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第8章 鬼退治

2話 復讐してから死になさい!

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「あんた、よく俺みたいな罪人の言うことを信じたな」

 ラヴァをぶっ飛ばすために険しい山道を登っていると、先頭を歩くイスカがあきれたように言った。

「ラヴァの居場所なんて、本当は知らないかもしれないのに。それに村人も言ってただろ。シューラ族は暴力的で危険だって」
「あなたが犯罪者であろうが、暴力的であろうが、あの女のところへ案内してくれるなら何でもいいわよ。その情報は疑ってないしね」
「そうかよ。あんたには治療してもらった恩もあるし、案内しろって言うならそうするよ。どうせ俺には、何もないし……」

 イスカの横顔は、何だかさびしそうに見えた。

「何それ、何もないってどういうこと?」
「何でもねぇよ。それよりラヴァに会いたいんだろ? だったら封印の地に行くぞ」
「封印の地? シューラ族の村じゃないの?」
「シューラ族が封印した魔物が眠っている場所だ。俺たちは代々その封印を守ってきたが、突然現れたラヴァが、封印されている魔物を退治するって言ってきたのさ」
「ふうん……封印されているくらいだから、かなり強力な魔物ってことよね」

 強力な魔物を討伐すれば、高位魔術師としての格が上がる。十二神としての実績を積むことが狙いなのかもしれない。

「それで、どんな魔物が封印されているの?」
「わからねぇ」
「は!? わからないってことはないでしょ」
「封印を破れば、この魔術師の墓場に厄災やくさいが降りかかる、とだけ伝えられてる」
「雑ねぇ。まあ、封印されているくらいだから、強力な瘴気を振りまく魔物かもね」
「あんた、よくわかるな」

 イスカは目をみはった。こんなことで驚くの? と思ったけど、ここでは王都の常識は通用しないんだった。

「封印されていても、その周辺の土地は瘴気に汚染されてる。その強力な瘴気のせいで、俺たちもずっと被害を受けてきたんだ」
「あなたの足が瘴気に侵食されていたのは、そういう理由か。つまりあなたたちにとってラヴァは、自分たちを解放してくれる救世主ってわけね」
「そういうことだ。同胞たちは、救世主と共に封印の地に向かったよ」

 イスカは皮肉っぽく笑った。

「あなたは行かなかったのね。ま、あの足じゃ無理か」
「足だけが理由じゃねぇよ。俺たちシューラ族はよそ者に振り回されてきた。これ以上、好き勝手されたくなかったんだ」

 イスカの横顔は怒りでゆがんでいた。

「ラヴァの口車に乗せられて封印を解けば、きっと取り返しのつかないことになる。そう説得しても、誰も俺の話を聞いてくれなかった」
「長い苦しみから解放されるんだから、ラヴァに味方する者もいるでしょうね。あなた、村から追い出されたの?」
「かもな」

 イスカは自嘲気味に笑って、言葉をにごした。私は探るようにイスカを見た。

「追い出されたわけじゃないでしょ」
「何を根拠に?」
「ただ追い出されただけなら、私にあれほどの殺気は向けないはずよ。よそ者を殺したいほどの何かがあったんじゃないの?」

 イスカの視線が鋭さを増した。あら、図星かしら。

「でも、おかしいわねぇ。あなた、死にたがってたわよね? 冤罪えんざいなのにわざわざ死刑になりたがる理由って何なのかしら。それもよそ者に関係するの?」
「冤罪じゃねぇ」

 イスカは剣呑けんのんな目つきで私を見た。今まで静観していたシルバーが、私をかばうように前に出る。
 私は挑発するように、余裕たっぷりの表情で言った。

「私をなめないでよ。家畜を殺したのはオオカミだし、燃えたのは食糧庫じゃなくて、火薬などが乱雑に置いてあった倉庫でしょ。あなたは偶然その近くで力尽きてただけ」
「だから何だ、何が言いてぇんだよ! 今更俺を擁護ようごして何になる!」
「そうやって罪をかぶるのは罪悪感から?」

 イスカの殺気が増した。シルバーは慎重に身構えた。

「なるほどね。よそ者のせいで何か事件を起こしちゃったから、とにかく罰せられて死にたいってことね」
「よそ者のあんたに何がわかる! 何もかも恵まれてるあんたに! 突然よそ者に支配されて、自由を奪われる屈辱を知らないくせに!」
「言葉をつつしめ! アビー様がどれだけの屈辱を受けたてきたのか、貴様にわかるはずがない!」
「いいのよ、シルバー」

 シルバーは不服そうに引き下がった。シューラ族に何があったのか、何となく察しはつく。

 オニュクス族も戦闘民族として最強だったけど、最強だからって国を支配できたわけじゃない。結局、人間の数には敵わなかった。

 彼らは散り散りになって、捕らえられた者は奴隷として売買されている。ここでも同じようなことが起きている可能性が高い。
 よそ者を嫌うにはじゅうぶんな理由だけど、死を選ぼうとするのは理解できない。

「ねえ、イスカ。ぶっ殺したいやついるわよね?」
「は!?」

 イスカはぽかんと目と口を開いた。「頭おかしいの?」と言いたげな顔をしている。

「今、頭に浮かんだでしょ?」
「そりゃ、そう言われたら浮かぶだろ」
「そいつら、まだのうのうと生きてる?」
「生きてる」
「じゃあ、そいつらヤりにいきましょうよ! 死にたいならそのあと自由に死ねばいいでしょ」

 そう提案すると、イスカは苦しげな表情をして言った。

「そんな簡単なことじゃねぇだろ」
「じゃあ、あきらめるの? あなたに苦しみを与えたよそ者たちは、あなたの苦しみなんて忘れて笑ってるわよ」

 イスカの目に怒りが宿った。私の口元に邪悪な笑みが浮かぶ。
 
「失ったものを取り戻すのは難しいわ。だからって何もしないって選択肢は、私にはない。私は私のために、敵をぶちのめしてひざまずかせてやるわ!」

 隣でシルバーが、こくこくと力強くうなずいている。
 イスカは呆然としていたけど、やがて小さく笑った。

「あんた、出会った時から思ってたけど、頭おかしいな」
「失礼ね、誰の頭と比べてるのよ。退屈なモブ頭と一緒にしないでくれるかしら!」
「何だよそれ、変なの。でも、あんたなら本当に……」

 イスカは何かを言いかけたけど、それをさえぎるように近くの草むらから男が飛び出してきた。
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