社内で秘密の恋が始まる

美桜羅

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6*雫サイド*

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コーヒーを入れて、席に戻った私をキーボードを打つ手を止めた松永さんはちらっと見て
「手伝うよ。」
と言った。

どうせすぐ出すんだから、と荷物を乱雑に詰め込んでいた私はごちゃごちゃな箱の中を見られるのも恥ずかしく、また秘書としての能力を疑われるかもしれないという不安から
「だ、大丈夫です!
そんなに多くもないし、始業までには片付けられると思いますので気にしないでください。」
と断った。

すると松永さんは綺麗な眉毛を少し寄せた後
「…そう。」
と言って、それからは無言でパソコンに向かって仕事をしていた。

私は松永さんの仕事の邪魔をしないように気を使いながら、どうにか荷ほどきを終える。

その間に沢山の社員が出社して来たので、私は挨拶をしながらの荷ほどきだったのだが、一つ驚いたことがある。

出社して来た社員たちは例外なく松永さんに朝の挨拶をしたことだった。

もちろん松永さんは目の前のパソコンから目線を外すことはなく、また挨拶を返すこともないのだが社員たちはそんなの気にも留めない、むしろ当然くらいの顔持ちで挨拶をして行くのだった。

また、松永さんも挨拶に対して、うるさい、だとか言うこともなかった。

他の部署でも松永さんのような人は少なからずいるのだが、そう言う人に対して周りはその人の仕事の邪魔をしないよう、息を殺すかのように横や後ろを通って行く。

私はまるで何もなかったかのような顔をしている松永さんの横顔を盗み見ることしかできなかった。




意外と荷ほどきが終わるのがギリギリになってしまった私は、急いで更衣室に行き割り当てられたロッカーの前で制服に着替え昨晩百貨店で買っておいたチョコレートを持って席に戻る。

相変わらずパソコンに向かい続けてる松永さんの腕の横にあった空のマグカップを手に持ってお茶室に入ると、私と同じ制服を着た私と同じぐらいの歳だと思われる女性が二人同じようにマグカップにコーヒーを入れていた。

その二人は私を見ると話をやめ、少し考えたような顔をしてそれからすぐにハッとしたような顔になると
「…っあ、松永さんの?」
と聞いてきた。

その問いに対して私は
「あ、はい。
今日から松永さんの専属秘書になった、立石です。」
と言いながら軽くお辞儀をする。

すると先程聞いてきた女性が
「立石さん!
よし、覚えた!これから大変だろうけど頑張ろうね!」
と言った。

それに対して横の女性も、うんうんと頷き、
「コーヒー入れにきたんだよね?
もしよかったら残ってるから使って!」
と言ってくれた。

「え、あ、ありがとうございます」
と私が思わず微笑むと、二人は顔を見合わせて
「…なるほどねぇ。」
「やっぱりね!」
などと話している。

その会話の意味がわからず、首をかしげると二人は、なんでもないの、と言って
「もしよかったらお昼一緒に食べに行こうね」
と言い残して出て行った。

二人の会話はよくわからなかったが、気遣いが嬉しくてこれから始まる秘書生活に少し浮き足立ちながらコーヒーを入れた。
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