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二人の間にある距離

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それから何日か経ったある日。

俺がいつもの様に会社で数えきれないほどの株のグラフをずっと見て変動が無いか、チェックしていると。

「悠河君!」

声がした方を見ると、部長が立ってこちらに向かって手を降っていた。

俺が立ち上がって部長の方へ歩いて行く。

部長は目の前に来た俺を確認して。

「ごめん、悠河君、昨日渡したUSBのデータ完成してくれた?」

「はい。昨日の夜に。」

「良かった。このプリントに書かれてるデータも入力して早めに渡してくれるかな。急でごめんね。」

そう言いながら数枚のプリントを渡して来る部長を見ながら。

「…分かりました。」

そう頷いて、渡されたプリントを確認しながら席について、USBやSDカードをたくさんいれてあるケースを鞄の中から出す。



ガチャガチャ

何で。

無い。

は?

ケースに入っていた物を全て、丁寧に机の上に立つ。

「…お、おい?」

声をかけて来た瀬川を無視しながら、その作業を続ける。

それから、パソコンが入った鞄の中も手で探る。

中に入ってる物を全部出したにも関わらずお目当ての物は見つからない。

無い。

本当に、

どこにも、

無い。



嘘だろ。

こんな事、今まで一度もなかったのに。



黙々と机の上に散らかったUSBやSDカードを戻しながら、どうするべきか考える。

…自室か?

でも、朝机の上には無かった。

じゃあどこで。

待て。

落ち着け。

思い出せ。

…昨日、俺はどこであのUSBを最後に出した?

家に帰って、まずシャワーを浴びて、ご飯を食べて、瑞紀が勉強すると言って部屋に戻って、それから…

あ、分かった。

リビングだ。

リビングの、奥にある方のテーブルの上。

そこで、気分転換に仕事をやろうと。

しまった。

そんな事するんじゃ無かった。

取りに戻るなんてそんな事をしたら、信用に関わる。

一回そういう事をしたら、そういうイメージが付いてしまう。

でも取りに行かないと仕事が出来ない。

どうしようか。

時計を見ると、午後1時。

今日は平日だし、まだ瑞紀は学校だろう。

それにそもそも、瑞紀は俺の会社の場所を知らない。

どうする。

どうする。

でも、どうしようも…

…仕方ない。

重い腰を持ち上げて、歩き出そうとすると。

ブルルルルル

机にある、俺専用の電話が鳴った。


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