久遠ノ守リ人

颯海かなと

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悪夢

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「お前、また読んでるのか。そんな本」

少年は呆れたように聞いた。
すると、ぷうっと頬を膨らませて、怒ったように目の前の少女は言う。

「そんな本じゃないよ!人とエルフの素敵な恋の本だもん!」

「はいはい、そうだったな」

「あ、またそうやって適当に返事して!すぐに面倒くさがる癖、直した方がいいよ!」

「少なくとも俺はこの性格で困ったことないから」

そう言いながら、少年は少女の隣に腰を下ろした。

「……それ、ほんとに面白いのか?」

疑うような目で少年は本を見る。
少女は即座に頷いた。

「面白いっていうか……感動っていうか。こんなに綺麗なお話があるんだな、って」

「ふーん?」

「もう、興味持ったのかなって思ってせっかく答えたのに」

「いや、そうじゃなくて……。俺は…人間とエルフの恋、実らないと思ってるから」

風が吹く。髪がなびく。頬を撫でる。
少しの沈黙の後、少女は聞いた。

「……どうして?」

大好きな本を侮辱された気分なのか、心做しか寂しそうな表情をしていた。
少年は目を伏せて答える。

「…別に、人とエルフが恋に落ちるのが悪いって言ってるんじゃない。そういう話があるのも別にいい。現実だろうが物語だろうが、そんなの自由だ」

「うん」

「けど……人とエルフの間に子は生まれない」

種族の違うもの同士で、本当に結ばれることなど、永遠にない。
人と人。エルフとエルフ。
それが理であり、世界の真理と言われている。

「…子どもができなくても、結婚はできるよ?」

「確かにそうだな。今時、子どもを産み育てることだけが愛じゃない」

「じゃあ、どうしてそれだけじゃダメなの?」

「…どれだけ愛し合っても、血がそこで途絶えるってことだよ。後世に語り継ぐことも、子孫を見守ることもできない。それに、エルフは人間に比べて長寿だ。千年以上生きていく存在……誰より好きな人に先に逝かれるなんて、耐えられたものじゃない」

「あ………」

自分に置き換えて考えてみたのだろう。
少女は顔を曇らせた。

「……わたしも、きっと無理だろうな」

「…だろ?俺も無理だ。好きな人とは一緒にいたいし、子どもだって…傍で成長を見守りたい」

また、風が吹く。今度は髪が乱れた。

「そろそろ寒くなってきたな。帰るか」

「そうだね。あんまり遅いと、怒られちゃう」

「ああ、行こう」

少年は少女の手を引いた。
ゆっくり、ゆっくり。二人で一緒に、同じ道を歩く。
何も言わず、ただただ歩く。
この時間が、お互いに好きだった。
……が、今日はいつもと違ったようだ。

「…ねぇ」

「ん?」

「それでもわたしは……やっぱり、素敵だと思うな」

すぐに、さっきの話の続きだと気づいた。
悲恋でも。叶わなくても。辛くても。
少女ははっきりと、素敵だと言う。

「傍にいられるだけで、幸せだもの。それに、現世では添い遂げられなくても、天国ではきっと、一緒にいられるよ」

「死んでから一緒になるのか?」

少年の言葉に、「身も蓋もない!」と少女は笑った。

「エルフさんが天に昇ってくるときに、きっとその恋人さんがお迎えに行くの。おかえりなさい、って。そしたら抱きしめ合って、長い間会えなかった分、たくさん言葉を交わして。…わたしはそうだと思うな!」

彼女は笑顔でそう言った。
眩しすぎるほどの笑顔で。
忘れられないくらい、綺麗な笑顔で。
そう言った。

「………いいんじゃないか、それ」

突飛な思いつきの話に、少年も耐えきれず笑う。
少女もまた笑う。
幸せだった。何よりも安らかな時間だった。
だが、そんなひと時を、彼女の笑顔を。





____全て、何もかも、俺が壊した。
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