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2章 底辺冒険者の俺をプロデュースしていて楽しいですか?

ep22.町の壁を壊す者達、デーモンモンキー

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ヴェオルザークを目の前にしたところで、町を囲むようにして立てつけられた木の壁に大きな人型の化け物達が攻撃をしているのが目に留まった。

ぼやけていて2mほどの大きな人型という認識しか出来ないが、人ならざる者であることは分かった。

「アイツら…また壁を壊そうとしてる…」

カロムがそう言って頭を掻いた。

「知ってるのか?」

「うん。アイツらの名前はデーモンモンキー。町に侵入して食べ物とか子供を盗んでいく魔物だよ。近づいたら危険だから町の子供はアイツが入ってきたら町の中心に逃げないとダメなんだ」

「町の中にあんなのが普通に入って来るのか」

よくそれで町が滅びないな。

「うん…でも大丈夫。僕が追い払うから」

そのカロムの言葉に疑問が湧く。わざわざこの少年が危険を承知で戦いに挑まずとも、大人が対処するはずである。
「おいおい…カロム、このまま放っておいたら冒険者かその町の衛兵が来るんじゃないのか?」

「…残念だけどソレは期待できないよ。衛兵達はいつもトランプばかりやっていて仕事なんてろくにしないし、冒険者達が雇われるのだって町に被害が出た後だから」

カロムの話通りなら確かに今動いた方が後々誰も被害を受けないで済みそうではある。

しかしこのまま放置して被害が出た方が、外壁の修復や魔物の討伐など冒険者ギルドからの依頼が増えて収入が増えそうだとも考える。

(いやいやいや…あまりにも屑だろう。その発想は)

「しゃーない。俺達で倒すぞ」

「クルも手伝ってくれるの?」

「当たり前だ。さっさと倒して町に入ろうぜ」

パルモにリュックを持っていて貰おうと近づくと、彼女はコンを指さして言った。

「その武器、今回は性能を発揮させずに追い払えるかな?」

「なんで!?」

コンの力を使えないとなると、コンはただの長い棒になる。彼女は俺に遠まわしに死ねと言っているのだろうか。

「クルさんが実力以上の相手にどう戦うか見てみたいの」

パルモはサングラスのブリッジを中指で押しつつそう言った。

「…死にそうになったら使うぞ?」

「そうなる前に、私が助けに入るから。ギリギリまで頑張って見て」

「分かった…」

パルモに背中を押され、カロムと二人で木の囲いに体当たりをしているデーモンモンキーの背後に立った。

後ろから見た奴らの体毛はサツマイモ色で、近づいてきた俺達に気づいているような素振りは見せたが、敵と認識すらされていないようで、柵に攻撃を続けていた。

周囲を見ると、木の柵以外は特に魔物を退ける設備は無いように見えた。

(数は三体…棒で叩いて追い払えるか?…もし襲い掛かってきたらどうやって逃げればいい?)

そんな考えをぐるぐるさせているうちに、デーモンモンキーの半分ほどしかないカロムが自分よりも大きな大剣を持って先行した。

その少年の後ろ姿に俺は勇気づけられ、俺も後に続いて奴らを背後から叩くことに成功する。

「コォー!コォー!」

俺の叩いたデーモンモンキーは金切り声を上げながら飛び上がり、草原へと逃げて行き、それとほぼ同時にカロムにより上下に分断されたデーモンモンキーの上半身が俺の前に吹き飛んできた。

カロムの目は先ほどまでとは打って変わって強い殺気を帯びており、戦士の目をしている。

俺達の攻撃で、ようやくコチラを敵と認識したのか、デーモンモンキーは悲鳴を上げて左右にジャンプをし始めた。

コチラをかく乱しているつもりだろう。

逃げた一体が戻ってくる前に二人でこの一体を仕留めたい、その気持ちで対峙していると、デーモンモンキーは砂を掴んでカロムに投げつけた。

「くッ…!」

カロムが砂で視界を奪われたその瞬間、不意を付いてデーモンモンキーはカロムではなく俺に向かって突進してきた。

「うぐぁ!?」

二メートルの体格から繰り出される強烈な衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされ地面に転がされる。一撃、たった一撃受けただけだというのに頭が白くなり何も考えられなくなる。腹と肩に強烈な痛み、そして口の中を噛んだのか血の味までしてくる。

チカチカと頭がする中、立ち上がると朦朧とする視界の先で鈍い唸り声と共に自分よりも大きな巨体が近づいてくる。

息が荒くなり、恐怖に足が竦む。

(クソッ…一撃でこれか!)

『私が少し動いてもいいがどうする?メディオ』

コンの声が脳に響く。

(そうか…コイツに委ねれば……………いや………そうじゃないだろ…!)

歯を食いしばり、ヤツの動きを目だけではなく鼻と耳で掴む。

ヤツの匂いは強烈で、目が不自由な分、距離間を掴むのに鼻が使えた。

そしてヤツの足音や息遣い、全てがコチラに向いているのも分かる。

そしてその後ろで走って来る少年の足音も聞こえる。

俺が今出来ること、ソレは…!

(長い棒を前に突き出してカロムがくるまで時間稼ぎをすること!)

「ウォララララララララアアアア!!!」

大声を上げながら棒を前に突き出しては引っ込める行為を繰り返し、デーモンモンキーが近づいてこないように、間髪入れずに突き出した。

(当たらなくてもいい!時間稼ぎさえ出来れば!)

俺はデーモンモンキーから受けた攻撃に情けなく涙を流しながら、棒を突き続けた。

その奇行に恐れたのか、デーモンモンキーは動きを止めて俺に向かって吠えた。

「コォカッ!コォカッ!コォカッ!」

そしてそれだけあれば少年がデーモンモンキーに襲いかかるには十分な時間だったのか、背後からデーモンモンキーよりも高く飛び上がる黒い影が見える。

「受けてみろ!【天龍斬(てんりゅうざん)】!」

太陽の光を背にデーモンモンキーを頭上から股下まで大剣の一振りで両断した。

飛び散る鮮血と共に、地面に片膝をついて着地したカロムは息も上がらぬうちにこちらへ駆け寄ってきた。

そのカロムのあまりの強さに俺は言葉を失った。

「ハァ…ハァ…僕たちだけで…アイツら…倒せたね!」

カロムは嬉しそうな声で俺にそう言った。

そしてそれにつられるようにして、ようやく俺も腹の底から湧き出るような歓喜に体をバチバチと刺激された。

「…あぁ…!…やったな!」

そして言って周囲を確認したが、やはり初めにコンで殴ったデーモンモンキーはもうどこにも見当たらなかった。

俺達はデーモンモンキー達から木の壁を守ることに成功したのだ。

「イテテテテ…」

デーモンモンキーの突進を受けて吹き飛ばされた時の傷が痛む。

怪我をしたのなんて何時ぶりだろうと思いつつ、パルモの所に戻った。

「クルさんは【初めての猿人種】の称号を手に入れた!」

パルモはそう笑って拍手をしてくれた。

「正直、カロムに助けて貰ったよ。ありがとうカロム」

そう言ってカロムには笑って見せたが、あの野郎にやられた傷がズキズキと痛んだ。

「よく頑張ったよ。クルさん。カロム君もとっても頑張ってくれたね。ありがとう」

パルモはそう言ってカロムの頭をワシャワシャと撫でている。カロムも満更でもなさそうで、ナデナデを堪能しているようだった。

「へへへっ。まあね。クルは僕が守るんだ」

カロムの人間離れした身体能力には驚かされてばかりだ。

何か力の秘密があるのだろうか?時間がある時にでも聞いてみようと思った。

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