政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅

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近づく距離

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父は、何も答えない。

「早く、教えてよ。」

「…」

「知ってるんでしょ、俺だって忙しい。勿体ぶらずにさっさと「知って何になる?」

父の怒っている様な低い声に思わず眉を寄せる。

「知ってお前はどうする気だ。瑞紀さんの事、いなくてもいてもどっちでも関係無い、って言ってたお前が、何を今更安っぽい正義感を表立たせて騒いでる?」

その言葉に唇を噛む。

父はそんな俺を見下ろしながら。

「…良かったじゃないか。これで思う存分仕事が出来るだろう。お前の思う通りになった。何を騒いでる、むしろ良かったじゃないか。」

…は。

ふざけるな。

良かった、だと?

「…うるさいな。」

俺がそう言うと。

父親は眉を寄せて。

「ブツブツブツブツ。確かに、前の俺だったら喜んでこの状況を受け入れただろうけどね。…でも、そうは行かなくなったんだよ。」

俺は、ゆっくりとポケットにいれてあった離婚届を手に取りながら。

「瑞紀が色々としてくれたおかげでね。あの子がいないと、不便なんだよ。色々と。」

折りたたんである離婚届をゆっくりと広げながら。

「困ったものでね、仕事にも集中出来なくなってきた。」

それから、その紙の両端を右手と左手で持って。

父の目の前に掲げながら。

「…だから、この落とし前は、あの子の一生全て使ってつけてもらうよ。」

そう言いながらビリビリと破る。

こんな物。

ふざけるな。

「勝手に俺の前からいなくなるなんて、絶対に許さない。」

しばらく父は無言で俺を見てた。

俺もそんな父を無言で見返して。

すると。

「…そうか。」

突然父は、ふ、と笑ってから立って、電話機の近くに置いてあったメモに何かを書いてそれを折たとんで、俺に手渡しながら。

「…お前はその幸せを、決して離すんじゃないぞ。どんな事があってもだ。」

その。

父の言葉の意味を。

ゆっくりと。

噛み締めながら。

受け取った紙を。

瑞紀への微かな道標を。

しっかりと握り締める。

「…分かってる。」

そう言って、家を飛び出して紙に書かれた住所まで車を走らせようとエンジンをかける。




父が。

母をすごく愛してた事も。

母が亡くなって一番辛かったのは父だと言う事も。

母と同じぐらい、俺を愛してくれてたのも。

全部。

“分かってる。”
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