社内で秘密の恋が始まる

美桜羅

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一人でいつものようにカタカタとパソコンを叩いて仕事をしていると、プルルと俺のデスク上にある電話が鳴った。

…この忙しい時間帯に…。

そう思いながら片手だけ作業を止めて、電話に出る。

「…もしもし。」

そう言いながらも電話を方と顔の間に挟んで仕事を続ける。

『もしもし、松永まつながくん?』

いやいや、俺のデスクの電話にかけてるんだから出るのは俺しかいないだろう。

そんなことで時間を食わせないでくれ。

俺の仕事は有名会社の本社に勤務している営業なのだが、非常に多くの製品を扱っている会社のためビル全体が一つの会社にも関わらずワンフロアにいくつもの部が集められて仕事をしている。

なのでこんな部長からのあまり重要とも呼べなそうな用事にも電話での対応となる。

「はい、お疲れ様です部長。」

その間も必死に指を動かす。

『先月も頑張ってくれてありがとう。君のおかげでうちの部の成績は格段に良くなったよ。』

…別に褒められたくてやってるんじゃない。

「ありがとうございます。」

『でね、ここからが本題になるんだけど最近松永君の仕事増えただろう?』

押し付けてるのはどこの誰だ。

「…増えましたね。」

この会話の間にもどんどんと数字は変化して行く。

その変化に置いていかれないように必死に指を動かして。

『だから君の希望を聞いてあげようと思ったわけだ。』

…希望?

なんの?

「なんのですか?」

『君一人でその量をこなすのは難しい。
まぁ、松永君は一人でできるって言いそうだけど、こちらとしてはそれで仕事の質が下がったり遅くなったら困るからね。君に補佐をつけよう。
松永君専用に秘書課からひとりつける。』


願ってもいない、誤算だった。

「…」

想像もしなかった事態に思わず手が止まり、口が緩む。

その口元を周りに見せないようにと片手で隠した。

『…松永君、誰がいいとかあったら聞くけどどう?』

そんなの決まってる。



あの笑顔を絶対自分のものにしてみせる。



「ありがとうございます、部長。」

こんな事で、
一喜一憂して
仕事の手を止めてしまうなんて
俺はよっぽど彼女に入れ込んでるらしい。

「…秘書課第1の立石雫たていししずくさんでお願いします。」

そう言うと、電話の向こうにいる部長がかすかに笑った気がした。
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