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1章:荒涼たる故郷
7.子供の間者
しおりを挟む帰りのゴンドラは慎重にガラスシェードを持って帰った。二百シリンの割れ物となると、気が気ではない。
それからゴンドラ降り場に到着し彼らに幾らかのチップを渡して別れを告げた。
「ありがとう。最高の観光案内だった」
そう言うとゴンドラの乗組員全員がお辞儀をし、今日で一番ゴンドラが揺れるほど大きな声でお礼を言って来た。
「「ありがとうございました!!!またのご利用お待ちしております!」」
「ハハッ。ありがとうね」
心の底から温かくして貰える素晴らしい観光だった。
もうすでに邸まで帰ってきた気分だが油断は出来ない。何といっても懐に二百シリンのガラスシェードを持って残る坂を上がらなければならないからだ。
オーキッドを見張りとして連れて、邸までそっとガラスシェードの入った木箱を抱えて歩いていると、オーキッドがいきなり「危ない!」と言った。
その直後“ボフッ”という音と共に、こぶし大ほどの何かを頭頂部にぶつけられた感触を感じた。
痛みはない。毛で衝撃は吸収できたようだ。
下を見て投擲物の確認をすると、ぶつけられたのは石だった。いつもなら笑って許せるが、今は許せない。
ガラスシェードを狙う愉快犯かと思い、見えないようにしてある翼で箱を守りつつ振り返った。
「かっ、海賊の馬鹿やろう!!」
石を投擲してきた犯人は身なりの悪い少年だった。
「―――いい腕じゃないか。どうした坊主?海賊にママが買われたのかい?」
「お前らが母ちゃんに乱暴したんだ!くたばれ!このクソ野郎!」
もう一個、今度はオーキッドをめがけて石を投げて来たのでそれは片腕で止めると、この少年の投擲技術に感心する。
そして投げた石が当たらないと分かったのか走って少年は逃げ出した。
「オーキッド、ちょっとコレ持っててくれ」
ガラスのランプシェードをオーキッドに渡すと、走って逃げる少年を掴んだ。
「ちょっとキミまてよ」
「放せ!クソ!」
噛みつき暴れて逃げようとする少年を、言葉で説得することは容易ではないと思いつつ、彼を何とか落ち着かせようといくつか少年の釣れそうな話題を投げてみることにする。
「美味いもん食べたくないか」
「ウルさい!」
「じゃあ母ちゃん楽させたいか」
「…」
少年の逃げる足に力が抜けるのが分かった。親孝行な息子のようだ。愛情を注がれて育ったらしい。
「俺は海賊のボスだ。分かるか、海賊で一番偉いヤツだ。良いこと教えてやる。母ちゃんの代わりにお前が働いたら母ちゃんは乱暴されないかも知れないぞ」
少年の足はもう完全に止まった。本当ならコレで奴隷として売るんだが今回は領民だ。彼に仕事を命じる必要がある。
「仕事をやる」
「…うん」
小さな労働者を得た。
しかし一人だけでは大した力にはならないだろう。仲間を集める必要がある。
「よし、じゃあまず暇な街の子供集められるだけ集めてこい。途中で人さらいに攫われるんじゃないぞ。集めたら邸にこい。来たヤツには一ペングやる。お前には集めた人数分のペングをやる」
「三人集めたら?」
少年の問の意味を理解しかねていると、オーキッドが「いくらになるか計算出来ないんですよ」と教えてくれた。こういう労働者階級の子供に勉強を教えるのは教会の役目のはず。教会は何をやっている?
「3ペングだ」
「十人集めたら?」
十人も当てが少年にはあるのだろうか。
いや…子供の言葉にそれほど深い意味を探る方が間違いか。
「10ペングやる」
「沢山集めたら!?」
「沢山ペングをやる」
子供達を増やして家の事や街のことを聞く。
そうすることで曇りなき目で情報提供をしてくれる格安スパイの完成だ。
そうして少年を第一の間諜として放った。
そんな事の顛末を見ていたオーキッドは少し驚いたような顔をしてコチラを見て来た。
「以外っすね」
「そうかい」
「あの子てっきりあのまま殺されちゃうかと」
オーキッドのイメージがかなり悪いことを今知った。さっきまで楽しくお喋りしながら帰っていたのにあんまりである。
「俺達ちょっととはいえ一緒にいたよね。そんな血も涙もない海賊に見えるって言うのかい?」
「見えるっす!やっぱりヲルターさんって胡散臭いじゃないっすか!」
そう彼女にストレートに言われると怒る気も失せる。
彼女を盟友にしたのは俺の人選ミスだったかも知れない。
「いや、…あぁ、まぁ…その感覚は正しいね。疑り深くいこうか。…何事もね」
普通にコミュニケーションできるし、何ならショッピングで距離も近くなれたかと思ったら、ただのこちらの勘違いだったらしい。
オーキッドに信用の証として預けていたガラスシェードを返して貰い歩き出すと、オーキッドの足が止まっているのに気づき振り返って呼んだ。
「どうかした?」
「でもさっきのヤツ!あれカッコよかったっス!」
さっきのヤツとは何のことだと思いながら邸に戻った。
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