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5.三人目の人間
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そして二人を弄びながらも月日は流れ、三人目の人間が我々の海域へと船を侵入させた。その日は月明りで水面が光輝く夜で、人間の顔も良く見えた。
船に乗っていたのは白髪も殆ど残っていない老婆で、どろんと濁った眼には月の光は届いていないようだ。
今回も吾輩が人間の相手をするのかと思い気や、他の小さな鯨が吾輩に体を擦りつけてきてなにかを要求してきた。
「長、僕たちにも……」
吾輩はぐるっと周囲を見渡すと、人間を求めてみたことのない数の鯨が婆の乗った船の周囲を取り囲んでいる。
人間の命のどこがそこまでお前たちを惹きつけるのか吾輩にはわからなかったが、長は皆の意見を尊重するもの。
吾輩は海中に沈むと、他の者たちが婆と取引する様をジッと輪の外側から見ることにした。
すると、吾輩が引いたことが鯨の輪に伝播すると、他の鯨は我先にと相手の要件も聞かぬ間に魚を船に投げ入れていった。
これでは一体どちらが餌を求めているのか分からないではないか。
しかし吾輩は人間に魅了された同胞たちを傍観しながら、万事筒がなく取引が終わるのを見ていることしか出来なかった。
彼らと婆の間に一体どんな取引が行われたのか、離れていたためその内容を仔細に聞くことはなかったが、吾輩の群れの中でも比較的大きなオスの個体が婆を喰らった。
そしてオスの個体は人間を食べたことに満足したのか、婆が乗ってきた船を港に運ぶことなく去って行った。
そしてそこに取り残された他の鯨達は、お互いに状況を伺いながら一頭、また一頭とその場から離れていった。
そして海上にはポツンと、婆が乗ってきた船が取り残された。
婆の乗ってきた船には生きの良い魚がまだ跳ねている。
「まったく……、命を粗末するな」
尾ひれで船を叩いてひっくり返すと、船の上の魚は水を得てすぐに散り散りになって逃げて行った。
今回の件で吾輩は既に人間と鯨に起きている異変が気がかりになった。
人間を躊躇わず口に入れるあの鯨達の目は普通ではない。なにか悪いモノにでも取り憑かれたみたいだ。
吾輩は長として彼らの目を覚まさせる必要があるだろう。
しかし、どうしたものか。
同胞はおかしくなってしまったし、人間も自ら命を差し出すほどに頭がおかしくなってしまった。
吾輩の境遇を理解し、尚且つ助けをくれそうな相手となると……残念ながらそんな都合の良い相手はいなさそうだった。
吾輩に出来ることと言えば、もはや頭のおかしい人間達におかしな真似はよせと言いに行くぐらいしかなさそうだ。
そう思い立ったが吉日、吾輩は婆の乗ってきた船を一人で押して人間の港へと向かった。
鯨に人を喰わせても、もう魚はやらない。それを伝えるために。
船に乗っていたのは白髪も殆ど残っていない老婆で、どろんと濁った眼には月の光は届いていないようだ。
今回も吾輩が人間の相手をするのかと思い気や、他の小さな鯨が吾輩に体を擦りつけてきてなにかを要求してきた。
「長、僕たちにも……」
吾輩はぐるっと周囲を見渡すと、人間を求めてみたことのない数の鯨が婆の乗った船の周囲を取り囲んでいる。
人間の命のどこがそこまでお前たちを惹きつけるのか吾輩にはわからなかったが、長は皆の意見を尊重するもの。
吾輩は海中に沈むと、他の者たちが婆と取引する様をジッと輪の外側から見ることにした。
すると、吾輩が引いたことが鯨の輪に伝播すると、他の鯨は我先にと相手の要件も聞かぬ間に魚を船に投げ入れていった。
これでは一体どちらが餌を求めているのか分からないではないか。
しかし吾輩は人間に魅了された同胞たちを傍観しながら、万事筒がなく取引が終わるのを見ていることしか出来なかった。
彼らと婆の間に一体どんな取引が行われたのか、離れていたためその内容を仔細に聞くことはなかったが、吾輩の群れの中でも比較的大きなオスの個体が婆を喰らった。
そしてオスの個体は人間を食べたことに満足したのか、婆が乗ってきた船を港に運ぶことなく去って行った。
そしてそこに取り残された他の鯨達は、お互いに状況を伺いながら一頭、また一頭とその場から離れていった。
そして海上にはポツンと、婆が乗ってきた船が取り残された。
婆の乗ってきた船には生きの良い魚がまだ跳ねている。
「まったく……、命を粗末するな」
尾ひれで船を叩いてひっくり返すと、船の上の魚は水を得てすぐに散り散りになって逃げて行った。
今回の件で吾輩は既に人間と鯨に起きている異変が気がかりになった。
人間を躊躇わず口に入れるあの鯨達の目は普通ではない。なにか悪いモノにでも取り憑かれたみたいだ。
吾輩は長として彼らの目を覚まさせる必要があるだろう。
しかし、どうしたものか。
同胞はおかしくなってしまったし、人間も自ら命を差し出すほどに頭がおかしくなってしまった。
吾輩の境遇を理解し、尚且つ助けをくれそうな相手となると……残念ながらそんな都合の良い相手はいなさそうだった。
吾輩に出来ることと言えば、もはや頭のおかしい人間達におかしな真似はよせと言いに行くぐらいしかなさそうだ。
そう思い立ったが吉日、吾輩は婆の乗ってきた船を一人で押して人間の港へと向かった。
鯨に人を喰わせても、もう魚はやらない。それを伝えるために。
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