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近づく距離

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「…いらっしゃいませ。」

店の中に客は誰もいなくて。

いるのは静かな雰囲気をまとったスーツの男だけ。

俺はその男に近づきながら。

「この前予約した、悠河です。」

そう言うと。

男はレジの下にあった名簿らしき物にさっと目を通して笑いながら頷いて。

「少々お待ち下さい。」

そう言って店の中に入って行く。

誰もいなくなってしまった煌びやかな店の中を見回した。

瑞紀も。

連れて来るべきだったかな。



「こちらで間違いありませんか?」

店の奥の方から、男の店員が開かれた小さな箱を持ってその中身を俺に見せるようにしながらこちらへ向かって歩いて来て。


俺は見せられた物の中身を手に取って、裏を見た後。

「…はい。間違いないです。」
と言った。




会計を済まして、その箱を持って来た道を戻る。

車が停めてあるコンビニの前にある交差点が青になるのを待ってから、渡る。

俺は無言で車に近付くと、持っていた物をポケットにそっと入れて運転席に乗り込む。

そんな俺を瑞紀は無言で見て。

「…用事は済みましたか?」

その質問には答えずに。

「食料とか、足りてるの?」

「え、あ、はい。…明日くらいには買い物に行くかもしれませんけど。」

その言葉に、頷いて。

「じゃあもう帰るけど。」
と言うと瑞紀は黙って頷いた。

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