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2章 底辺冒険者の俺をプロデュースしていて楽しいですか?
ep29 手合わせ
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ナカグロの武器は腕より少し長め片手剣、木剣とはいえ当たれば骨ぐらいは折れるだろう。
「俺は自分の武器を使わせて貰うぜ? 」
「……好きにしろ」
まさか答えてくれるとは思わず、少し笑みが零れる。なんだ、意外に話せるヤツじゃないの。そんなに寡黙そうなフリして、実はお喋りなのか?
「へいへい、イイね。もっと話そうぜ。あそこでタオル持って待ってる受付嬢の子のことはどう思ってんの? 」
「……」
ナカグロが沈黙して距離を見計らっている間、俺はひたすらに距離を取りながらお喋りを続けた。
「イヤぁ~それにしてもなかなか、内側に入れませんなぁ。旦那」
ナカグロは剣や槍が主流のこのご時世で、棒という武器を使う俺を前に、距離を詰めるのに苦労しているようだった。
しかも普通の対戦相手なら多少の打ち合いもあるかも知れないが俺は防御一辺倒。
ステップを踏んで近づいてくれば、砂を巻き上げて走って逃げるし、ジリジリと詰めて来ようものなら適当に棒でその場を荒らしながら引いた。
どんなに冴えわたる剣の才能があろうと、それを生かせぬままでは意味がない。
プライドをかけた正面衝突では絶対にコチラが負けるので、口でイラつかせ、動きでからかった。コチラに勝機がないなら、相手に負けるキッカケを作らせるしかコチラに勝ち目はないのだ。
「弟は頑張ってるのに、お兄ちゃまは一年もリハビリですか。いやぁ~二人とも勤勉ですなぁ~」
「……シュッ! 」
ナカグロの左足が砂を掴んだように感じた瞬間、砂煙を上げて大きく踏み込んだナカグロは俺の正面に飛び込むと、俺の腰を狙って剣を薙いだ。
「ソレは急ぎ過ぎだろ」
ヒュンとなる風切り音と共に空を切った木剣に冷や汗をかきつつ、大技で相手が体制を崩した足を逃さず棒で叩いて、すぐさま大きく距離を取った。
「真面目に戦え」
そう言うナカグロは呼吸を整えながら、棒の当たった右足が痒いのか左足で掻いている。まだまだ余裕そうだ。
「馬鹿いえお前。まともに戦って俺が勝てるかよ。それより俺が勝ったらなんでアンタがまだリハビリを続けてるのか、俺に教えてくれよな」
対して俺は額の汗を拭い、呼吸でカサカサになった口内で無理やり唾を飲み込んでいた。ナカグロは最小限の動きで距離を詰めてくるのに対して、俺は砂をかけて走りまわっている。
この差は当然大きい。長くは持たないだろう。
「あーしんどい。先輩なら、新人に花持たせてくれてもいいんじゃないか。俺もう結構走りつかれたぜ」
そう言ってへへへと笑うと、
「……ならとっとと敗けろっ」
と、ナカグロはまたゆっくりと距離を詰め始めた。
そして前と違うのはナカグロがおそらくもう、コチラの距離を把握したということだった。次第に俺はどんどんと端へと追い詰められていき、壁の冷たさを背中に感じることになる。
剣の先と棒の先が当たるギリギリの場所でナカグロはピタリと止まった。
動けば斬る。そう言われているようだった。かと言ってまいったという申し入れも受け取って貰えそうにない。
「引き分けってのは……どうよ」
一応聞いてみる。
すると、ナカグロは少し首を傾げた。
アナタ、何言ってるか分かりませーんって顔だ。
しょうがないので、訓練場の砂を棒で思いっきり掘り起こし、巻き上げた砂煙の中でどうにか逃げようとしたが、
「その行動はもう見た」
と言われて木剣で巻き上げ途中の棒を叩き落とされ、地面に棒を転がされた。
これから起こる未来に顔面蒼白になっている俺に、ナカグロは油断せずに近づいて来る。
敗北確定と思われたその時、ゆっくりとナカグロは右足から崩れ落ちた。
ナカグロは何が起きたのか分かっていないようで、俺もその場で何が起きたのかすぐに理解することが出来なかった。
そして転がっているコンを拾い上げると、ようやく何が起きたのか理解出来た。
「コン……お前か」
足を叩いた時、あの時にコンがナカグロを噛んでいたのだ。
『これから仕事があるのを忘れたのか、メディオ』
一応こういうのは男と男の勝負というもので、水を差すものじゃないということをコンには伝えたが、理解出来ないようだった。
体力を奪われ、放心状態となったナカグロに駆け寄ってきたギルド嬢は、俺を怨敵とでも言わんばかりの目で睨んできたので、怖くなってすぐに事情を説明した。
「実はちょっと変わった武器でして、攻撃したら相手の体力を奪う力があって今回はそれがたまたま……」
「卑怯者! 」
ギルド嬢は端的にコチラを刺す言葉を選んだ。
えぇ、間違いありません。
リハビリ中にも関わらず木剣で新人相手に手を抜かず戦って下さった初対面の先輩に、わたくしめはあろうことか丁寧に毒を塗って襲いかかったようなものでございます。
心中お察し申し上げます。まことに申し訳ございません。
「えーと……すいません。あの、ナカグロさんはすぐ元気になると思うので。また今晩にでもお詫びの品を持って参りますので。はい、あの、本当に申し訳ございません」
そう言って謝りながら俺は小走りで訓練場から逃げた。
早くカロムと一緒に水を汲みに行こう。それでお金貰って、菓子折り持って赦して貰おう。うん、それしかない。
「俺は自分の武器を使わせて貰うぜ? 」
「……好きにしろ」
まさか答えてくれるとは思わず、少し笑みが零れる。なんだ、意外に話せるヤツじゃないの。そんなに寡黙そうなフリして、実はお喋りなのか?
「へいへい、イイね。もっと話そうぜ。あそこでタオル持って待ってる受付嬢の子のことはどう思ってんの? 」
「……」
ナカグロが沈黙して距離を見計らっている間、俺はひたすらに距離を取りながらお喋りを続けた。
「イヤぁ~それにしてもなかなか、内側に入れませんなぁ。旦那」
ナカグロは剣や槍が主流のこのご時世で、棒という武器を使う俺を前に、距離を詰めるのに苦労しているようだった。
しかも普通の対戦相手なら多少の打ち合いもあるかも知れないが俺は防御一辺倒。
ステップを踏んで近づいてくれば、砂を巻き上げて走って逃げるし、ジリジリと詰めて来ようものなら適当に棒でその場を荒らしながら引いた。
どんなに冴えわたる剣の才能があろうと、それを生かせぬままでは意味がない。
プライドをかけた正面衝突では絶対にコチラが負けるので、口でイラつかせ、動きでからかった。コチラに勝機がないなら、相手に負けるキッカケを作らせるしかコチラに勝ち目はないのだ。
「弟は頑張ってるのに、お兄ちゃまは一年もリハビリですか。いやぁ~二人とも勤勉ですなぁ~」
「……シュッ! 」
ナカグロの左足が砂を掴んだように感じた瞬間、砂煙を上げて大きく踏み込んだナカグロは俺の正面に飛び込むと、俺の腰を狙って剣を薙いだ。
「ソレは急ぎ過ぎだろ」
ヒュンとなる風切り音と共に空を切った木剣に冷や汗をかきつつ、大技で相手が体制を崩した足を逃さず棒で叩いて、すぐさま大きく距離を取った。
「真面目に戦え」
そう言うナカグロは呼吸を整えながら、棒の当たった右足が痒いのか左足で掻いている。まだまだ余裕そうだ。
「馬鹿いえお前。まともに戦って俺が勝てるかよ。それより俺が勝ったらなんでアンタがまだリハビリを続けてるのか、俺に教えてくれよな」
対して俺は額の汗を拭い、呼吸でカサカサになった口内で無理やり唾を飲み込んでいた。ナカグロは最小限の動きで距離を詰めてくるのに対して、俺は砂をかけて走りまわっている。
この差は当然大きい。長くは持たないだろう。
「あーしんどい。先輩なら、新人に花持たせてくれてもいいんじゃないか。俺もう結構走りつかれたぜ」
そう言ってへへへと笑うと、
「……ならとっとと敗けろっ」
と、ナカグロはまたゆっくりと距離を詰め始めた。
そして前と違うのはナカグロがおそらくもう、コチラの距離を把握したということだった。次第に俺はどんどんと端へと追い詰められていき、壁の冷たさを背中に感じることになる。
剣の先と棒の先が当たるギリギリの場所でナカグロはピタリと止まった。
動けば斬る。そう言われているようだった。かと言ってまいったという申し入れも受け取って貰えそうにない。
「引き分けってのは……どうよ」
一応聞いてみる。
すると、ナカグロは少し首を傾げた。
アナタ、何言ってるか分かりませーんって顔だ。
しょうがないので、訓練場の砂を棒で思いっきり掘り起こし、巻き上げた砂煙の中でどうにか逃げようとしたが、
「その行動はもう見た」
と言われて木剣で巻き上げ途中の棒を叩き落とされ、地面に棒を転がされた。
これから起こる未来に顔面蒼白になっている俺に、ナカグロは油断せずに近づいて来る。
敗北確定と思われたその時、ゆっくりとナカグロは右足から崩れ落ちた。
ナカグロは何が起きたのか分かっていないようで、俺もその場で何が起きたのかすぐに理解することが出来なかった。
そして転がっているコンを拾い上げると、ようやく何が起きたのか理解出来た。
「コン……お前か」
足を叩いた時、あの時にコンがナカグロを噛んでいたのだ。
『これから仕事があるのを忘れたのか、メディオ』
一応こういうのは男と男の勝負というもので、水を差すものじゃないということをコンには伝えたが、理解出来ないようだった。
体力を奪われ、放心状態となったナカグロに駆け寄ってきたギルド嬢は、俺を怨敵とでも言わんばかりの目で睨んできたので、怖くなってすぐに事情を説明した。
「実はちょっと変わった武器でして、攻撃したら相手の体力を奪う力があって今回はそれがたまたま……」
「卑怯者! 」
ギルド嬢は端的にコチラを刺す言葉を選んだ。
えぇ、間違いありません。
リハビリ中にも関わらず木剣で新人相手に手を抜かず戦って下さった初対面の先輩に、わたくしめはあろうことか丁寧に毒を塗って襲いかかったようなものでございます。
心中お察し申し上げます。まことに申し訳ございません。
「えーと……すいません。あの、ナカグロさんはすぐ元気になると思うので。また今晩にでもお詫びの品を持って参りますので。はい、あの、本当に申し訳ございません」
そう言って謝りながら俺は小走りで訓練場から逃げた。
早くカロムと一緒に水を汲みに行こう。それでお金貰って、菓子折り持って赦して貰おう。うん、それしかない。
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