはずよ。ラヴァはそいつらと鉢合わせした」

 ラヴァがインペラトルを倒し、シューラ族を解放したのだとすれば、シューラ族が嫌うよそ者であるラヴァを信用したのも納得できる。
 そのあと、イスカに何かが起きた。あのおじいさんを殺害してしまうほどの何かが。

「ここで考えていても仕方ないわね。とりあえず、シューラ族の村へ向かうわよ」
「かしこまりました」

 シルバーは返事をしながら、足音を忍ばせて逃げようとする男を殴って気絶させた。

「ですが、アビー様。ラヴァを追って、封印の地とやらに向かったほうがいいのでは?」
「そうしたいのはやまやまだけど、瘴気の影響が強すぎて、十二神の予言でも封印の地の正確な位置がわからないのよ。特定するための設備も道具もないから、シューラ族に案内してもらうしかないわ」
「なるほど」

 ま、それだけが理由じゃないけどね。
 私たちは盗人の男を村人に引き渡し、シューラ族の村へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人アラサーOLは悪役令嬢になってもへこたれない

本多 真弥子
ファンタジー
芹澤美月25歳腐女子美人OLはBLが好き過ぎて、スマホでBL小説を書いていたら、赤信号で突っ込んで来たトラックのライトに当てられて……気が付くと異世界に召喚されていた。 聖なる巫女を経て、何故か悪役令嬢に! 持ち前の勝ち気で、自分を断罪した王子と罠に嵌めた光の聖女へ反発して隣国に飛ばされてしまう。 聖女に次ぐ光魔法を持っていた美月はここではゲームで使っていた名前である『ファルセア』と名乗り、自分を裏切り追放した王子を受けとした同人誌を普及していく。 その人気は凄まじくなり『崇拝者』『共同執筆者』などを獲得しながら、地位を確立した。 全ては王子への復讐のために。 と思っていたら、意外な出逢いが待っていて… やがてスケールは大きくなり、ファルセアは世界を救う。 キャラクターデザイン りぐだる様 https://www.pixiv.net/users/7692921 挿絵  あるふぁ様 https://twitter.com/xxarufa   編著者 一限はやめ様 https://twitter.com/ichigenhayame

ラ・ラ・グッドバイ

おくむらなをし
恋愛
大学の事務員として働く派遣社員の吉田は、何度目かの失恋をした。 仕事も恋も長続きしない自分に苛立ちながら副業にしている日雇いの現場へ向かい、そこで栗谷ほまれという年下の女性に出会った。 妙にパーソナルスペースが狭い彼女の態度に戸惑いながらも一緒に食事をして別れ際、彼女は「またね」という言葉を口にする。 その後2人は意外なかたちで再開することとなり……。 ◇この作品はフィクションです。全20話+アフターSS、完結済み。 ◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。

らくがき~

雨だれ
エッセイ・ノンフィクション
アレなやつです。

虹ノ像

おくむらなをし
歴史・時代
明治中期、商家の娘トモと、大火で住処を失ったハルは出逢う。 おっちょこちょいなハルと、どこか冷めているトモは、次第に心を通わせていく。 ふたりの大切なひとときのお話。 ◇この物語はフィクションです。全21話、完結済み。 ◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。

初恋ガチ勢

あおみなみ
キャラ文芸
「ながいながい初恋の物語」を、毎日1~3話ずつ公開予定です。  

Owl's Anima

おくむらなをし
SF
◇戦闘シーン等に残酷な描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。 高校生の沙織は、4月の始業式の日に、謎の機体の墜落に遭遇する。 そして、すべての大切な人を失う。 沙織は、地球の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。 ◇この物語はフィクションです。全29話、完結済み。

病弱聖女は生を勝ち取る

代永 並木
ファンタジー
聖女は特殊な聖女の魔法と呼ばれる魔法を使える者が呼ばれる称号 アナスタシア・ティロスは不治の病を患っていた その上、聖女でありながら魔力量は少なく魔法を一度使えば疲れてしまう そんなアナスタシアを邪魔に思った両親は森に捨てる事を決め睡眠薬を入れた食べ物を食べさせ寝ている間に馬車に乗せて運んだ 捨てられる前に起きたアナスタシアは必死に抵抗するが抵抗虚しく腹に剣を突き刺されてしまう 傷を負ったまま森の中に捨てられてたアナスタシアは必死に生きようと足掻く そんな中不幸は続き魔物に襲われてしまうが死の淵で絶望の底で歯車が噛み合い力が覚醒する それでもまだ不幸は続く、アナスタシアは己のやれる事を全力で成す

「冷遇された公爵令嬢、最強魔導師として華麗に逆襲します!

 (笑)
恋愛
公爵令嬢エリーナ・フィレストンは、突然の婚約破棄と無実の罪で王国を追放される。絶望の中、彼女は遠い辺境の地で古代の魔法書を発見し、その驚異的な力を手に入れる。復讐の念を抱きつつも、次第に王国が危機に瀕していることを知り、エリーナは再び立ち上がる。彼女は自らを裏切った人々に裁きを下しながらも、王国の未来を救うために戦う。彼女の力は、やがて国を変える大きな鍵となるが、王国再建への道には新たな敵と陰謀が待ち受けていた。エリーナは、真の自由と平和を掴むことができるのか──。

処理中です...