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2章 底辺冒険者の俺をプロデュースしていて楽しいですか?

ep21.ギルドの闇

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それから歩いていく道中に、カロムが普段からあのようなことをしているのかについて聞いてみた。

「そういやカロムは普段からあんな風に冒険者を襲っているのか?」

「ううん。普段はこの森で魔物を狩って、素材を冒険者に売ってるんだ」

カロムから以外な話が飛び出した。

「冒険者に…か?」

「うん。依頼を受けたのに、依頼を達成できなかった冒険者に依頼品を売ってやるんだ。僕は強いからね!」

怪しい話だと思いつつ聞いていくと、どうやらカロムは普段ヴェオルザークで依頼を受けている冒険者から安い賃金で依頼代行をしているという話だった。

「多重下請けの被害がこんなところにも…」

パルモがそんな意味深な発言をしたので、すかさず聞いてみる。

「多重下請け?」

「…うん。例えばC級冒険者しか受けられない依頼があるとするでしょ?それを別のD級冒険者に依頼料を中抜きして依頼を渡すの」

資格を持たない冒険者が依頼をするってことだろうか。

「それって駄目じゃないか?」

「そう駄目なんだよ。もし本来適正と認められた冒険者が受けるべき仕事を、適正より下の冒険者が受けるとどうなると思う?」

パルモの言葉で、俺はグロリアスマンティスの腹から出てきたドッグタグの事を思い出した。

「…地獄だな」

適正に見合っていない冒険者が依頼を受ければグッと死が近くなる。

しかし元請けの冒険者にしてみれば帰ってこなければ別の冒険者に向かわせればいいだけなので、自身はリスクを追わずに依頼を達成することが出来る。

大金を求めてやってくる低階級の冒険者にとって、高階級の依頼は依頼料も破格ですぐにでも受けたい依頼。

それを譲ってくれる冒険者がいるとすれば、多少中抜きされていてもきっとソレに飛びついてしまうだろう。

おそらくそれで俺の知らないところでグロリアスマンティスの餌食になった冒険者が最低でも五人…この仕組みによって殺されている。

そう思うと胸が痛んだ。

「カロム君の件を聞くに、E級冒険者が彼から搾取しているのは間違いないね」

パルモがそう言うと、カロムは少し焦ったようにパルモに言い返した。

「ぼ、僕はちゃんと依頼をこなしているんだよ?」

彼は自分が責められているような気がしたのだろう。そういってソワソワしていたので、落ち着かせるためにカロムが悪いわけじゃないと伝えた。

「あぁ。カロムは悪くない。こういう事をしたらダメなこと知ってやってる奴らが悪いんだ」

そう言うと、彼は「そうなのかな」といって彼も少し悩んでいるようだった。

「管轄外だけど、すこしヴェオルザークの冒険者ギルドにちょっかいをかけに行った方がよさそうだね」

キッカケが俺とカロムの出会いとはいえ、パルモの仕事がどんどん増えていくのを感じてちょっと申し訳なくなった。

「パルモ。その前にヴェオルザークに着いたら少し休もうぜ。頑張り過ぎ」

彼女は俺ではないが、色々と背負い込んでいる。

俺をS級冒険者にするって目標もそうだが、俺の働いていたマナダストの運搬場所で行われていたとかいう実験についても彼女は調べていたようだし、今回の冒険者ギルドに蔓延することについても彼女は不正を正そうとしている。

潰れてしまわないか心配だった。

「私は大丈夫。クルさんこそ、長旅で疲れたでしょ?宿屋ではゆっくり休んでね」

彼女はそう言って疲れを知らないのか、歩くペースも全く変わらなかった。

しかし、どれだけ彼女が動けたとしても人間だ。町についたら絶対に休んでもらおう。

もし彼女がソレを拒否するようなことがあれば俺も何か策を講じる必要があるだろう。

そんな風に思いながらカロムと一緒に彼女の後ろをついて行った。




「そう言えば、カロムはなんでそんなに冒険者として働きたいんだ?」

「うち、借金があるんだ」

カロムは言いにくそうに返した。

もっと少年らしい答えが返ってくるかと思い気や重めのボディブローを入り、「あ、やっぱこの話題止めとこうか」と言えず、申し訳ない顔になりつつ「そうなのか…」と頷くことしか出来なかった。

そんなもう聞きたくもない話題をカロムはさらに深堀して話始めた。

「僕のお父さん、いろんな町で借金しながら点々としているみたいで…。今は母さんと一緒にこの町で父さんが残した借金を返金しながら生活しているんだ」

「なるほど…大変だな」

うんうんと頷く。それ以外には何も出来ない。

なぜなら俺が貧乏だから。

貯金は全て帝都の銀行に預けたままで手持ちはゼロだし、引き落とそうにも帝都に戻ることは当然出来ない。

金の問題というのは、どうにもならなかった。

「町についたら美味いもん奢ってやるよ」

「ホントに?」

それぐらいしか借金持ちの友人に出来ることはなかった。

「あぁ。良いだろ、パルモ」

「ウチも余裕ないんだけどねぇ…。まあ、クルさんのお願いなら仕方ないか…」

パルモはため息をついていたが了承してくれた。

その光景を見ていたカロムは俺に耳打ちで、「なんかパルモさんの弱みでも握っているの?」と聞いてきたので、パルモは優しさの塊であることをカロム少年に教えてやった。

次いでに(今は魔物の出る平原を歩いているからピリピリしている風に見えるというのもあるけど、一番は俺の命を狙ってきたからだろうね)と教えてやった。

「ふうん…そう言えばクルは僕に殺されかけたのに、僕が怖くないんだね」

カロムの言葉に少し考えを巡らせると、自分の命を狙われることが多すぎて、その危険に対する感覚が少し麻痺してしまっていることに気づいた。

また、パルモが近くにいたことで、彼女に任せてしまった部分もあったと思うと、自分が如何に甘ったれか再認識することが出来た。

「確かになぁー…よくよく考えたらカロム君コワいなぁー」

「いや遅いから」

カロムはそう言いため息をついて、(コイツ本当に大丈夫か?)という目で俺を見る。

彼もまた正常に俺の周りにいた人間と同じように俺を見るようになった。

(カロム…こんな奴でも帝都では生きていけているんだ。世界ってすごいだろ)

『心の中で言わず、そう言ったらどうだ?』

(これ以上何か言われたら凹むだろ。カロムの言葉はちょっと俺には効きすぎる)

「何かあったら頼むぜ。カロム」

「任せてよ。僕がクルを守ってあげるよ!」

この善性の塊のような少年がどのようにして、冒険者達に上手く使われているのか分かった気がした。

「二人とも、お喋りするのも良いけどちゃんと周りを確認してね」

パルモは歩きつつ振り返って俺達に注意をしてくれた。

「はい。パルモ隊長!」

「分かっています、パルモさん!!」

俺に続いてカロムも返事をした。

良い返事だった。

(コイツ…挨拶でも俺を上回ろうとしているのか?…許せねぇ、挨拶は無能に許された唯一人から好感を持たれる奥義なのに…!)

「大丈夫かなぁ~?」

パルモのため息がいつもより大きく聞こえた。
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