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1章 底辺冒険者の俺をプロデュースする理由は何ですか?
ep6.東の町オリエンドルフ
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そうしてまた砂利道をひたすら東に歩いていくと、帝都を飛び出したその日の晩、俺達は東の町オリエンドルフへと到着した。
「綺麗なところだな…」
「そうでしょー」
レンガ造りの街並みに、魔導式のランタンが壁に掛けられゆったりとオレンジ色に光りを放っている。
夜のオリエンドルフは冒険者で賑わいを見せており、どこの酒場も人で満席のようだった。
そして帝都との一番の違いは、稼働する魔道具の数が少ないからかマナダストの量も随分と少ないことだった。
「この町は空気中のマナダストの量が少ないんだな」
「うん、多分定住者も少ないからだと思う。クルさんは帝都の外に出たのは初めて?」
「俺は一度西に行っただけだな。そこも空気中のマナダストの量が帝都と同じぐらいあったから、こんなに少ない町は初めて見る」
「クルさんは目の付け所が独特なんだねぇ~。あっ、屋台が出てるよ!」
パルモは先ほど冒険者から依頼料として受け取ったお金で串焼きを三本買うと、そのうちの一本を渡してきた。
「これは?」
「さっき倒したイノシシの串焼きだよ。歯ごたえあって美味しいの!」
彼女の言葉で殺したイノシシの目が脳裏にちらつき、串を持っていない方の手で口を抑えた。吐くほどではないにしろ、余り気分の良いものではなかった。
「パルモ、やるよ」
「えー!冒険者は体が資本だから食べなきゃダメだよ!タダでさえモヤシみたいなのに!」
パルモにそう言われ渋々これは訓練だと思いこむことによって、串の肉を口の中に入れた。
全く味についての感想が湧かないほど、自分はあのイノシシにメンタルがやられていたことが分かった。
舌の上で味わうことなく、ただ咀嚼し、飲み込む。
それを繰り返すことで串に刺さった肉の処理を済ませた。
「先が思いやられるなぁー全く。ウアァ~オイヒィ~」
パルモはまた別の屋台で酒を頼むと、俺の顔を見ながら酒を煽り、肉を食らった。
両手に酒と串を持ちオリエンドルフを楽しんでいるようだった。
「あんなことがあったのに随分楽しそうだな」
前を歩く彼女にそう言うと彼女は振り返って、
「大変だからこそ、オンオフはしっかりしないと持たないよ。町に入ったらとりあえず魔物に襲われることもないしね」
と言い肉を頬張り笑った。
「これから冒険者ギルドに行くんだろ?」
「ううん?また明日の朝行けばいいよ。ギルドの夜は依頼達成の冒険者で溢れ返るからね。朝の方が空いていて手続きもすぐ終わるよ」
「いいのか?急いでいるんじゃ…」
「夜に装備も買わずに町の外へ出るなんてクルさん死にたがりだね~」
パルモはそう言って酒が入って気持ちがいいのかよく笑った。
宿屋に入ると、パルモは部屋を取るといってフロントから離れて待っているように言った。
それから離れて宿屋に置かれてあった椅子に座って外を見ていると、あたり前だが冒険者は冒険者とわかるような恰好をしていた。
鎖帷子に胸当てだけなど軽装備な者もいれば、全身鎧の重装備をしっかり着込んでいるものまで歩いている。
装備にはお金がかかるはずだが、外の道を歩いている全員が全員お金に余裕があるわけではないだろう。
他の冒険者の死体から剥ぎ取ったのだろうか?それとも別の職から転職をして、元々別口で稼いだ金で装備を整えたのだろうか。
そんな意味のない思考を巡らせつつ、彼女が手続きを済ませるのを待った。
「お待たせ!部屋が取れたよ」
「悪いな」
「ううん。これが冒険者プロデューサーとしての私の仕事だから。さあ、お部屋に入って休もう!」
鍵を持ったパルモの後ろをついて行き、二階の部屋の前まで案内されるとパルモは俺に鍵を渡して、
「じゃあまた明日!」
と言って階段を下りていこうとしたので引き留めた。
「パルモはどこの部屋なんだ?」
「えっ?わたし?私は~ハハハ~」
何かがおかしい。それと自分の部屋の鍵はどうしたのだろう。
「どうした?」
「ちょっとね~」
いつもと様子の違う歯切れの悪いパルモがおかしいと思ったので、一階に下りて宿屋の店主に聞いた。
「宿泊客の名簿を見せてくれるか?」
「別に構いませんが…」
宿屋の宿泊客名簿にパルモの名前が無かった。
「部屋が一部屋しかないと申したのですが、お連れさんが納屋で良いとおっしゃるので…」
店主が困ったようにそう言い、俺は眉間に皺が寄る。
「パルモ…怒るぞ?」
「も~店主さん全部話しちゃうんだからぁ…」
パルモはいたずらが発覚した子供のような困り顔をする。
「俺が納屋で寝る」
「それはダメ」
彼女はそう言って頑なに部屋に泊まろうとしなかった。
パルモの自分を大切にしないところは好きになれなさそうである。
「お二人で一部屋をお使いになれば良いのではないでしょうか…」
店主も困ったようにそういった。
お互いそれがいいことは分かっているはずだ。しかし常識的に考えて昨日今日出会った男女が同じ部屋で寝泊まりするというのはよくないことだろう。
その認識を確認するため振り返って彼女を見た。
「クルさんが納屋で寝ちゃうぐらいなら私は良いけど…」
(…俺君に大事にされ過ぎじゃないか。過保護なのか?なんで合ってまだ一日もたっていない相手にそこまで親切に出来るんだよ…)
そう猜疑心に駆られつつ彼女を見ると、パルモは目をキョロキョロとしながら色々なところに目が行っていた。明らかに落ち着きがない。
「嫌じゃないのか…!パルモ!用水路歩いて来て今結構臭いかも知れないのに…!俺は本当に納屋でも良いんだぞ…!」
(乾草のベッド最高!乾草のベッド最高!乾草のベッド最高!)
心で思っていることが顔に出るならば、心からそう思おう。
彼女には凄く迷惑をかけた、だから今日は疲れを取ってほしい。
そう強く思った。
「一応お部屋にシャワーがついております。一番高い部屋ですので…」
店主から無用の一言が出る。
(せっかくパルモが部屋で眠る空気を作ったというのに!?)
「ソッカー…じゃあ、シャワーも使いたいし、クルさんには体を休めてもらいたいしー、一緒の部屋を使う方が効率的かナァ~」
彼女はそう言ってヘラヘラと笑う。
文化圏が違うのか、この少女は今日初めて会う男を自分の寝床に置けるらしい。普通はどれだけ安全だと思っていても置けないだろう。
しかし心なしか彼女の顔も酒が入っているせいで赤いように見えるし、もしかすると正常な判断が難しい状態なのかも知れない。
(そんな少女に俺は何を考えて…クソッ、俺の変態、ロリコン野郎!)
「分かった…パルモがそれでいいなら」
パルモも頷いた。
(どれだけ夜にムラムラして見境がなくなっても、これだけ親切にしてくれている人に手を出すようじゃ人間失格だ)
と、俺も覚悟を決めた。
二階に上がり鍵を開け自分たちの部屋に戻ると、この宿やで一番高い部屋だけあって広さは十分にあった。
床も広く、腰を下ろして眠るには十分なスペースがあるように思える。
「俺はもう寝るけど、パルモはどうする?」
俺の中の獣性が暴れる前にとっとと寝てしまおうと思った。
するとそんな俺を見てパルモはジト目で、
「クルさん…せめて服だけは洗おうよ」
と言った。
「いやでも他に服が…」
そう言うとパルモは、部屋に備え付けのクローゼットを開けてバスローブを取り出した。
「良い部屋にだけこういう特別な服があるの。だからとりあえずコレね」
そしてなんやかんやあってシャワーも先に浴びさせて貰い、バスローブを着て扉の横に備え付けてあるマカボニーで作られた椅子に腰を下ろした。
「ふぅ…悪いな…先に使わせて貰って」
そう言うと俺の服を手にかけた彼女は涙を流しながら拍手をしていた。
「なんで泣いているんだ?」
「クルさんは、【風呂上り男子】の称号を手に入れた…」
彼女は酔いが回っているのか言動が少し変だった。
「どういう感情かよく分からないが、とりあえずシャワーを浴びて酔いを醒まして来たらどうだ?」
「あの程度じゃ酔わないよ?」
そんなことはないだろう。確かに飲んでいる量は少なかったけど顔がしっかり赤かった。
「でもさっき顔が赤くなかったか…?」
「…」
彼女は少し考えを巡らせるように腕を組んで顎に手を当てた。
そして先ほどまで笑っていたのに突然無表情になった。
“スゥー”と彼女の口から空気が漏れる音が聞こえる。
そしてそれから耳がまた赤くなり始めた。
もしかしてこの子、酒に弱いのに間違った量を飲んでしまったんじゃないか…?
「パルモ?大丈夫か?」
「…あー、お酒入ってちょっと血色よくなったのかもね。さて…私もメイク落としてこようかなー…」
「あぁ。今日は色々あったしゆっくり浴びてくれ」
「…うん」
そしてその後、パルモと俺はどちらがベッドを使うかの口論になり、両者意地を貫き通した結果、彼女は床で寝て俺は椅子に座って眠り夜は過ぎていった。
そして翌朝。
早朝一番に依頼を達成するために俺達は冒険者ギルドへと向かった。
「依頼の達成を確認しました。最後に冒険者様のサインをお願い致します」
ギルドの受付に出された書類に黙々とサインをし、書類を返す。
「ここで依頼も受けられるのか?」
「申し訳ございません。現在オリエンドルフでは個人様に向けての依頼は取り扱っておりません。全て一年以上存続している経験あるクラン様にご依頼させていただいております」
ギルド嬢はそう言って書かれた書類を受け取ると、それをファイルに収めた。
(個人で依頼を受けることはできない、ということだろうか。それだと冒険者として食っていくにはクラン、つまり組織に属するしかないということだろうか…)
夢のある仕事かと思ったら全く夢がなく現実的だった。
よくよく考えてみれば身分も出生も知れない一般人に、仕事を頼みたいなどという酔狂な人間が一体どれだけいるかという話だろう。
どうするかと悩んでいると、パルモが後ろから顔を出した。
「あぁ。私冒険者プロデューサーのパルモですけど」
「まあ、あのパルモさんが担当されている方でしたか。それでしたらどうぞ、コチラがE級からS級全ての冒険者に発注予定の発注前依頼ファイルになります」
(さっきまでのやり取りの意味は!?)
ギルド嬢はパルモが出た途端態度を変えて俺に全ての依頼を見せてくれた。
釈然としない気持ちと共にパルモが一体どういう存在なのか気になったが、彼女はソレに答えてくれそうになかった。
(ただ今は彼女に感謝をして、道中で受けられそうな依頼を探そう…!)
「ありがとうパルモ」
「何が気になるの?」
「この山越えで達成出来そうな依頼はあるか探しているんだ。何をするにせよ金は必要だろ。俺の手持ちもそんなに多くないし、あの冒険者達から受け取った依頼料だってもう殆どない」
「うんうん。確かにあの宿は高いだけあったね。それに手持ちで困っているなら私出すよ?」
キラキラとした顔で言われても、俺達はあの宿のメインであったベッドに指一本触れてはいない。値段分満喫できたかどうかは謎だった。
「旅費はなるべく依頼で稼いだモノを使おう」
「そう?はじめの方は大変だと思うけど…」
パルモは少し困ったような顔したが、ここは俺の意見を通させて貰った。
恐らくパルモの年収は年上の俺よりもはるかに高い。
それは身に着けているモノや、彼女から香る匂い、そして立ち振る舞いやオーラで何となくわかった。
しかし…底辺の俺にもゴミ同然のプライドがあった。
(年下に奢られるのはなぜかイヤだ!)
どうしようもない男だとつくづく実感しつつ、それと同時にどうしようもない時は割り勘を申し出ようという情けない考えも頭に残していた。
そしてそんなことを考えながら必死に割のいい自分に出来そうな依頼を探していると、
「そうだ!今から少しだけ別行動にしない?」
と、突然パルモがそんなことを言いだした。
余りにも必死に依頼を探しているので埒が明かないと思われたのだろうか。
「別に良いが…そんなに悠長にしていて大丈夫なのか?」
まだ数はそんなにいないかも知れないが、追手がこのオリエンドルフにいてもおかしくない頃だ。ココも早くに旅立つ必要があるだろう。
「ほんの一時間ぐらいだから大丈夫だよ。武器屋に行って今の予算で買えそうな装備が合ったら目星をつけておいて!後から合流するからさ」
パルモはどうやら依頼のファイルをじっくり見たいようだった。
そのため俺は頷き、この町の武器屋で新しい装備を探すことにした。
「綺麗なところだな…」
「そうでしょー」
レンガ造りの街並みに、魔導式のランタンが壁に掛けられゆったりとオレンジ色に光りを放っている。
夜のオリエンドルフは冒険者で賑わいを見せており、どこの酒場も人で満席のようだった。
そして帝都との一番の違いは、稼働する魔道具の数が少ないからかマナダストの量も随分と少ないことだった。
「この町は空気中のマナダストの量が少ないんだな」
「うん、多分定住者も少ないからだと思う。クルさんは帝都の外に出たのは初めて?」
「俺は一度西に行っただけだな。そこも空気中のマナダストの量が帝都と同じぐらいあったから、こんなに少ない町は初めて見る」
「クルさんは目の付け所が独特なんだねぇ~。あっ、屋台が出てるよ!」
パルモは先ほど冒険者から依頼料として受け取ったお金で串焼きを三本買うと、そのうちの一本を渡してきた。
「これは?」
「さっき倒したイノシシの串焼きだよ。歯ごたえあって美味しいの!」
彼女の言葉で殺したイノシシの目が脳裏にちらつき、串を持っていない方の手で口を抑えた。吐くほどではないにしろ、余り気分の良いものではなかった。
「パルモ、やるよ」
「えー!冒険者は体が資本だから食べなきゃダメだよ!タダでさえモヤシみたいなのに!」
パルモにそう言われ渋々これは訓練だと思いこむことによって、串の肉を口の中に入れた。
全く味についての感想が湧かないほど、自分はあのイノシシにメンタルがやられていたことが分かった。
舌の上で味わうことなく、ただ咀嚼し、飲み込む。
それを繰り返すことで串に刺さった肉の処理を済ませた。
「先が思いやられるなぁー全く。ウアァ~オイヒィ~」
パルモはまた別の屋台で酒を頼むと、俺の顔を見ながら酒を煽り、肉を食らった。
両手に酒と串を持ちオリエンドルフを楽しんでいるようだった。
「あんなことがあったのに随分楽しそうだな」
前を歩く彼女にそう言うと彼女は振り返って、
「大変だからこそ、オンオフはしっかりしないと持たないよ。町に入ったらとりあえず魔物に襲われることもないしね」
と言い肉を頬張り笑った。
「これから冒険者ギルドに行くんだろ?」
「ううん?また明日の朝行けばいいよ。ギルドの夜は依頼達成の冒険者で溢れ返るからね。朝の方が空いていて手続きもすぐ終わるよ」
「いいのか?急いでいるんじゃ…」
「夜に装備も買わずに町の外へ出るなんてクルさん死にたがりだね~」
パルモはそう言って酒が入って気持ちがいいのかよく笑った。
宿屋に入ると、パルモは部屋を取るといってフロントから離れて待っているように言った。
それから離れて宿屋に置かれてあった椅子に座って外を見ていると、あたり前だが冒険者は冒険者とわかるような恰好をしていた。
鎖帷子に胸当てだけなど軽装備な者もいれば、全身鎧の重装備をしっかり着込んでいるものまで歩いている。
装備にはお金がかかるはずだが、外の道を歩いている全員が全員お金に余裕があるわけではないだろう。
他の冒険者の死体から剥ぎ取ったのだろうか?それとも別の職から転職をして、元々別口で稼いだ金で装備を整えたのだろうか。
そんな意味のない思考を巡らせつつ、彼女が手続きを済ませるのを待った。
「お待たせ!部屋が取れたよ」
「悪いな」
「ううん。これが冒険者プロデューサーとしての私の仕事だから。さあ、お部屋に入って休もう!」
鍵を持ったパルモの後ろをついて行き、二階の部屋の前まで案内されるとパルモは俺に鍵を渡して、
「じゃあまた明日!」
と言って階段を下りていこうとしたので引き留めた。
「パルモはどこの部屋なんだ?」
「えっ?わたし?私は~ハハハ~」
何かがおかしい。それと自分の部屋の鍵はどうしたのだろう。
「どうした?」
「ちょっとね~」
いつもと様子の違う歯切れの悪いパルモがおかしいと思ったので、一階に下りて宿屋の店主に聞いた。
「宿泊客の名簿を見せてくれるか?」
「別に構いませんが…」
宿屋の宿泊客名簿にパルモの名前が無かった。
「部屋が一部屋しかないと申したのですが、お連れさんが納屋で良いとおっしゃるので…」
店主が困ったようにそう言い、俺は眉間に皺が寄る。
「パルモ…怒るぞ?」
「も~店主さん全部話しちゃうんだからぁ…」
パルモはいたずらが発覚した子供のような困り顔をする。
「俺が納屋で寝る」
「それはダメ」
彼女はそう言って頑なに部屋に泊まろうとしなかった。
パルモの自分を大切にしないところは好きになれなさそうである。
「お二人で一部屋をお使いになれば良いのではないでしょうか…」
店主も困ったようにそういった。
お互いそれがいいことは分かっているはずだ。しかし常識的に考えて昨日今日出会った男女が同じ部屋で寝泊まりするというのはよくないことだろう。
その認識を確認するため振り返って彼女を見た。
「クルさんが納屋で寝ちゃうぐらいなら私は良いけど…」
(…俺君に大事にされ過ぎじゃないか。過保護なのか?なんで合ってまだ一日もたっていない相手にそこまで親切に出来るんだよ…)
そう猜疑心に駆られつつ彼女を見ると、パルモは目をキョロキョロとしながら色々なところに目が行っていた。明らかに落ち着きがない。
「嫌じゃないのか…!パルモ!用水路歩いて来て今結構臭いかも知れないのに…!俺は本当に納屋でも良いんだぞ…!」
(乾草のベッド最高!乾草のベッド最高!乾草のベッド最高!)
心で思っていることが顔に出るならば、心からそう思おう。
彼女には凄く迷惑をかけた、だから今日は疲れを取ってほしい。
そう強く思った。
「一応お部屋にシャワーがついております。一番高い部屋ですので…」
店主から無用の一言が出る。
(せっかくパルモが部屋で眠る空気を作ったというのに!?)
「ソッカー…じゃあ、シャワーも使いたいし、クルさんには体を休めてもらいたいしー、一緒の部屋を使う方が効率的かナァ~」
彼女はそう言ってヘラヘラと笑う。
文化圏が違うのか、この少女は今日初めて会う男を自分の寝床に置けるらしい。普通はどれだけ安全だと思っていても置けないだろう。
しかし心なしか彼女の顔も酒が入っているせいで赤いように見えるし、もしかすると正常な判断が難しい状態なのかも知れない。
(そんな少女に俺は何を考えて…クソッ、俺の変態、ロリコン野郎!)
「分かった…パルモがそれでいいなら」
パルモも頷いた。
(どれだけ夜にムラムラして見境がなくなっても、これだけ親切にしてくれている人に手を出すようじゃ人間失格だ)
と、俺も覚悟を決めた。
二階に上がり鍵を開け自分たちの部屋に戻ると、この宿やで一番高い部屋だけあって広さは十分にあった。
床も広く、腰を下ろして眠るには十分なスペースがあるように思える。
「俺はもう寝るけど、パルモはどうする?」
俺の中の獣性が暴れる前にとっとと寝てしまおうと思った。
するとそんな俺を見てパルモはジト目で、
「クルさん…せめて服だけは洗おうよ」
と言った。
「いやでも他に服が…」
そう言うとパルモは、部屋に備え付けのクローゼットを開けてバスローブを取り出した。
「良い部屋にだけこういう特別な服があるの。だからとりあえずコレね」
そしてなんやかんやあってシャワーも先に浴びさせて貰い、バスローブを着て扉の横に備え付けてあるマカボニーで作られた椅子に腰を下ろした。
「ふぅ…悪いな…先に使わせて貰って」
そう言うと俺の服を手にかけた彼女は涙を流しながら拍手をしていた。
「なんで泣いているんだ?」
「クルさんは、【風呂上り男子】の称号を手に入れた…」
彼女は酔いが回っているのか言動が少し変だった。
「どういう感情かよく分からないが、とりあえずシャワーを浴びて酔いを醒まして来たらどうだ?」
「あの程度じゃ酔わないよ?」
そんなことはないだろう。確かに飲んでいる量は少なかったけど顔がしっかり赤かった。
「でもさっき顔が赤くなかったか…?」
「…」
彼女は少し考えを巡らせるように腕を組んで顎に手を当てた。
そして先ほどまで笑っていたのに突然無表情になった。
“スゥー”と彼女の口から空気が漏れる音が聞こえる。
そしてそれから耳がまた赤くなり始めた。
もしかしてこの子、酒に弱いのに間違った量を飲んでしまったんじゃないか…?
「パルモ?大丈夫か?」
「…あー、お酒入ってちょっと血色よくなったのかもね。さて…私もメイク落としてこようかなー…」
「あぁ。今日は色々あったしゆっくり浴びてくれ」
「…うん」
そしてその後、パルモと俺はどちらがベッドを使うかの口論になり、両者意地を貫き通した結果、彼女は床で寝て俺は椅子に座って眠り夜は過ぎていった。
そして翌朝。
早朝一番に依頼を達成するために俺達は冒険者ギルドへと向かった。
「依頼の達成を確認しました。最後に冒険者様のサインをお願い致します」
ギルドの受付に出された書類に黙々とサインをし、書類を返す。
「ここで依頼も受けられるのか?」
「申し訳ございません。現在オリエンドルフでは個人様に向けての依頼は取り扱っておりません。全て一年以上存続している経験あるクラン様にご依頼させていただいております」
ギルド嬢はそう言って書かれた書類を受け取ると、それをファイルに収めた。
(個人で依頼を受けることはできない、ということだろうか。それだと冒険者として食っていくにはクラン、つまり組織に属するしかないということだろうか…)
夢のある仕事かと思ったら全く夢がなく現実的だった。
よくよく考えてみれば身分も出生も知れない一般人に、仕事を頼みたいなどという酔狂な人間が一体どれだけいるかという話だろう。
どうするかと悩んでいると、パルモが後ろから顔を出した。
「あぁ。私冒険者プロデューサーのパルモですけど」
「まあ、あのパルモさんが担当されている方でしたか。それでしたらどうぞ、コチラがE級からS級全ての冒険者に発注予定の発注前依頼ファイルになります」
(さっきまでのやり取りの意味は!?)
ギルド嬢はパルモが出た途端態度を変えて俺に全ての依頼を見せてくれた。
釈然としない気持ちと共にパルモが一体どういう存在なのか気になったが、彼女はソレに答えてくれそうになかった。
(ただ今は彼女に感謝をして、道中で受けられそうな依頼を探そう…!)
「ありがとうパルモ」
「何が気になるの?」
「この山越えで達成出来そうな依頼はあるか探しているんだ。何をするにせよ金は必要だろ。俺の手持ちもそんなに多くないし、あの冒険者達から受け取った依頼料だってもう殆どない」
「うんうん。確かにあの宿は高いだけあったね。それに手持ちで困っているなら私出すよ?」
キラキラとした顔で言われても、俺達はあの宿のメインであったベッドに指一本触れてはいない。値段分満喫できたかどうかは謎だった。
「旅費はなるべく依頼で稼いだモノを使おう」
「そう?はじめの方は大変だと思うけど…」
パルモは少し困ったような顔したが、ここは俺の意見を通させて貰った。
恐らくパルモの年収は年上の俺よりもはるかに高い。
それは身に着けているモノや、彼女から香る匂い、そして立ち振る舞いやオーラで何となくわかった。
しかし…底辺の俺にもゴミ同然のプライドがあった。
(年下に奢られるのはなぜかイヤだ!)
どうしようもない男だとつくづく実感しつつ、それと同時にどうしようもない時は割り勘を申し出ようという情けない考えも頭に残していた。
そしてそんなことを考えながら必死に割のいい自分に出来そうな依頼を探していると、
「そうだ!今から少しだけ別行動にしない?」
と、突然パルモがそんなことを言いだした。
余りにも必死に依頼を探しているので埒が明かないと思われたのだろうか。
「別に良いが…そんなに悠長にしていて大丈夫なのか?」
まだ数はそんなにいないかも知れないが、追手がこのオリエンドルフにいてもおかしくない頃だ。ココも早くに旅立つ必要があるだろう。
「ほんの一時間ぐらいだから大丈夫だよ。武器屋に行って今の予算で買えそうな装備が合ったら目星をつけておいて!後から合流するからさ」
パルモはどうやら依頼のファイルをじっくり見たいようだった。
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