政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅

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二人の間にある距離

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こんな時に。

早く家に帰らなきゃならないのに。

眉を寄せながら電話に出ると。

「はい。」

『もしもし。こちら受付ですが、悠河さんですか?』

若い女の声がして。

うるさい。

その気持ちを抑えながら。

「そうです。」

『受付に、お客様がお見えになっておられます。』

…は?

客?

こんな忙しい時に誰だ。

机に置いてあった手帳をパラパラとめくりながら。

得意先の相手との面会は、今日は無いはず。

「…客?」

『はい。悠河さんが困っていらっしゃるだろうから、と。』

困ってる?

は?

…まさか。

いや、でも。

そう思いながらも。

息を呑んで、言葉を紡ぐ。

「名前は…」

『少々お待ち下さい。失礼します。』

電話口の向こうから話してるのだろう、ざわめきが聞こえて。

『悠河さん、奥様です。』

その言葉を聞くと急いで電話を切って、瀬川の
「おい、悠河!?」
という声に振り返りもせず走り出す。

急いで部署のドアを開けて、
エスカレーターを走りながら降りる。

見えてきた受付には。

「どうしたの、何か用事?」

数人の男に囲まれてる、瑞紀の姿。

「…っ瑞紀!」

走りながらそう叫ぶと。

瑞紀が背の高い男達の中から背伸びして顔を出す。

周りにいた男達もそれにつられるようにこちらを見て。

それから、目を見開く。

「…っちょ、あれ、悠河さんじゃねーか!」

「やべぇ!行こうぜ!」

「お、おう!」

バタバタと走っていく男達には目もくれず。

黒のジャケットに白のシャツに水色のスカートにパンプス、といういつもより大人っぽい服装と髪型と化粧をした瑞紀の腕を掴んで歩き出す。

「…ちょ、知哉さん?」

会社の外に出た所で。

振り返って、瑞紀を見下ろしながら。

「…何の用。」

そう聞くと。

瑞紀は、少し巻いている髪を耳にかけながら持っていた鞄の中から、USBを出して、俺の方へ差し出す。

「昨日、こればかりずっとしていたから。今日のために必要なんだと思って。」

「…何でそれを。」

「私、ちょこちょこ洗濯物畳むのに前通ってましたよ。気づかれてなかったみたいですけど。」

俺はそれを受け取りながら。

「…学校は。休んだんじゃ無いだろうね。」

「今日は創立記念日でしたから。洗濯物を干そうとしたら目に付いたので。知哉さんのお義父さんに連絡して会社の場所を教えていただいたんです。」

そう笑う瑞紀を見下ろしながら。

「…そう。」

瑞紀は笑いながら。

「迷惑でしたか?」

「…いや。助かったよ。」

俺がそう言うと。

瑞紀は、少し頬を赤くして笑って。

「仕事、頑張って下さいね。」

そう言って歩き出そうとする瑞紀に対し。

「君、ここまでどうやって来たの。」

「?…歩きです。」

「大分、遠かっただろう。」

「いえ、景色を見ながら歩くの好きですから。」

そう笑う瑞紀の足を指差して。

「足、靴擦れしてるくせに何言ってるの。」
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