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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

世界審判教の乱心ーその⑧

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「お前は言うのならば、前座に過ぎない、真の狙いはお前らのテロでアメリカの政府がガタガタになった後に異世界からエドワードが攻め入る作戦なんだろ?」
ヴィトの指摘は図星だったのか、ヘンプは苦笑いを浮かべている。
「キミはそこまで推測したのかい?感心だよ、我々の狙いはそこにあるんだよ、あの事件はこれから起きる作戦の前振りに過ぎない、真の狙いは我々の暴動を収めるために駆け付けてくるFBIやCIAの奴らを片っ端からぶっ殺す事さッ!」
ヘンプは剣をヴィトの剣に合わせ、左右や上下に動かしながら言った。
「なら、アメリカ政府のお偉いさん方が来る前にお前を殺さなければな」
ヴィトの言葉にヘンプは大笑いを出した。
「はっはっはっはっはっはっ~!無理だよ、ヴィトくん !いくらキミでもね、私を倒すというのは不可能に近いと思うんだ。私の魔法は三種類だよ、爆発に水にそれから、回復だ……キミのチンケな雷やら光やらで私を倒せるのかい?それに……」
ヘンプはそれから、息を大きく吸うと近くの信徒たちを呼びつける。
「お前たち !ヴィトの小僧を殺してしまえ !コイツは聖なる我らが神の敵だッ!」
その言葉に狂信者たちはヘンプ万歳とゴッドーゴール万歳を叫びながら、ヴィトとヘンプが剣での斬り合いを続けている二人に向かってくる。
「そうだッ!殺してしまェェェェェェ~!」
狂信者の一人が、ヴィトとヘンプの斬り合いの近くに寄ってこようとした瞬間だ。
「やれやれ情けない、アメリカの市民というのはこんなに卑怯なの?」
男はその言葉を認識すると同時に自分が地面に倒れていくのを感じた。
「オウ !キミが!?」
「ヴィト !わたしの方はいいから、アンタはヘンプの奴に集中しなよ」
オウは元々持っていたのか、中国の武具であるヌンチャクを取り出し、威嚇するように振り回している。
「さてと、誰からくる?」
オウの澄ました顔が気に入らなかったのか、一人の狂信者の男がオウに向かってナイフを持って突撃してくる。
「ナイフか、今のわたしには無意味なんだよね、だってヌンチャクを持たせたら……」
言い終わる前にオウのヌンチャクは男を跳ね飛ばしていた。
「チェンだって敵わないってリュー老師に言われたんだものッ!」
オウはヌンチャクを持って相手を威嚇しながら狂信者たちに脅すように大声で説明する。
「だとさ、アンタの信者は当分アンタを助けには来られんようだ」
ヴィトの言葉にヘンプは初めて余裕の表情を崩し、青筋を立ててヴィトに本気の一撃を振り下ろす。
「これがお前の本気ってか?」
ヴィトは反射的に自分の剣を横に向けさせる事でヘンプの剣を防ぐ。
「お前はどこまでも私を馬鹿にして……許さんッ!ゴッドゴールであり、唯一彼らと話ができる私を……」
それから、ヘンプは怒りに満ち溢れた表情で剣を何度も上下に振りながら叫ぶ。
「この州で一番の大学を主席したこの私に、たかが高校を出たくらいの能無しがよくも私を~ッ!」
「それがどうしたッ!」
ヴィトはヘンプを自分の剣で跳ね飛ばし、ヘンプに再度斬りかかりながら叫ぶ。
「今の状況に学歴もカリスマ性も神様も必要ねえ !必要なのは……」
ヴィトはヘンプの剣を跳ね飛ばす程の大きな斬撃を放ちながら叫ぶ。
だッ!それが分からないようならよぉ~家で大人しく宇宙人とやらと交信してなッ!」
ヘンプは恐怖に駆られ、這いずりながらも逃げようとする。
「うっ、うわァァァァ~!神様ッ!神様ッ!」
みっともなく逃げようとする彼の姿はとても全米一の新興宗教のカリスマ教祖ととは思えない姿であった。
「お前の負けだ……オレはこれから異世界に行く……マリアを……オレの大切な人を守るためにな……」
ヴィトの言葉に怯えながら、ヘンプはその場に崩れ落ちる。
「さてと……最後にお前の処分だよ、お前がそんな風に戦意を消失して剣も失えば、魔法も使えんだろうからな……」
ヴィトは懐から拳銃を取り出す。
「なっ、私を殺す気か!?」
ヘンプは狼狽えるような声を上げたが、ヴィトはどういうわけか拳銃の弾倉から弾を取り出し、その場に捨て去る。
「私を殺すんじゃあないのか!?」
「お前を裁くのは司法だ。少なくともお前はアメリカ政府の手によって裁かれ、重い罰を喰らうのは確実だろうな、分かったのなら、そこで失望した信者とともにパトカーが来るのを待つんだな」
ヴィトはそう言うと振り向くことなく立ち去る。
後にヴィトへの恐怖とこれから自分に起こるであろう裁判等に精神を病んでしまったヘンプとかつての教祖への軽蔑の目を向ける信者だけが残された。

オウは信者たちが自分に襲い掛かってこなくなったのをキッカケにヌンチャクを仕舞い、ヴィトの後を追いかける。
「お疲れ様 !あんたも大変だったね、今日は三龍会と戦ったり、あんな奴らを相手にしたり……」
「いいや、大変なのはこれからさ、オレはこのままフランソワ王国に向かうんだ。冬の夜は冷えるからな、早めに暖かい空気のあるフランソワ王国に行きたいよ」
ヴィトの言葉にオウはポンと肩を叩く。
「まぁ、今日は寒いからね、それよりもさっきあんた何て言ったんだい?」
ヴィトはさっきの言葉が聞こえていた事を知り、赤面する。
「おっ、お前……どうしてそれを……」
「やだなぁ~あんな大きい声で叫んだら、あの場にいた人間は誰でも気付くって」
オウの笑うような声にヴィトは苦笑しながら、屋敷までの長い道を歩いて行く。

ジムとジョージはルーシーを連れて先ほど街の住民から、ヴィトとヘンプらしき男が暴れているという通報を聞き、現場に急行した。ルーシーを同席させたのは本当にヴィトかどうかの確認を取るためだ。
「うん、これは間違いなくライター・ヘンプだね、テレビで見た顔だから間違いないよ」
ジムは分厚い丸渕のメガネを上下させながら言った。
「となると、こいつかい?」
ジョージはジムに尋ねた。
「そうだよ、間違いないよ……精神をやられてるみたいだけど、近くのテレビ局に連れて行くよ、そこでまだ暴れてる信徒たちに呼びかけてもらわないと」
ジムがそう言うと同時にルーシーも同時に口を開く。
「なら、わたしも釈放してくれないかしら?屋敷にヴィトがいるかもしれないから」
「いいよ、キミの容疑は一応晴れたしね」
ジムは即答した。
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