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すれ違う二人

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いつもの様に黙々と仕事をしていると。

ピリリリリ

携帯電話が鳴って。

カタカタ、と片手でキーボードを叩き続けながらポケットからiPhoneを取り出すと。

瑞紀が通っている高校の名前が、画面に表示されていて。

…は?

何なんだ。

こんな時に。

上がり株が。

そう思いつつ、出るしかないと通話ボタンを押して、電話を肩と顔で押さえて。

両手をキーボードに持って来てから。

「はい。もしもし。悠河です。」

そう言うと。

電話からしたのは、瑞紀の担任である広瀬だったかなんかの声。

『お仕事中失礼します。私、瑞紀さんの担任の「仕事中って分かってるなら早くしてよ。迷惑だ。」

俺がそう言うと。

電話越しにもため息をつかれたのが分かる。

は?

ため息をつきたいのはこっちだ。

ふざけるな。

この大事な時間に。

ここで、上がり株が下がり株か見分けるのに。

そう思いながら。

『…悠河君、気がつかなかったの?』

は?

話が唐突過ぎて、わけが分からない。

何にだ。

「…は?」

『瑞紀、朝から大分熱があったみたいだけど。』

…この女。

俺の事をバカにしてるのか。

パソコンに映し出されているグラフを見続けながら。

「知ってたよ。」

『…え?』

「知ってたから声をかけたけど、“大丈夫”と言ったから学校に行かせた。それだけだけど。」

だって、それで休むとか言われても俺には関係無いし。

休むなら勝手に休め。

ただし、俺に迷惑をかけないのなら。

俺が平然とそう言うと。

電話越しの相手は息を呑んで。

『…っあなた、バカじゃないの?!』



「は?君さ、『瑞紀ちゃん、40度近い熱があって、授業中に気を失ったきり、目を覚まさないのよ!!』

40度近い熱?

気を失ったきり?

目を、覚まさない?

背中に冷や汗が流れる感触がして。

それでも精一杯冷静に言葉を紡ぐ。

「…朝は、そこまで熱なんて…」

『子供は!私たちと違って体力があるから急に熱が上がるのよ!それくらい知らないの?!』

…そんなの、知るわけないだろう。

そう思いながら。

「うるさい『ずっと、うなされながら、貴方の名前、呼んでるのよ!?』

…は。

俺の名前を?



『…大変だとは思うけど、瑞紀のために向かいに来てあげて「分かってる。」

俺はそこで電話を切って。

急いで、上がり株と下がり株を見分けた後の安堵で騒がしい部署の中を歩いて部長の席までいく。

「…あれ、悠河君?」

近づいて行った俺に気がついた部長にそう声をかけられた。
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