政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

すれ違う二人

3

俺は、焦る気持ちを必死で抑えながら。

「…早退させて下さい。」

突然の俺の言葉に、部長は驚いた様に目を見開く。

「え、ちょ、「お願いします。早く行かなきゃならないんです。」

俺が頭を下げてから、顔を上げると。

部長は真剣な顔をしながら。

「…それは早退するほどの大切な用事なの？」

そこで、は、と気づく。

…“早退するほどの大切な用事”？

そう言われれば。

瑞紀が目を覚ませば、タクシーを呼ばせれば良い。

何で俺が早退しようとしてるんだ。

こっちは、仕事なのに。

俺は仕事が大好きで。

最優先で。

なのに。

…

気が動転していただけだ。

目を覚ませ。

ダメだ。

何やってる。

俺が目の前にいた部長に、さっきの言葉を取り消そうとすると。

「部長、「奥さん絡みだろ？」

背後から瀬川の声がした。

「…」

電話の内容が聞こえていたのか。

鬱陶しい。

勝手に盗み聞きをするな。

俺が黙って背後にいた瀬川の顔を見ると。

瀬川は俺を睨みつけながら。

「瑞紀ちゃんの事、ちゃんと大切にしてやれよ！お前の事あれだけちゃんと見てくれてて、お前の性格も分かっててそれでも一緒にいる女の人なんて他にいねーだろ？！」

…

は？

ちゃんと見てる？

どこが。

あんなの、ただの子供じゃないか。

女じゃない、ただの面倒くさい子供だ。

瀬川が大きな声を出してもざわついてる周りは気づかない。

俺がため息をついて振り返ろうとした時。

「あの子、お前の母親の事も全部知ってたぞ。」

…

は？

は？

何で。

俺は、

そんな事一言も。

驚いて、振り返る。

「それで女性に対して冷たい態度とるのも分かってるって。それでも、お前と一緒にいたいって。そう、言ってた。」

瑞紀が。

俺と。

一緒にいたい？