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出会い
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「ねぇ、私たち、まずいよ」
いつものように会社の外にあるベンチで一緒にお昼ご飯を食べている時、大学も一緒で同期入社である橋本玲が神妙な顔つきをして私に話しかけた。
「…何が。」
私はあえて玲を見ることなく、返事をする。
「確実に乗り遅れてるよ。」
周りに人はいるが誰も私たちの話なんて聞いてないだろうに、妙にコソコソと話をするのが彼女の癖だ。
「だから、何によ。」
そこでようやく玲の顔を見た。
すると彼女は私の顔にぐっと近寄って
「決まってるじゃん、結婚ラッシュだよ結婚ラッシュ!」
と勢いよく話す。
「…はぁ、またその話?
っていうか、私たちまだ26だし。
社会人5年目だよ、自分のこともちゃんとできてないのに、結婚なんてそんな余裕ないよ」
「余裕なんてできなくていいんだって!
余裕を持つための結婚だって!」
「…そうですか。」
彼女と私の結婚観は違うらしい。
前はその違いについて延々と話したりしたけど、どうせ今しても同じことの繰り返しになるだけだから、やめた。
こんな時は、話題を変えるに限る。
どうせお互い今のところ相手いないんだし。
「じゃあ、今度の2人で行く旅行の計画立てる暇なんかないね。合コン行かなきゃだね。」
私が残念そうにそういうと、彼女はじとっとした目で私を見ながら、それ話違うじゃん、と言う。
「旅行、キャンセルする?合コンにする?」
私が笑いながらそう言うと。
「もう、わかったよ、やめよ、この話!」
「そうそう、旅行の計画立てるために今日集まったんでしょー?」
「そうでした、そうでしたー!」
彼女も笑いながらお弁当に目を向けたその顔を見て、私がバレないように安堵していると
「…でもさ。」
と箸の先で卵焼きを突きながら、玲がゆっくりといった。
「私、心配なんだよ」
その声に私はゆっくりと顔をあげて、彼女の下に向いた顔を見る。
「…」
「忘れなよ、あの人のこと」
玲の名前を呼ぼうとして遮れる。
「れ「大学生の時のことでしょ、もうあれから5年もたってるんだよ」
5年
その言葉に一気に現実に引き戻される。
もう、そんなに経ったのか。
経っちゃったのか。
そんな気持ちを玲に悟られないようにどうにか笑顔を作って言葉をしぼり出す。
「…忘れてるよ。大丈夫、ありがと。」
「私っ、」
玲はいいかけて、やめた。
「…そっか。」
玲の、こういうところが好き。
汲み取ってくれるところが好き。
彼女は本当に私のことを心配してくれてるのだと思う。
だけど多くは聞かないし、話もしない。
あの時もそうだった。
ひたすら何も話さず泣いてる私を、無言でぎゅっと抱きしめてくれた。
彼女がいたおかげで、ゆっくりではあったけれど立ち上がれたのだと思う。
「ありがとう、玲」
その言葉に玲は曖昧に笑って、言葉を発する。
「…旅行、めっちゃ楽しみだね!」
「ね、いつぶり?私その日に合わせて美容院入れてるから。」
「本気じゃん!!」
その言葉に2人で笑って。
そうだよ、本気に決まってるじゃん、旅行だよ?なんて言いながら。
微かに、匂う気がするの
あの人の香りが。
残ってるの
私を包む、腕の温かさが。
私の肩に乗せる、頭の重みが。
その時に首筋からほのかにした、あの人の香りが鼻に、頭に、残ってる。
忘れたくても、忘れさせてくれない。
『ゆあに、俺以上なんていない。』
あの人は、私をまだ縛っている。
いつものように会社の外にあるベンチで一緒にお昼ご飯を食べている時、大学も一緒で同期入社である橋本玲が神妙な顔つきをして私に話しかけた。
「…何が。」
私はあえて玲を見ることなく、返事をする。
「確実に乗り遅れてるよ。」
周りに人はいるが誰も私たちの話なんて聞いてないだろうに、妙にコソコソと話をするのが彼女の癖だ。
「だから、何によ。」
そこでようやく玲の顔を見た。
すると彼女は私の顔にぐっと近寄って
「決まってるじゃん、結婚ラッシュだよ結婚ラッシュ!」
と勢いよく話す。
「…はぁ、またその話?
っていうか、私たちまだ26だし。
社会人5年目だよ、自分のこともちゃんとできてないのに、結婚なんてそんな余裕ないよ」
「余裕なんてできなくていいんだって!
余裕を持つための結婚だって!」
「…そうですか。」
彼女と私の結婚観は違うらしい。
前はその違いについて延々と話したりしたけど、どうせ今しても同じことの繰り返しになるだけだから、やめた。
こんな時は、話題を変えるに限る。
どうせお互い今のところ相手いないんだし。
「じゃあ、今度の2人で行く旅行の計画立てる暇なんかないね。合コン行かなきゃだね。」
私が残念そうにそういうと、彼女はじとっとした目で私を見ながら、それ話違うじゃん、と言う。
「旅行、キャンセルする?合コンにする?」
私が笑いながらそう言うと。
「もう、わかったよ、やめよ、この話!」
「そうそう、旅行の計画立てるために今日集まったんでしょー?」
「そうでした、そうでしたー!」
彼女も笑いながらお弁当に目を向けたその顔を見て、私がバレないように安堵していると
「…でもさ。」
と箸の先で卵焼きを突きながら、玲がゆっくりといった。
「私、心配なんだよ」
その声に私はゆっくりと顔をあげて、彼女の下に向いた顔を見る。
「…」
「忘れなよ、あの人のこと」
玲の名前を呼ぼうとして遮れる。
「れ「大学生の時のことでしょ、もうあれから5年もたってるんだよ」
5年
その言葉に一気に現実に引き戻される。
もう、そんなに経ったのか。
経っちゃったのか。
そんな気持ちを玲に悟られないようにどうにか笑顔を作って言葉をしぼり出す。
「…忘れてるよ。大丈夫、ありがと。」
「私っ、」
玲はいいかけて、やめた。
「…そっか。」
玲の、こういうところが好き。
汲み取ってくれるところが好き。
彼女は本当に私のことを心配してくれてるのだと思う。
だけど多くは聞かないし、話もしない。
あの時もそうだった。
ひたすら何も話さず泣いてる私を、無言でぎゅっと抱きしめてくれた。
彼女がいたおかげで、ゆっくりではあったけれど立ち上がれたのだと思う。
「ありがとう、玲」
その言葉に玲は曖昧に笑って、言葉を発する。
「…旅行、めっちゃ楽しみだね!」
「ね、いつぶり?私その日に合わせて美容院入れてるから。」
「本気じゃん!!」
その言葉に2人で笑って。
そうだよ、本気に決まってるじゃん、旅行だよ?なんて言いながら。
微かに、匂う気がするの
あの人の香りが。
残ってるの
私を包む、腕の温かさが。
私の肩に乗せる、頭の重みが。
その時に首筋からほのかにした、あの人の香りが鼻に、頭に、残ってる。
忘れたくても、忘れさせてくれない。
『ゆあに、俺以上なんていない。』
あの人は、私をまだ縛っている。
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