120 / 133
第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ
二大国大戦ーその⑥
しおりを挟む
ヴィトは男を捕えると、自分たちの陣地へと連れて行く。
「ヴィト……無事だったのね !」
マリアは無事に帰還したヴィトを見るなり、安堵の涙を出した。
「勿論さ、オレは王国最強の騎士だぜ、オマケにお礼も」
ヴィトは自分の手により手を抑えられているギシュタルリア帝国の鎧を着た兵士を突き出す。
「オレと戦っていた敵さ、捕虜にした。唇を怪我しているのは、戦いの名残なんだ。コイツからは色々と有力な情報を聞きだせる筈だぜ」
ヴィトは口元を緩める。
「助かるわ、後は他の兵士に引き渡して……と言っても、戦闘が始まっているから、あまりいないと思うけど」
マリアがそわそわと人差し指で唇をいじっていると、そこに鎧に身を包んだグラントが現れた。
「オレがいるぜ、相談役……ソイツはオレに任せてください」
グラントは散弾銃を片手に呟く。
「いいだろう、お前に任せる。コイツから有力な情報を引き出すんだ。いいな」
ヴィトの言葉にグラントは首を縦に振る。
「よし、オレは戦闘に戻るぜ、と言ってもシャツにズボンなんて格好の兵士はオレだけだろうがな」
ヴィトは苦笑した。
「そうかもしれないわね、そう言えばアンタがいつも着てた妙な青色の上着二つと首に掛けていた妙なものはどうしたの?」
マリアの質問にヴィトは背広とネクタイとコートと自慢の中折れ帽を宿屋に置いてきたのを思い出す。
「しまった。今の今までこの姿に慣れていたから、宿屋に忘れてきたのを忘れちまっていたよ !」
ヴィトはため息を吐きながら、左手で自分の額を覆う。
「まぁ、その方が戦いやすいと思うけど」
マリアの言葉にヴィトは確かにその考え方があったなと手を叩く。
「そうだな、オレとしてはこの方が動きやすいかもな」
ヴィトは困ったような笑みを浮かべた。
ギシュタルリア帝国皇帝エドワード・デューダレア三世は、思わないように進まない戦闘に苛立ち、自分の豪華なーーー恐らくかつての異世界の臣下ルカ・ミラノリアから取り上げたと思われるチョコレート色の立派な社長机の上をトントンと叩いている。
「なぁ、エンマ……お前はこの戦況についてどう考える?」
今は異世界にて彼の先兵として侵略を進めているヘンプの代理を務めている帝国宰相ーーーエンマ・フォン・コルスタピッツは自身の上司であるエドワードの質問に的確な答えを出してやる。
「そうですね、予想外にフランソワ王国軍の抵抗が激しいのあるのでしょうが……わたくしは王国最強の騎士と王国騎士団の団長が異世界より帰投したのだと考えておりますわ」
エンマの答えにエドワードは思わず目を輝かせる。
彼が考えていた答えと同様だったためだ。
「そうだな、お前も余と同じ考えか、安心したぞ、だかな一つだけ忘れている事があるな……」
エドワードは帝国宰相代理に自分のもう一つの可能性を教えてやる。
「それはだな、マリア・ド・フランソワ……あの女が戦場に前線に立っている事だ。考えてもみたまえ、仮に人気の無い君主が前線に立ったとしようか……エンマ、お前ならその君主に従って戦場で戦うか?」
エドワードの言葉にエンマは首を横に振る。
「だろうな、余が考えているのは、マリアが国民や兵士に人気の高い君主になったという事だ……余は最初はエリザベスのような小物かと思うたが、違うようだ」
エドワードは机の横に置いてある棚から一本のぶどう酒を持ち出す。
「エンマ……悪いが、グラスはあるか?」
エンマはエドワードの問いかけに慌てて答えた。
「すみません !今すぐにお持ち致しますわ !」
エンマは慌ててグラスを取りに行く。
「お待たせして申し訳ありませんわ、グラスです。陛下……」
エンマは綺麗に施されたグラスをエドワードにうやうやしく差し出す。
「うむ、このぶどう酒は特別でな、エルフの奴らが一年に一回しか取れない貴重なぶどうを作って作った限定のぶどう酒よ、友好の印にエルフの王が献上しおったのだ」
エドワードはエンマに注がれたぶどう酒を一気に飲み干す。
「うむ、流石一年に一回しか取れんぶどう酒だ……美味いの一言では表せんかもしれんな……」
エドワードは飲み終わった後も名残惜しそうに僅かに下に溜まったワインを眺めている。
「陛下……よければ他におつまみなどもお持ち致しましょうか?」
エンマの言葉にエドワードはワイングラスを机に置いて首を横に振る。
「いいや、今は腹が減っておらぬ、それに食事の前につまみを食べるのはいけない事だ。晩の食事が腹に入らなくなる。それは余に食事を作ってくれる料理人に失礼だろう?」
エドワードの言葉にエンマは口元を緩める。
「そうですわね、それを考えていませんでしたわ、私とした事が随分と思慮が足りないものでした」
エンマは自分を卑下するように笑ったが、エドワードは部下にその笑いを辞めるように目の前で手を広げてみせる。
「気にする事はないさ、それよりもだ。今後の情勢はどうなるかだな」
エドワードは自分の豪華な回転機能のついた革張りの椅子に全身を預ける。
「陛下、一つお尋ねしますが……その椅子も例の別世界の部下から献上されたもので?」
エンマの言葉にエドワードはうむと息をするような調子で答えた。
「あの男は余がそれを欲しいと言えば、何でも献上したな、ヘンプにやった珍しい時計も元々はあの男の物だった」
エドワードは机の上にある物や棚に飾ってある小物などに目をやる。
「随分と気前の良い男なのですね、陛下に命じられれば、何でも献上なさるなんて」
エドワードはエンマの言葉に大声で笑い出す。
「いいや、あの男は怖がりなだけさ、それとも余に媚びたつもりだったのかもしれん……いずれにせよ、王に相応しい男でないのは確かだ。あの男は人に媚びを売る才能はあるのだが、それ以外には何もない小物だ」
エドワードはかつての部下相手に厳しい言葉を呟く。
「だかな、奴の部下はくせ者揃いだったな、特にメアリー・クイーンズなる女が恐ろしかった。頭も切れる上にエルフの魔法も使えた。奴が生きていれば、この戦況も変わっていただろうな……」
エドワードは自分の机に視線を落とす。
「ヴィト……無事だったのね !」
マリアは無事に帰還したヴィトを見るなり、安堵の涙を出した。
「勿論さ、オレは王国最強の騎士だぜ、オマケにお礼も」
ヴィトは自分の手により手を抑えられているギシュタルリア帝国の鎧を着た兵士を突き出す。
「オレと戦っていた敵さ、捕虜にした。唇を怪我しているのは、戦いの名残なんだ。コイツからは色々と有力な情報を聞きだせる筈だぜ」
ヴィトは口元を緩める。
「助かるわ、後は他の兵士に引き渡して……と言っても、戦闘が始まっているから、あまりいないと思うけど」
マリアがそわそわと人差し指で唇をいじっていると、そこに鎧に身を包んだグラントが現れた。
「オレがいるぜ、相談役……ソイツはオレに任せてください」
グラントは散弾銃を片手に呟く。
「いいだろう、お前に任せる。コイツから有力な情報を引き出すんだ。いいな」
ヴィトの言葉にグラントは首を縦に振る。
「よし、オレは戦闘に戻るぜ、と言ってもシャツにズボンなんて格好の兵士はオレだけだろうがな」
ヴィトは苦笑した。
「そうかもしれないわね、そう言えばアンタがいつも着てた妙な青色の上着二つと首に掛けていた妙なものはどうしたの?」
マリアの質問にヴィトは背広とネクタイとコートと自慢の中折れ帽を宿屋に置いてきたのを思い出す。
「しまった。今の今までこの姿に慣れていたから、宿屋に忘れてきたのを忘れちまっていたよ !」
ヴィトはため息を吐きながら、左手で自分の額を覆う。
「まぁ、その方が戦いやすいと思うけど」
マリアの言葉にヴィトは確かにその考え方があったなと手を叩く。
「そうだな、オレとしてはこの方が動きやすいかもな」
ヴィトは困ったような笑みを浮かべた。
ギシュタルリア帝国皇帝エドワード・デューダレア三世は、思わないように進まない戦闘に苛立ち、自分の豪華なーーー恐らくかつての異世界の臣下ルカ・ミラノリアから取り上げたと思われるチョコレート色の立派な社長机の上をトントンと叩いている。
「なぁ、エンマ……お前はこの戦況についてどう考える?」
今は異世界にて彼の先兵として侵略を進めているヘンプの代理を務めている帝国宰相ーーーエンマ・フォン・コルスタピッツは自身の上司であるエドワードの質問に的確な答えを出してやる。
「そうですね、予想外にフランソワ王国軍の抵抗が激しいのあるのでしょうが……わたくしは王国最強の騎士と王国騎士団の団長が異世界より帰投したのだと考えておりますわ」
エンマの答えにエドワードは思わず目を輝かせる。
彼が考えていた答えと同様だったためだ。
「そうだな、お前も余と同じ考えか、安心したぞ、だかな一つだけ忘れている事があるな……」
エドワードは帝国宰相代理に自分のもう一つの可能性を教えてやる。
「それはだな、マリア・ド・フランソワ……あの女が戦場に前線に立っている事だ。考えてもみたまえ、仮に人気の無い君主が前線に立ったとしようか……エンマ、お前ならその君主に従って戦場で戦うか?」
エドワードの言葉にエンマは首を横に振る。
「だろうな、余が考えているのは、マリアが国民や兵士に人気の高い君主になったという事だ……余は最初はエリザベスのような小物かと思うたが、違うようだ」
エドワードは机の横に置いてある棚から一本のぶどう酒を持ち出す。
「エンマ……悪いが、グラスはあるか?」
エンマはエドワードの問いかけに慌てて答えた。
「すみません !今すぐにお持ち致しますわ !」
エンマは慌ててグラスを取りに行く。
「お待たせして申し訳ありませんわ、グラスです。陛下……」
エンマは綺麗に施されたグラスをエドワードにうやうやしく差し出す。
「うむ、このぶどう酒は特別でな、エルフの奴らが一年に一回しか取れない貴重なぶどうを作って作った限定のぶどう酒よ、友好の印にエルフの王が献上しおったのだ」
エドワードはエンマに注がれたぶどう酒を一気に飲み干す。
「うむ、流石一年に一回しか取れんぶどう酒だ……美味いの一言では表せんかもしれんな……」
エドワードは飲み終わった後も名残惜しそうに僅かに下に溜まったワインを眺めている。
「陛下……よければ他におつまみなどもお持ち致しましょうか?」
エンマの言葉にエドワードはワイングラスを机に置いて首を横に振る。
「いいや、今は腹が減っておらぬ、それに食事の前につまみを食べるのはいけない事だ。晩の食事が腹に入らなくなる。それは余に食事を作ってくれる料理人に失礼だろう?」
エドワードの言葉にエンマは口元を緩める。
「そうですわね、それを考えていませんでしたわ、私とした事が随分と思慮が足りないものでした」
エンマは自分を卑下するように笑ったが、エドワードは部下にその笑いを辞めるように目の前で手を広げてみせる。
「気にする事はないさ、それよりもだ。今後の情勢はどうなるかだな」
エドワードは自分の豪華な回転機能のついた革張りの椅子に全身を預ける。
「陛下、一つお尋ねしますが……その椅子も例の別世界の部下から献上されたもので?」
エンマの言葉にエドワードはうむと息をするような調子で答えた。
「あの男は余がそれを欲しいと言えば、何でも献上したな、ヘンプにやった珍しい時計も元々はあの男の物だった」
エドワードは机の上にある物や棚に飾ってある小物などに目をやる。
「随分と気前の良い男なのですね、陛下に命じられれば、何でも献上なさるなんて」
エドワードはエンマの言葉に大声で笑い出す。
「いいや、あの男は怖がりなだけさ、それとも余に媚びたつもりだったのかもしれん……いずれにせよ、王に相応しい男でないのは確かだ。あの男は人に媚びを売る才能はあるのだが、それ以外には何もない小物だ」
エドワードはかつての部下相手に厳しい言葉を呟く。
「だかな、奴の部下はくせ者揃いだったな、特にメアリー・クイーンズなる女が恐ろしかった。頭も切れる上にエルフの魔法も使えた。奴が生きていれば、この戦況も変わっていただろうな……」
エドワードは自分の机に視線を落とす。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる