上 下
5 / 73
第2章 国外追放ありがとう

2話 神官長は二度燃える

しおりを挟む
「よって、アビゲイルの十二神の称号をはく奪し、国外追放とする!」
「あ、ここに戻るんだ」

 目の前にはグロウスのにやけ顔があった。
 てっきりステラとのお茶会まで戻ると思ったけど、処刑台という死の未来が変化したから、分岐点が変わったのかもしれない。

 私が黙って考えこんでいると、グロウスが顔をしかめた。

「おい、聞いているのか? わかったら、さっさとここから出て――」
「納得できない!」

 グロウスをさえぎるように異議を唱える声が上がった。
 今の声はマリアン・デケンベル。私のお父様だ。
 四十代前半にしては肌も艶々で、すらりと背が高い、私の自慢のお父様。ずっと静かだったから存在を忘れていた。
 お父様は涙を流しながら言った。

「なぜ私の可愛いアビーが、十二神の称号をはく奪され、国外追放されなければならないんだ!?」
「ただの国外追放ではない。場所は『魔術師の墓場』だ」
「もっと悪いじゃないか! 『魔術師の墓場』と言えば、けがれた大地が広がり、治安も悪く、王の加護がないために疫病が流行しているもっとも危険な場所だ!」
「説明ありがとう、お父様。というかギリギリ国内じゃない。どこが国外なのよ」
「だ、黙れ、黙れ! あんな場所、国外も同然だ!」

 フロストが「神官長」と声をかけると、グロウスははっとして落ち着きを取り戻した。

「ごほん! その女、アビーは聖女に宝石のような魔道具を渡し、彼女を操って国を乗っ取ろうとした疑いがある。魔術師の墓場送りは妥当な判断です」
「はあ!? 宝石ってあのイヤリングのこと? あれにそんな力はないわ! ただの贈り物を曲解してんじゃないわよ!」

 グロウスはうるさそうに顔をしかめて言った。

「本来は処刑ものだが、聖女が望まないと言うので国外追放だけで済んでいるのだ。聖女に感謝しなさい」
「誰がするか! 聖女がどうとか言ってるけど、どうせ全部あなたの判断でしょう!」
「ち、違うぞ!」
「目が泳いでるじゃない!! こっち見なさいよ!!」

 激しく抗議すると、耳元でバチッと音がした。
 あ、だめ燃える! 冷静になって私! グロウスの裸を想像して怒りを抑えるのよ。……怒りは収まったけど、代わりに吐き気がこみ上げてきた。
 突然黙りこんだ私の代わりに、今度はお父様が声を上げた。

「なぜ処刑だなんてひどいことを言うんだ! 娘は誰よりも優しくて優秀な魔術師だ! それに見て、こんなにも可愛いのに!」
「お父様っ!」

 泣いて訴えるお父様の姿を見て、じわりと涙が浮かぶ。お父様はいつだって私を可愛がってくれた。こんな悲しい顔をさせたくはなかったのに。
 それに対してグロウスは、冷ややかな目をして言った。

「可愛い? 聖女ステラちゃんのほうが絶対可愛いでしょ。あの子優しいし成績優秀だし、こいつみたいにわがまま言わんし、暴言吐かんし。ここまで気が強くて口が悪いやつ、正直タイプじゃないし」
「は? キモいですわぁぁ、このクソハゲ野郎。聖女に相手してもらえるとか期待してるの痛すぎて普通に気持ち悪い、今すぐ通報させて!」
「はあぁぁぁぁ!? 誰がハゲだってぇぇぇぇ!? こんのクソ雑魚魔術師風情がぁぁぁぁ!!」
「誰がクソ雑魚魔術師ですってぇぇぇぇ!?」

 必死に抑えていた殺意がついに爆発し、私はグロウスを巻きこんで激しく燃えた。
 
「我慢なんて私らしくなかったわねぇ!? 骨すら残さず燃やし尽くしてやるわよ、クソハゲ野郎! おーほほほほ!!」
「ぐわぁぁぁぁ!?」
「神官長!?」
「アビー!?」
「ほらほら、クソ雑魚魔術師の炎でわずかな希望もうこんもすべて燃やし尽くしてさしあげるわよー!! とっととくたばれクソ雑魚毛根死滅野郎ぉぉぉぉ!!!」

 気持ち良く高笑いしていると、炎で真っ赤に染まった視界がぱっと切り替わった。
 目の前にはグロウスのにやけ顔がある。
 私はすこしだけがっかりした。ちょっとくらい、余韻よいんにひたらせてほしかったのに。

 だけど、二度燃えてようやく殺意が落ち着いてきた。こんなところで何度も燃えている場合じゃない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

【完結】大聖女の息子はやり直す

ゆるぽ
ファンタジー
大聖女の息子にして次期侯爵であるディート・ルナライズは義母と義姉に心酔し破滅してしまった。力尽き倒れた瞬間に15歳の誕生日に戻っていたのだ。今度は絶対に間違えないと誓う彼が行動していくうちに1度目では知らなかった事実がどんどんと明らかになっていく。母の身に起きた出来事と自身と実妹の秘密。義母と義姉の目的とはいったい?/完結いたしました。また念のためR15に変更。/初めて長編を書き上げることが出来ました。読んでいただいたすべての方に感謝申し上げます。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...