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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

二大国大戦ーその⑩

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エドワード・デューダレア三世はいよいよ、マリアの身柄を確保できたと知り、思わず口元を緩める。
「ふふふふふ、笑いが止まらんな、余としては、これ以上の流血を望まぬ、お前たちが降伏するのならば、命だけは助けてやってもいいぞ」
マリアはエドワードの申し立てを拒絶するかのように睨みつける。
「お断りよ、あんたに降伏したら、この戦いで死んでしまった兵士たちに申し訳が立たないわ、それに国民にも……」
マリアのその言葉を聞くなり、エドワードは大声で笑い出す。
「あっははははははは~!そんなくだらん理由でキミは命を捨てるのかね?キミが私の提案に首を振りさえすれば、今すぐにでもキミの縄を解き、戦争が終わるまでこの船でお客様としての待遇を受け、その後は我が帝国の貴族として悠々自適に過ごせるのだぞ、キミには特別に公爵夫人の称号を与えてやってもいいな」
エドワードはまるで値踏みするようにマリアの顔を見つめていたが、マリアは黙ってエドワードの顔から瞳を逸らす。
「分からんな、お前も……」
エドワードが自らの顎に親指と人差し指を当てていた時だ。
「たっ、大変ですッ!陛下ッ!周りで護衛を務めているガーゴイルたちが次々と倒されておりますッ!」
エンマの言葉にエドワードは信じられないという風に眉をひそめた。
「あのガーゴイルが……そんなバカな?」
エドワードは確かめるために船室から、甲板の上へと上がる。
「なっ、全滅だと!?」
兵士の言葉は嘘ではない。自分たちの船を待っていた筈のガーゴイルが一体も見当たらないのだ。
「まっ、まさか……ヴィトなる男が、これ程の所業を起こしたとでも言うのか!?」
エドワードが叫んだ瞬間に彼の頰を銃弾が掠めた。
「その通りだ……マリアを奪還するのに邪魔だったもんでな、可愛そうだが、地面に叩きおとさせてもらった」
エドワードはヴィトの姿を見るなり、何と大声で笑い出したのだ。
「何がおかしい?」
「いやいや、これまで余の野望を散々打ち砕いてきた男の正体が、こんな小僧だとは思わなかったものでな、ふふふ、黒髪の……余を倒すつもりか?」
ヴィトは坊やという呼び方を強調したエドワードの態度に苛立ちを覚えたが、すぐに落ち着き払った態度を取り戻し、ヴィトにサーベルの先端を向ける。
「そのつもりで来た……お前を倒し、マリアを取り戻すッ!」
ヴィトは自分の剣を黄金色に輝かせると、そのままエドワードに向かい突っ込む。
「ふんッ!」
エドワードはヴィトの決死の突撃を嘲笑うかのように剣に一振りで防御する。
その一振りの勢いは凄まじく、エドワードの剣から風を切る音がヴィトの耳を壊すくらいであった。
「聞けば、お前はルカとの抗争でほんの数ヶ月前から使い始めたと聞くのだが……間違いはないか?」
ヴィトはエドワードの質問に反論をしないという消極的な方法で肯定した。
「ふふふ、お前の腕を見れば、よく分かるさ、お前はその剣が無ければ、全くと言って強くない……違うか?」
ヴィトは依然沈黙を守ったままだ。
「答えられんらしいな、お前はやはり弱い、だからこそ、余はお前を……」
ここで、エドワードの言葉を切るようにヴィトが口を開く。
「勘違いするな、お前の勝手な解釈でオレを判断してもらっては困るな、オレを見くびり過ぎるのもいかんぜ、オレはな、『ローンレンジャー』で例えれば、悪党の保安官やならず者かもしれんし、お前は『ローンレンジャー』のジョンからもしれん……だけどな、覚え時な、悪役がヒーローを倒す時だってあるんだぜ」
ヴィトはギャングの人間だ。それは否定できない事実だし。
また、彼の性格的な難点ーーー心にある優しさを除けば、彼はギャングなるべき人間だっただろう。彼の冷静な性格はマフィア組織の相談役コンシリエーレとして最適であったに違いない。
だが、愛する人を救うヴィトの姿は到底ヒーロー映画に出てくる悪役には見えない。
彼は先ほど自分は悪党だと言ったが、実際にこの状況を第三者が判断すれば、ヴィトはヒーローに。エドワードや帝国兵たちは悪役に見えただろう。
「ふふふ、ろーんれんじゃー?何を言っているのかは知らんが、お前は悪党なのだな?平民の黒髪の小僧よ、ならば……」
エドワードはサーベルを横にしてヴィトに突っ込む。
それから、ヴィトの目の前でサーベルを縦の向きに変更し、襲い掛かりながら叫ぶ。
「殺してしまっても構わなッ!平民の小僧よッ!」
エドワードは口元を緩めている。
ヴィトはエドワードとは正反対に歯をギリギリと噛み締めている。
「余の剣を受け取るとは……中々見込みがある奴だ……気に入ったッ!お前さえ良ければ、次の帝国宰相にならんか?ヘンプは今やお前の元いた世界で政府転覆のための行動に忙しいだろうし、お前さえ良ければ貴族の位を……」
だが、ヴィトは口元を緩めて呟く。
「おいおい、バカにするなよ、オレは腐っても王国の騎士だし、ファミリーの相談役コンシリエーレだぜ、お前にも一つ分かるように言ってやるとだな、お前に着く気はさらさらない……それだけは言っておくよ」
エドワードはそれを聞くなり、残念そうな瞳をしたが、すぐに正気を取り戻し、ヴィトへの剣に持つ力を強くした。
「ふふふふふ、お前も頑固だな、何故お前は余の情けを受け取らないのだ?」
「オレはな、例えアメリカ大統領やアラブの王室からいい条件を提示され勧誘されても、絶対に寝返らんぜ、オレはカヴァリエーレ・ファミリーとフランソワ王国に忠誠を誓ったんだからなッ!」
ヴィトの言葉は力を持っているのと同時にこれからもエドワードからその話を振られても、絶対に納得しないという説得力を持っていた。
「残念だよ、我々にはキミを存分に迎え入れる用意を考えていたんだがねッ!」
エドワードはヴィトから一旦剣を離し、それから、再びヴィトに剣を振り上げる。
ヴィトは剣を自らの剣で防ぎ、そのままエドワードに反撃に転じる。
だが、エドワードは今度は自らのサーベルでヴィトの攻撃を防ぎ、ヴィトに向かって微笑む。
「ふふふ、後悔しても知らんぞ」
エドワードの言葉は一種の脅迫概念があったのだが、ヴィトがそれに動じるそぶりは一つも見えなかった。
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