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薄い水色のコートに白色のレースのタイトスカートにワイシャツ。
意外と綺麗めな格好をするんだな。
そんなことを考えながら、
「…荷物を持ってきたのか」
と話しかける。
なぜか呆気にとられたような顔をしていた立石さんは、その言葉にハッとしたように
「あ、おはようございます…」
と今更ながら挨拶をしてきた。
その反応に思わずほおを緩めてしまう。
立石さんはそんな俺を見て、なぜかバツの悪そうに目をそらした。
そんな様子は気にもとめずに俺はパソコンから手を離して自分の机のすぐ隣、昨日帰る前に設置した真新しい机に手を置き指をトントン、と動かして、
「君の席はここだよ。」
と言った。
「あ、ありがとうございます…」
ガラガラ
彼女は引いてきた台車をその机の真正面につけて、
「ここに荷物置いてもいいですか?」
と聞いた。
「…君の席なんだから自由にすればいい」
その言葉に彼女は少し目尻を下げて微笑んだ。
彼女が荷ほどきをするのをしばらく眺めていると
「そ、そんなに見るのやめてください…」
なんて言うから、しょうがなく彼女から目をそらしパソコンに向かう。
カタカタ
誰もいないフロアに俺の叩くパソコンのキーボードの音と彼女の荷ほどきをする音が響く。
どんなに集中しようとしても
甘い香りが立ち込めて
「…コーヒー」
少し、おかしくなってしまった頭をリセットしようとそれだけ言って椅子から立ち上がると。
「あ、じゃあ私が給湯室に行きます!」
その言葉に思わず振り返る。
すると彼女は
「誰もいない今の内に、どこにどんなものがあるのか見ておきたいですし…」
とその顔に微笑みをたたえながら言った。
「…俺のコップ、わかるの?」
「はい、探します!」
探しますって。
はいって。
わかってないだろう。
こんなに大勢の人数のコップから分かるわけがない。
俺は思わず小さなため息にも似た笑いを殺して
「じゃあ、一緒に行こう」
と言った。
彼女はそんな俺に対して、にこりと微笑んだ。
俺が先に歩き出し、立石さんは後ろから黙ってついてきた。
妙に背中が熱い。
なるべく悟られないようにしようと変に緊張しながら給湯室に入り、
奥から二番目の棚の上から3段目の食器棚を開け黒色の無地のコップを彼女に差し出す。
「…これが俺のだから。」
すると、彼女はそのコップを両手に包んで俺を見上げながら
「松永さんらしいですね」
と笑う。
…なんだそれは。
そう思いながらも。
俺はすぐ隣の棚を指差して、
「君の探してるものはここにあると思うから。」
と言った。
「ありがとうございます。」
彼女が隣の棚に手を伸ばした瞬間。
また
甘い香り。
俺は思わず顔を背けて、
「…じゃあよろしく。」
そう言って急いで給湯室を出た。
誰もいないフロアを
何かを振り切るかのように
歩きながら
…こんなので
やっていけるのだろうか。
俺はふと足を止めて、両手をポケットに突っ込んだ姿勢のまま下を向き、思わず小さくため息を漏らした。
意外と綺麗めな格好をするんだな。
そんなことを考えながら、
「…荷物を持ってきたのか」
と話しかける。
なぜか呆気にとられたような顔をしていた立石さんは、その言葉にハッとしたように
「あ、おはようございます…」
と今更ながら挨拶をしてきた。
その反応に思わずほおを緩めてしまう。
立石さんはそんな俺を見て、なぜかバツの悪そうに目をそらした。
そんな様子は気にもとめずに俺はパソコンから手を離して自分の机のすぐ隣、昨日帰る前に設置した真新しい机に手を置き指をトントン、と動かして、
「君の席はここだよ。」
と言った。
「あ、ありがとうございます…」
ガラガラ
彼女は引いてきた台車をその机の真正面につけて、
「ここに荷物置いてもいいですか?」
と聞いた。
「…君の席なんだから自由にすればいい」
その言葉に彼女は少し目尻を下げて微笑んだ。
彼女が荷ほどきをするのをしばらく眺めていると
「そ、そんなに見るのやめてください…」
なんて言うから、しょうがなく彼女から目をそらしパソコンに向かう。
カタカタ
誰もいないフロアに俺の叩くパソコンのキーボードの音と彼女の荷ほどきをする音が響く。
どんなに集中しようとしても
甘い香りが立ち込めて
「…コーヒー」
少し、おかしくなってしまった頭をリセットしようとそれだけ言って椅子から立ち上がると。
「あ、じゃあ私が給湯室に行きます!」
その言葉に思わず振り返る。
すると彼女は
「誰もいない今の内に、どこにどんなものがあるのか見ておきたいですし…」
とその顔に微笑みをたたえながら言った。
「…俺のコップ、わかるの?」
「はい、探します!」
探しますって。
はいって。
わかってないだろう。
こんなに大勢の人数のコップから分かるわけがない。
俺は思わず小さなため息にも似た笑いを殺して
「じゃあ、一緒に行こう」
と言った。
彼女はそんな俺に対して、にこりと微笑んだ。
俺が先に歩き出し、立石さんは後ろから黙ってついてきた。
妙に背中が熱い。
なるべく悟られないようにしようと変に緊張しながら給湯室に入り、
奥から二番目の棚の上から3段目の食器棚を開け黒色の無地のコップを彼女に差し出す。
「…これが俺のだから。」
すると、彼女はそのコップを両手に包んで俺を見上げながら
「松永さんらしいですね」
と笑う。
…なんだそれは。
そう思いながらも。
俺はすぐ隣の棚を指差して、
「君の探してるものはここにあると思うから。」
と言った。
「ありがとうございます。」
彼女が隣の棚に手を伸ばした瞬間。
また
甘い香り。
俺は思わず顔を背けて、
「…じゃあよろしく。」
そう言って急いで給湯室を出た。
誰もいないフロアを
何かを振り切るかのように
歩きながら
…こんなので
やっていけるのだろうか。
俺はふと足を止めて、両手をポケットに突っ込んだ姿勢のまま下を向き、思わず小さくため息を漏らした。
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