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「…どうぞ。」
そんな控えめな声に気づいて、そちらに視線を向けると俺の空になったはずのマグカップは並々にコーヒーが入れられていた。
そのマグカップを遠慮がちに、俺の仕事の邪魔にならないような場所に、コトン、と置いた。
俺は少し驚きながら
「…ありがとう」
とだけ呟いて、もう一度パソコンに向き直る。
「…あ、あの…」
消え入りそうな声をどうにか聞き取り、俺がゆっくりと振り返ると、机の上には某有名チョコレート店の紙袋が差し出されていた。
「…」
「これから、たくさんご迷惑をかけると思うので…その、なんというか…あの、お詫びというか…」
…
お詫び?
思わずその言葉に少し笑ってしまう。
「まだ、しくじってもいないのにお詫び?」
彼女は伏し目がちにしながら、
「こういうのは、事前に知らせて置いたほうがいいかな…って」
と言った。
「こんないいチョコレートくれるってことは、これ相当のミスをやらかすってこと?」
「…っあ、それは、いや」
「なら今から用心しておかないとね…。
俺の秘書は何をやらかしてくれるのか楽しみだよ」
彼女は赤面して、少し頬を膨らましながら
「…案外、意地悪ですね」
と言った。
「…そうだよ。
意地悪だから、もしこのチョコレート分のミスなんかしたら何するかわからないから、覚悟しておいたほうがいいよ。」
彼女はその言葉に目を見開いて、が、頑張ります、と消え入りそうな声で言った。
ひとしきりその反応を楽しんだ後、俺はなるべく嫌味に聞こえないに努めて
「…でも、これは受け取れないな」
と言った。
そのとたん、彼女は楽しそうな顔を一瞬にして曇らせて聞いてきた。
「…もしかして、チョコレートお嫌いでしたか?」
俺は静かに机に肘を置いて、その手に顎を乗せて彼女を見る。
「いや?
でもこのチョコレート結構値段するだろう?」
「…それは、…そうかもしれませんけど…でもこれからはお世話になるんだし…」
「それに、何より君が一番食べたそうだ。」
「…っえ!」
「だから、これは俺が君にあげることにしよう。
気持ちはすごく嬉しかった。
改めてよろしく、立石さん。」
その言葉に彼女は少し考えたような顔をした後、まっすぐに俺を見て
「じゃあ、一緒に食べるってことでいいですか?」
と言った。
「…なんで。
君が一人で食べればいい。」
「だって、このチョコレート、昨日長い時間かけて選んだんですよ。
そのチョコレートを自分一人で食べるのって…なんか…」
「…虚しい?」
その言葉に彼女は、子供のようにこくん、と頷いて
「だから、一緒に食べませんか?」
と言った。
しばらくじっと見ていたが、俺の目線から逸らそうとしない彼女に根負けした俺は、わかったよ、と言った。
「じゃあ、包装紙を剥がしてください!」
俺は嬉しそうな表情をした彼女に言われるがまま包装紙を丁寧に破り、箱を開けて彼女に手渡そうとする。
しかし彼女は少しムッとした顔をして首を横に振ったので、小さくため息をついてから綺麗に敷き詰められた、丸く上にアーモンドスライスが散りばめられたチョコレートを一つ手にとって口に含む。
「…うん、美味しいよ。」
そう言いながら彼女の方に箱を差し出す。
彼女はそこからチョコレートを大切なものかのように慎重に取り上げ、口に含んだ。
彼女は途端に、たかがチョコレートを食べただけなのにほんとうに幸せそうな顔をして
「…美味しいですね」
と俺に語りかけた。
俺は、そうだね、と言いながら次のチョコレートに手を出す気もなく、ただ目の前の彼女を見ていた。
そんな控えめな声に気づいて、そちらに視線を向けると俺の空になったはずのマグカップは並々にコーヒーが入れられていた。
そのマグカップを遠慮がちに、俺の仕事の邪魔にならないような場所に、コトン、と置いた。
俺は少し驚きながら
「…ありがとう」
とだけ呟いて、もう一度パソコンに向き直る。
「…あ、あの…」
消え入りそうな声をどうにか聞き取り、俺がゆっくりと振り返ると、机の上には某有名チョコレート店の紙袋が差し出されていた。
「…」
「これから、たくさんご迷惑をかけると思うので…その、なんというか…あの、お詫びというか…」
…
お詫び?
思わずその言葉に少し笑ってしまう。
「まだ、しくじってもいないのにお詫び?」
彼女は伏し目がちにしながら、
「こういうのは、事前に知らせて置いたほうがいいかな…って」
と言った。
「こんないいチョコレートくれるってことは、これ相当のミスをやらかすってこと?」
「…っあ、それは、いや」
「なら今から用心しておかないとね…。
俺の秘書は何をやらかしてくれるのか楽しみだよ」
彼女は赤面して、少し頬を膨らましながら
「…案外、意地悪ですね」
と言った。
「…そうだよ。
意地悪だから、もしこのチョコレート分のミスなんかしたら何するかわからないから、覚悟しておいたほうがいいよ。」
彼女はその言葉に目を見開いて、が、頑張ります、と消え入りそうな声で言った。
ひとしきりその反応を楽しんだ後、俺はなるべく嫌味に聞こえないに努めて
「…でも、これは受け取れないな」
と言った。
そのとたん、彼女は楽しそうな顔を一瞬にして曇らせて聞いてきた。
「…もしかして、チョコレートお嫌いでしたか?」
俺は静かに机に肘を置いて、その手に顎を乗せて彼女を見る。
「いや?
でもこのチョコレート結構値段するだろう?」
「…それは、…そうかもしれませんけど…でもこれからはお世話になるんだし…」
「それに、何より君が一番食べたそうだ。」
「…っえ!」
「だから、これは俺が君にあげることにしよう。
気持ちはすごく嬉しかった。
改めてよろしく、立石さん。」
その言葉に彼女は少し考えたような顔をした後、まっすぐに俺を見て
「じゃあ、一緒に食べるってことでいいですか?」
と言った。
「…なんで。
君が一人で食べればいい。」
「だって、このチョコレート、昨日長い時間かけて選んだんですよ。
そのチョコレートを自分一人で食べるのって…なんか…」
「…虚しい?」
その言葉に彼女は、子供のようにこくん、と頷いて
「だから、一緒に食べませんか?」
と言った。
しばらくじっと見ていたが、俺の目線から逸らそうとしない彼女に根負けした俺は、わかったよ、と言った。
「じゃあ、包装紙を剥がしてください!」
俺は嬉しそうな表情をした彼女に言われるがまま包装紙を丁寧に破り、箱を開けて彼女に手渡そうとする。
しかし彼女は少しムッとした顔をして首を横に振ったので、小さくため息をついてから綺麗に敷き詰められた、丸く上にアーモンドスライスが散りばめられたチョコレートを一つ手にとって口に含む。
「…うん、美味しいよ。」
そう言いながら彼女の方に箱を差し出す。
彼女はそこからチョコレートを大切なものかのように慎重に取り上げ、口に含んだ。
彼女は途端に、たかがチョコレートを食べただけなのにほんとうに幸せそうな顔をして
「…美味しいですね」
と俺に語りかけた。
俺は、そうだね、と言いながら次のチョコレートに手を出す気もなく、ただ目の前の彼女を見ていた。
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