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第5章 十二神襲撃!

4話 牛頭のウーちゃん!

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 えっと、どちら様? 死に戻りして初めての出来事に、私は動揺していた。
 どう見てもあぐらをかいた巨大な男の足。その足のサイズからして背丈は十二神殿並みにでかい。いや、それ以上かも。

 恐る恐る視線を上げると、筋骨隆々の胴体が目に入る。その胴体の上に、大きなツノを二本生やした巨大な牛の頭が乗っていて、こちらをじっと見下ろしていた。

 ヤッッバイのいるんですけど……?
 額に冷や汗が浮かんだ。
 すると、牛頭が口を開いた。

「沸点低すぎてちょっと笑ってしまった。ごめんね」
「へ?」

 想像以上にフレンドリーに話しかけられて、拍子抜けした。
 牛頭はにこにこと目を細めている。

「初めまして。僕のことは牛頭のウーちゃんって呼んでね」
「え、うん。私のことはアビーでいいわよ」
「わかった、よろしくね、アビー」

 どう見ても最強の魔物って感じの見た目してるのに、ウーちゃんは意外と私に友好的だった。
 まだ油断はできないけど。

「ここはどこなの? 死後の世界?」

 ここには地面がない。周囲には宝石のように輝く星のようなものがたくさんあって、現実とは思えない光景が広がっている。天文学者が言っていた「宇宙」みたいな景色だ。
 私やウーちゃんは、その不思議空間の中をただよっている。

「ここは生と死の狭間はざまの世界。僕は『魂の空間』と呼んでいるよ」
「魂の空間……」
「僕はね、ほぼ死人で魂だけの存在だ。だからここにいるんだけど、きみは死に戻り中だから、一時的にこの空間に迷いこんだみたいだね」
「一時的なのね。よかったわ! またフロストをボコれるってわけね!」

 私の発言がツボに入ったのか、ウーちゃんが腹を抱えて笑った。ひとしきり笑ってから、急に真顔になって話し始める。

「ここでは世界で起きているすべての出来事を観察できる。きみの行動もね」
「あら、もしかして私のことを見ていたの?」
「もちろん。僕のさずけた力を有効に使ってくれているか、その確認をね」
「授けた力って、この死に戻りの力のこと? ウーちゃんの力だったの!?」
「うーん、厳密には違うけど、そうだよ」
「どうして私にこの力を授けたの?」
「きみは特別だったから」

 その意味を尋ねようとすると、ウーちゃんはさえぎるように言った。

「時間がないから、その話はまた今度ね。ほら、手を出してごらん」

 私は言われた通りに右手を出した。すると、手の平の上に、透き通った丸い水晶玉のようなものが出現した。強力な魔力を感じる。

「その水晶玉をプレゼントします。とても綺麗でしょ?」
「ええ! すごくいい女が映っているわ!」
「きみって本当に前向きでいいね。だからこそ、僕はきみにこの力を渡したんだけどね」

 そうなの? そう声に出したつもりだったけど、ひどい眠気に襲われて声が出なかった。

「その水晶玉は、十二神に向けるだけで効果を発揮するよ。ただし、十二神の不意を突くか、抵抗できないほど弱らせないと使えないから注意してね」

 もっと色々聞きたかったのに、頭にきりがかかったようにぼんやりとして、考えがまとまらない。
 私は今、眠っているの? それとも……。

「きみがステラに謝罪するなら、助けてやってもいい」

 その声に、はっと我に返る。私とシルバーは村長の家の屋根に立っていて、家の前にフロストがいた。

「神官長には、きみを始末したと報告しよう」
「戻ってこられてよかった~」

 フロストを無視して、私は右手に持っていた水晶玉を観察した。
 水晶玉は雲の隙間から漏れた月明かりに照らされて、きらきらと輝いている。

「夢じゃなかったのね」

 この水晶玉は、十二神に向けるだけで効果を発揮すると言っていたけれど、それには条件があったはず。
 不意打ちを狙うことは可能だけど、できるならもうひとつの条件を狙いたい。
 私は隣に並ぶシルバーに視線を向けた。

「アビー、聞いているのか!?」

 フロストの怒声が響く。
 トライアンドエラーで実戦経験を積んで、突破口を見つけるのも悪くないけど、私はシルバーの戦いが見てみたい。

「きみは人の話もまともに聞けないのか? これだから頭の悪い女は嫌いなんだ。ステラの優しさと賢さを見習ったらどうだ!?」

 十二神対シルバー。これが正解ルートだ。
 そして、さっきからべらべらしゃべってるこいつは殺す。

 私は胸いっぱいに空気を吸いこんで、思いっきり叫んだ。

「聖女はフロストのことが大っっ嫌いですってーーーー!!」

 私の叫びは夜の闇にこだました。
 フロストはきょとんとして、それから大声で笑い出した。

「あははは! そんな冗談、通じるわけがないだろう! 本当に馬鹿な女だな!」

 声は笑っている。だけど、顔面蒼白で涙目になっていた。

「いや、めちゃくちゃ効いてるじゃない」
「ですね」

 私はフロストを見下ろしながら、「やれるわね」と小声でつぶやいた。隣に並んだシルバーが「はい」と答える。
 私は小さくうなずいた。

 さあ、あなたの実力、見せてちょうだい。
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