4 / 125
出会い
3
しおりを挟む
「君の部屋だけど。」
その言葉に瑞紀はこくん、とあいずちを打つ。
「あの部屋を好きに使って良い。カレンダーとか貼りたかったら画鋲で貼って良いから。」
「はい…」
あ、画鋲で思い出した。
俺はゆっくりと立って大きめのテレビがある横に置かれている白色のタンスの上から二段目を開けて。
「ここに、文房具入ってるから。」
一段目も開けて。
「ここは判子とか保健書とか、固定資産税の書類とかね。ここに君の重要な書類もいれておくと良い。」
「…ありがとうございます。」
「タオルとか洗面用具は…」
事細かくどこに、何があるか説明しておく。
変にどっか触られたりしたら、迷惑だし不愉快以外の何者でもない。
そんな俺の下心を露知らず、女は俺の言葉に丁寧にお礼を返した。
最後に俺が
「他に何か質問は。」
と聞くと。
女は黙って首を横に振った。
それから30分後。
引越し業者が、終わりました、とリビングのドアを開けて。
ソファに腰を下ろしてた俺は立ちながら、ありがとうございました、と頭を下げる。
それに続いてダイニングテーブルに座っていた瑞紀も立ち上がって礼を言う。
「失礼しましたー。」
引越し業者は笑いながら、頭を下げゆっくりとリビングの扉を閉めてから、間もなく家から出て行った。
鍵。
立ち上がろうと思う前に。
「…鍵、かけてきますね。」
瑞紀が俺より早く立ち上がって、歩き始めていた。
鍵をかけ終えた瑞紀は、リビングのドアから少しだけ顔を出して。
「荷物、片付けて来ても良いですか?」
いや。
何で俺に聞くんだ。
そんなの俺に関係無い。
って言うか、必要以上に話したく無い。
「そんなの俺に聞かなくても、勝手にやれば良いよ。」
その言葉に瑞紀は、眉を下げて。
「…はい。」
…
俺はふと思い立って、ソファから立ち上がる。
それから、俺の様子を見ていた瑞紀の方に歩いて行く。
ドアノブを持っている、俺の突然の行動に驚く瑞紀の正面まで行って瑞紀が持っている反対側のドアノブを持ってゆっくりと引きながら。
「ちょっとどいて。」
その言葉にさっと瑞紀はドアの前から横にそれて。
瑞紀とドアの間を通る。
それからドアを後ろ手に閉めて瑞紀が立っている真横に立ちながら。
「右は見た通り、こっち側からお風呂場、トイレ、物置ね。物置の中に掃除機とか大きい電気用品入ってるから。扇風機とかヒーターとかね。まぁ、君の部屋にもリビングにもエアコンあるから使わなくても大丈夫だと思うけど、使いたかったらそこから出して。」
リビングから真っ直ぐに続いている廊下の左側にある三つの部屋を見て。
一番手前にあった部屋の前まで歩き、そのドアを少し開けながら。
俺をじっと見る瑞紀に対して
「ここ、寝室ね。」
瑞紀が目を見開く。
「新しく買ったダブルベッドとヘッドライトが置いてあるだけだけだから、寝室も何もないけど。」
「…え」
みるみるうちに瑞紀の顔が赤くなって行く。
バカじゃないの、この女。
そんな瑞紀の顔を見ながら。
こいつごときに欲求も何もない。
このベッドを買ったのは。
「誰か訪ねて来た時、君の部屋と俺の部屋に別々にベッドがあって、ダブルサイズのベッドが無いのを見られたら夫婦仲が悪いと思われるでしょ。」
「…そうですね。」
あからさまにホッとした顔をする瑞紀を尻目にため息をつきながらドアを閉めて。
「今の所、使う気はないよ。」
…今の所も何も、一生。
その言葉に瑞紀はこくん、とあいずちを打つ。
「あの部屋を好きに使って良い。カレンダーとか貼りたかったら画鋲で貼って良いから。」
「はい…」
あ、画鋲で思い出した。
俺はゆっくりと立って大きめのテレビがある横に置かれている白色のタンスの上から二段目を開けて。
「ここに、文房具入ってるから。」
一段目も開けて。
「ここは判子とか保健書とか、固定資産税の書類とかね。ここに君の重要な書類もいれておくと良い。」
「…ありがとうございます。」
「タオルとか洗面用具は…」
事細かくどこに、何があるか説明しておく。
変にどっか触られたりしたら、迷惑だし不愉快以外の何者でもない。
そんな俺の下心を露知らず、女は俺の言葉に丁寧にお礼を返した。
最後に俺が
「他に何か質問は。」
と聞くと。
女は黙って首を横に振った。
それから30分後。
引越し業者が、終わりました、とリビングのドアを開けて。
ソファに腰を下ろしてた俺は立ちながら、ありがとうございました、と頭を下げる。
それに続いてダイニングテーブルに座っていた瑞紀も立ち上がって礼を言う。
「失礼しましたー。」
引越し業者は笑いながら、頭を下げゆっくりとリビングの扉を閉めてから、間もなく家から出て行った。
鍵。
立ち上がろうと思う前に。
「…鍵、かけてきますね。」
瑞紀が俺より早く立ち上がって、歩き始めていた。
鍵をかけ終えた瑞紀は、リビングのドアから少しだけ顔を出して。
「荷物、片付けて来ても良いですか?」
いや。
何で俺に聞くんだ。
そんなの俺に関係無い。
って言うか、必要以上に話したく無い。
「そんなの俺に聞かなくても、勝手にやれば良いよ。」
その言葉に瑞紀は、眉を下げて。
「…はい。」
…
俺はふと思い立って、ソファから立ち上がる。
それから、俺の様子を見ていた瑞紀の方に歩いて行く。
ドアノブを持っている、俺の突然の行動に驚く瑞紀の正面まで行って瑞紀が持っている反対側のドアノブを持ってゆっくりと引きながら。
「ちょっとどいて。」
その言葉にさっと瑞紀はドアの前から横にそれて。
瑞紀とドアの間を通る。
それからドアを後ろ手に閉めて瑞紀が立っている真横に立ちながら。
「右は見た通り、こっち側からお風呂場、トイレ、物置ね。物置の中に掃除機とか大きい電気用品入ってるから。扇風機とかヒーターとかね。まぁ、君の部屋にもリビングにもエアコンあるから使わなくても大丈夫だと思うけど、使いたかったらそこから出して。」
リビングから真っ直ぐに続いている廊下の左側にある三つの部屋を見て。
一番手前にあった部屋の前まで歩き、そのドアを少し開けながら。
俺をじっと見る瑞紀に対して
「ここ、寝室ね。」
瑞紀が目を見開く。
「新しく買ったダブルベッドとヘッドライトが置いてあるだけだけだから、寝室も何もないけど。」
「…え」
みるみるうちに瑞紀の顔が赤くなって行く。
バカじゃないの、この女。
そんな瑞紀の顔を見ながら。
こいつごときに欲求も何もない。
このベッドを買ったのは。
「誰か訪ねて来た時、君の部屋と俺の部屋に別々にベッドがあって、ダブルサイズのベッドが無いのを見られたら夫婦仲が悪いと思われるでしょ。」
「…そうですね。」
あからさまにホッとした顔をする瑞紀を尻目にため息をつきながらドアを閉めて。
「今の所、使う気はないよ。」
…今の所も何も、一生。
0
お気に入りに追加
845
あなたにおすすめの小説
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
【完】あなたから、目が離せない。
ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。
・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。


愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
初恋の呪縛
泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー
×
都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー
ふたりは同じ専門学校の出身。
現在も同じアパレルメーカーで働いている。
朱利と都築は男女を超えた親友同士。
回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。
いや、思いこもうとしていた。
互いに本心を隠して。
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる