政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅

文字の大きさ
上 下
35 / 125
揺れ動く心

4

しおりを挟む
それから三日後。

会社にいつものように出勤すると。

隣の席の瀬川が椅子を滑らせながら俺の机に来て、俺に対して唐突に言葉を放つ。

「…おい。お前、今年は来るんだろうな。」

…は?

今年?

何の事だ。

こいつはいつも話が急なんだ。

そう思いながら。

「…何の事。」

椅子を引いて、座りながらそう言うと。

瀬川はその様子を見ながら呆れたようにため息をついて。

「毎年恒例の、成績優秀者だけが出れる会社主催の謝恩パーティーだよ。」

「…あぁ。」

面倒くさい時が来たか。

「お前毎年誘われてるくせに何で来ないんだよ。」

「面倒くさいからに決まってるでしょ。」

「…大企業のお偉いさんも来るんだぞ、そこで会話が弾めばお前だって「元々話すのが好きじゃないのに、なんでそんな所行かなきゃならないの。」

俺がそう言うと、仕方ない、とでもいう風に瀬川は肩を竦めてため息をついて黙った。

やっと、黙ったか。

そう思った時。

瀬川は、急に神妙な顔になって。

「…奥さんも喜ぶぞ、って言おうと思ったんだけど…それで一個言おうとしてた事思い出したわ。」

は?

何だ。

その言葉に眉を寄せると。

瀬川はため息をつきながら部長が座る席の真上の壁にかかってる時計を見て。

「…始業時間までまだあるな。ちょっと来いよ。」

…何でだ。

ここで話せばいいだろう。

そう思いながらも。

その言葉に仕方なく席を立った。

人気が無い所まで来ると瀬川は
、ここら辺で良い、と言って。

その言葉を合図に壁に持たれた俺を振り返り視線を合わせた。

何だ。

何で話し出さない。

早く仕事がしたい、さっさと終わらせろ。

仕方なく俺から瀬川に話の続きを催促する。

「…何。」

「瑞紀ちゃん、この前会社来ただろ。」

何だ急に。

瑞紀?

何でここで瑞紀が。

そう思いつつ。

「…だから。」

俺が目線を床に持っていって、腕を組んで革靴の足でトントンとリズムを刻みながらそう言うと。

「すごい噂になってるぞ。」

は?

「…噂?」

そんな俺に対して、瀬川はやっぱりなとでもいう様にため息をつく。

「お前がこの前女性社員と夜会ってたの知ってる連中がいて、悠河は瑞紀ちゃんに対して愛がないって。」

は。

瑞紀に対して、愛がない?

バカじゃないの。

そんなの。

「…そんなの、本当の事なんだからしょうがないだろう。ほかっとけば良い。」

何だ、しょうもない。

そんな事で呼び出したのか。

俺が壁から離れて机に戻ろうとすると瀬川は焦った様に。

「それだけじゃない。俺も思ったけど、瑞紀ちゃん、相当モテる顔してるだろ。若い男性社員達が、狙ってるらしい。」



「狙ってようが何だろうが、こことは大分離れてる高校に通ってて未成年の瑞紀と会うはずが無いんだから、どうしようも出来ないだろう。」

その言葉に。

瀬川は小さな声で呟く。

「…本当に、そうだと良いけどな。」

何だ、それは。

俺は振り返って眉を寄せながら瀬川を見て。

「は?」

「別に。何でもない。」

瀬川はそう言って、自分の席に戻って行ってしまった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

【完】あなたから、目が離せない。

ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。 ・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

処理中です...